信号保安(しんごうほあん)とは、鉄道において列車の安全を保ち、特に衝突を防ぐために用いられる装置やシステム、運行規定の総称である。固定された線路を移動し、運転士が障害物を視認してからでは止めることができないほど高速で走行する列車は、特に衝突に弱い。このため、アメリカではウェッブ・ボール(Webb C. Ball)を1891年に時刻調整責任者(general time inspector)に任命し、鉄道用の時計の厳正な管理に努めることになった。また、イギリスでは、アーマー鉄道事故をきっかけとして1889年鉄道規制法(Regulation of Railways Act 1889)が成立し、閉塞や連動装置などの様々な安全装置が導入されることになった。
列車の制御は、多くの場合、各区間の責任者(例えば信号手や駅長)から通行許可を乗務員に与える形で行われている。運行のための一連の手続きと、運行に用いられる設備をまとめて、イギリスでは"method of working"、アメリカでは"method of operation"、オーストラリアでは"safeworking"などと呼ぶ。全ての方式で必ずしも物理的な信号装置を必要とするわけではない。また単線の鉄道に限定されている方式もある。 1830年に初めての実用的な鉄道である、リバプール・アンド・マンチェスター鉄道が開通した時点では、まだ電信も電話も発明される前であった[注釈 1]。実際に列車に乗って移動して情報を伝達する以上に速く情報を伝える手段はなく、現在のように信号設備を用いて列車の運行の安全を図ることはできなかった。このため情報伝送に頼らずに列車の保安を行う方式が工夫された。 単線区間では正面衝突の危険が大きく、十分な安全を確保することができないものと考えられて、当初のイギリスの鉄道はほとんど複線で建設が進められた。一方で、アメリカでは人口が少なく経済性の観点から単線での鉄道敷設が進み、単線に対応した保安方式が考案された。 設備の観点でもっとも単純な保安方式は、単に決められた時刻表に厳正に基づいて列車を運行させることである。全ての乗務員が熟知しているべき、固定された時刻表が作成される。各列車は、決められた時刻に決められた区間を走り、それ以外の列車はその区間を走行することを許されない。ダイヤ上で他の列車と衝突しないような計画が作成されていて、全ての列車が完全にそれに基づいて走っている限りは、事故は発生しないことになる。 単線の線路を列車が対向して運行している時は、対向列車を待ち合わせる場所がダイヤ上で決められ、各列車は必ず対向列車を決められた場所で待たなければならない。どの列車も対向列車が到着するまでは出発することが許されない。アメリカでは、2つの緑の旗(夜間は緑のライト)が、最初の列車に続行して次の列車が来ることを示し、待機列車はその続行列車も待たなければならないことを意味している。これに加えて、旗を持ってきた列車は8回のブラストと汽笛を到着に際して鳴らし、待機している列車はこれに応えて8回のブラストを響かせることになっている。 時刻表運行方式には欠点が存在する。まず、前方の線路が開通している確固たる保証が何も存在せず、開通している時刻であると計画されているに過ぎないということである。機関士が計画を見誤ったり勘違いしたりした場合に事故を防ぐ手段は何も用意されていない。 またこの方式では、機関車の故障やその他の問題の発生によって列車が運行できなくなったり遅れたりした場合への対処が困難である。駅間で列車が立ち往生してしまった場合、その列車の乗務員は他の列車を止めるためすぐに列車防護 さらに、このシステムは柔軟性に欠けるという問題もある。事前の通知なしには列車を追加で走らせることができず、遅らせたり運転整理を実施したりすることもできない。 上述の問題の結果として、システムが非効率であるという問題もある。
運行方式による保安
時刻表運行方式