偽主人公
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フィクションにおける偽主人公(にせしゅじんこう)とは、文学的技法であり、立場を偽って主人公のように振る舞う登場人物である。

構造主義物語論において、偽主人公(: False hero)とは、物語の終盤において他の登場人物あるいは大衆に対し、主人公の手柄を自分のものであると主張するなど、不当な要求によって主人公の成果を横取りしようとする登場人物のことを指す。このような偽主人公は、物語の結末において偽者であることが露呈し、処罰を受ける役割を担う。

また、物語の冒頭において主人公のように登場し、後にそうでないと明かされることで、観客を驚かせるための登場人物も、偽主人公(: False protagonist)と呼ばれることがある。このような登場人物は、しばしば観客の先入観に逆らうことによって、プロットをより引き立たせたり、より記憶に残るものにしたりするために登場する。この場合の偽主人公は、当初は観客に対して主人公のように振る舞うものの、その後その役割から外され、しばしば殺されたり、物語の中で別の役割に追いやられたりする。
登場人物を騙す偽主人公

ソビエト連邦の昔話研究家ウラジーミル・プロップは、ロシアに伝わる魔法を題材にした昔話を収集して分析するうち、収集した全ての昔話には決まった物語の類型があり、決まった順序で起こる31種類の出来事(31の機能分類)と、7種類の役割の登場人物(7つの行動領域)に収斂されることを発見して、そのことを1928年の著書『昔話の形態学』の中で発表した[1][2][3]。この7種類の役割の登場人物が敵対者、贈与者、助力者、王女、派遣者、主人公、そして偽主人公である[2][3]

プロップが発見した昔話の類型において、主人公は探求あるいは被害の解消のために派遣され、試練を受けて解決手段を贈与され、敵対者と戦ったり、あるいは何らかの成果の印を残したりする[1][2][3]。そして帰路についた主人公を待ち受けるのが、不当な要求によって主人公の成果を横取りしようとする偽主人公との対立である[1][2][3]。偽主人公は主人公と同じように出発するが、試練において否定的な回答を示し、しかし手柄を立てたのは自分であると嘘の主張をするのである[3]。しかし偽主人公の要求は「主人公の発見」「偽主人公の正体の露見」「主人公の変身」「偽主人公の処罰」という順序の段取りを経て挫かれる[1][2][3]。偽主人公を退けた主人公は、偽主人公の嘘を見抜いて処罰に協力した王女と結婚したり、王位に即位したりする結末を迎える[1][2][3]

プロップの類型は魔法が登場するロシアの昔話を基にした類型であり汎用性に欠ける部分もあるものの[3]、この31種類の出来事と7種類の役割に具体的な内容を埋めていくだけで、誰でも比較的簡単に物語のあらすじを作ることができる[1][2][3]。偽主人公は敵対者とひとまとめにされる場合もあるものの[3]、成功したファンタジー作品にはプロップが発見した類型に当てはまるものが多く見られ[2]、実際にこの類型を意識した作劇がなされることもある[3]

プロップの類型のうち、偽主人公が登場する部分だけが物語に組み込まれる場合もある[4]。例えばスーパーヒーローものでは偽ヒーローが登場するエピソードが定番となっており[5]、しばしば主人公と同じ姿や同じ能力を与えられたスーパーヴィランが、主人公に成り済まして悪行を行ったり、主人公に戦いを挑んだりして、能力の模倣だけでは再現できない主人公との資質の差を浮き彫りにするエピソードが描かれたりする。
登場人物を騙す偽主人公の例
民話・昔話

シンデレラ』に登場するふたりの姉は、舞踏会で王子が見初めた女性は自分であると主張し、主人公であるシンデレラに成り代わろうとするが、偽者であることを見破られる。ここでは、シンデレラが舞踏会で残した靴(ペロー版ではガラスの靴)が主人公による成果の印(印づけ、標づけ)となっており[2]、偽主人公である姉たちはこの靴を履くことができない。

漫画

岩明均による漫画『
寄生獣』の物語は、プロップが示した物語の構造をなぞる形になっていることが指摘されている[6]。同作には主人公と同様、寄生生物に寄生された人間を見分ける能力を持つ浦上という人物が登場するが、その能力は快楽殺人を繰り返す過程で身につけたものである。漫画の終盤で、浦上は殺人者である自分こそが人間の本質の体現者だと主張し、主人公に承認を迫るが、それをヒロインの村野里美に否定され、主人公に敗れる。

MADARA PROJECTによる漫画『魍魎戦記MADARA』の原作を手掛けた大塚英志は、同作の後半の物語にはプロップが示した昔話の文法を取り入れていると明かし、主人公と対立する登場人物の影王に、偽主人公の役割を担わせていると説明している[4]

テレビドラマ・特撮

1971年に放送された特撮ドラマ『
仮面ライダー』では、第92話から第93話にかけて、主人公である仮面ライダーと同じ姿と同等の能力を持つ悪の怪人、ショッカーライダーが登場する[5]。本物と偽者は手袋やマフラーの色の違いで本物と区別することができる[5]

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出典検索?: "偽主人公" ? ニュース ・ 書籍 ・ スカラー ・ CiNii ・ J-STAGE ・ NDL ・ dlib.jp ・ ジャパンサーチ ・ TWL(2021年1月)

この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2021年1月)

映画では、(単にその役割にプロットを集中させるだけでなく)いくつかのテクニックに基づいて、ある登場人物を主人公のように見せることができる。観客は一般的に、映画の中で最も有名な俳優が重要な役柄を演じていると考える。また、クローズアップもサブリミナル手法として使用することができる。一般的に、映画の主人公は、他の人物よりも長く頻繁なクローズアップを得るが、これは映画の中で視聴者にすぐに明らかになることはほとんどない。また、偽主人公が映画の語り手として機能することもあり、観客はそのキャラクターが物語を語るために生き残っていると仮定するように促すことができる。

映画で使われているのと同じ手法の多くはテレビにも適用できるが、連続ドラマの形式によりさらに可能性が広がる。偽主人公が退場しないまま1つ以上のエピソードを終わらせることで、番組はキャラクターの主人公としての地位に対する視聴者の信念を強化することができる。また、テレビ番組はしばしばシーズンの間にキャストの変更があるため、シリーズによっては意図しない偽の主人公を持つことがある。


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