優生学
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1921年に開催された第2回国際優生学会のロゴマーク。優生学がさまざまな分野を束ねる木として描かれている[1]

優生学(ゆうせいがく、: eugenics)は、「優良な遺伝形質」による人々の向上を目指す学問[2]思想[3][4]哲学[3][4]運動[4][5]疑似科学などを指す言葉[6][5][7]ダーウィンの進化論に影響されたフランシス・ゴールトンが主導した[2][注 1]

“eugenics”の和訳は「優生学」の他に「優生思想」[9][10][11]、「優生主義」[12][10][4]
概要
「優生学」の定義・解説

出典定義・解説
日本語辞典『
広辞苑』優生学〔…〕人間集団の質的向上を目的に、優良な遺伝形質の保存・改善を研究する学問[2]
百科事典『ブリタニカ百科事典』優生学とは、将来の世代の改良のために望まれた遺伝的特徴を選択することであり、典型的には人類を対象とする。〔…〕20世紀前半において、とりわけナチス・ドイツが「社会的に劣等」と捉えた人々の絶滅を促進するために優生学を用いた以降、優生学は科学として破綻した[6][注 2]
『哲学・思想事典』優生学〔…〕人間の遺伝的改善や劣化の防止を実現しようとした思想.〔…〕ゴルトンによれば,優生学とは人間の遺伝的質とその改良に関わるあらゆる要因の研究を意味する[3]
『イギリス哲学・思想事典』優生学(優生主義)とは、19世紀後半のイギリスを震源として〔…〕人間集団の遺伝形質の改善を図ろうとした思想運動をいう[4]社会ダーウィニズム〔社会進化論〕と優生学、あるいは人種主義とは混同されてはいけないが、これらが密接な関係にあることは指摘されなければならない[13]
学術誌『学術の動向』の論文「ゲノム編集技術を用いた生殖補助医療における女性の身体のポリティクス」優生学(eugenics)は、「望ましい性質」と「望ましくない性質」を遺伝概念と結びつけ、子の遺伝的質のコントロールを目指す思想及び実践である。優生学は19世紀末にイギリスで提唱され、その後国際的に普及した。しかし、人種差別や階級差別を遺伝決定論によって正当化したとして、20世紀後半には疑似科学であると批判されるようになった[5]
学術誌『自然科学』の論文「疑似発生学と個人性」優生学はアメリカ的大衆文化に影響した(そして今でも影響している)疑似科学だったのであり、人種主義的な反移民法の原因となった[7][注 3]

ニッポンドットコムで科学史家の米本昌平が言うには、優生学とは、19世紀末から20世紀半ばにかけて多くの先進国で受け入れられてきた考え方で、進化論遺伝学を人間に当てはめ、集団の遺伝的質の向上や劣化防止を目指す政策論である[14]。優生学の実践には歴史的に、「生殖適性者」に生殖を促すという積極的なものと、「生殖に適さない人」への結婚禁止や強制不妊手術(断種)などの消極的なものがある[15]。「生殖に適さない」とされた人々には、障害者や犯罪者、少数民族が含まれることが多かった[16]

優生学にもとづいた政策は特にアメリカドイツ北欧スイスカナダ日本で広く実施された[要出典]。日本では「国民優生法(1940 - 1948)」「優生保護法(1948 - 1996)」に基づき、精神疾患ハンセン病患者の断種手術や人工妊娠中絶が行われていた[17][14]

1980年代から1990年代にかけて、体外受精着床前診断出生前診断など、新しい生殖補助医療が利用可能になり、優生学がより強力な形で復活する可能性がある[18][19][20]。近年、ゲノム編集遺伝子検査などの新技術の利用をめぐる生命倫理的な議論において、これらの技術を優生学と呼ぶべきかどうか、激しい議論が行われている[21][22]
概史

生殖管理により人種を改良する、という発想は、プラトンにまで遡ることができるが[23]、学問として成立したのは19世紀末から20世紀初頭にかけてであり、優生学(eugenics)という言葉は1883年フランシス・ゴルトンが定義した造語である[23][24]。ゴルトンは、従兄弟のチャールズ・ダーウィンが1859年に著した『種の起源』から影響を受けた[25]フランシス・ゴルトンは初期の優生学主義者であり、この言葉自体を造語した

優生学の目的は、遺伝による人類の定性的(非定量的)向上[2]、または思想的・哲学的な遺伝の改善や劣化防止等とされる[3]。これらの目標を達成するための手段として、産児制限・人種改良・遺伝子操作などが提案された。優生学は20世紀前半に先進国の多くの有力者や知識人に支持され[26]、その中にはアレクサンダー・グラハム・ベルジョン・メイナード・ケインズジョージ・バーナード・ショーセオドア・ルーズベルト、若かりし頃のウィンストン・チャーチルが含まれる[27]

当時、精神障害は遺伝であると漠然と考えられ、それらの人々は一般の人よりも子供を多く作ると信じられていた。それゆえ精神障害者が増加して逆淘汰が起きると懸念され、それを回避するために優生学的な施策が求められた[28]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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