物理学における作用(さよう、英: action)は、物理系の動力学的な性質を示すもので、数学的には経路[注 1]を引数にとる実数値の汎関数として表現される。一般には、異なる経路に対する作用は異なる値を持つ[1]。古典力学においては、作用の停留点における経路が実現される。この法則を最小作用の原理と呼ぶ。
作用は、エネルギーと時間の積の次元を持つ。従って、国際単位系 (SI) では、作用の単位はジュール秒 (J⋅s) となる。作用の次元を持つ物理定数としてプランク定数がある。そのため、プランク定数は作用の物理的に普遍な単位としてしばしば用いられる。なお、作用と同じ次元の物理量として角運動量がある。
物理学において「作用」という言葉は様々な意味で用いられる。たとえば作用・反作用の法則や近接作用論・遠隔作用論の中で論じられる「作用」とは物体に及ぼされる力を指す。本項では力の意味での作用ではなく、解析力学におけるラグランジアンの積分としての作用についてを述べる。 物理法則は微分方程式として表されることが多い。時間に関する微分方程式は、位置や運動量といった時間に対して連続な物理量がどのように変化するかを記述する。それぞれの状況に対応して、微分方程式に初期条件を含む境界条件が与えられ、与えられた境界条件から得られる微分方程式の解は、それぞれの状況に対する系の振る舞いを決定する。微分方程式の解は、境界条件によって定められる時間領域および空間領域のすべての点に対して、粒子の位置や運動量を決定する関数として得られる。 運動方程式を見つけるための異なるアプローチがある。古典力学では、系が実際に辿る経路はその経路の作用が停留値(大抵は最小値)をとるものに限ると仮定される。つまり、古典力学において作用は最小作用の原理(厳密には「停留作用の原理」と呼ぶべきだろう)を満たす。最小作用の原理は変分原理の一種であり、作用の第一変分が 0 となる経路として古典的経路を定める。作用は積分の形で定義され、これを作用積分(さようせきぶん、英: action integral)と呼ぶ。系の古典的運動方程式は、作用積分を最小化する必要条件として、作用積分の境界条件を除いた形で得られる。 この単純な原理は、物理へ深い洞察をもたらす現代理論物理学での重要な概念である。 微分方程式による表現と変分原理による表現の二つのアプローチが互いに等価であることは、ハミルトンの原理
概要
作用は概念の発達とともに様々な方法で定義された。[3]
ゴットフリート・ライプニッツ、ヨハン・ベルヌーイ、ピエール・ルイ・モーペルテュイらは、光の作用を光の速度やその逆数の経路の長さに沿った積分として定義した。
レオンハルト・オイラー(そしておそらくはライプニッツも)物質の粒子の作用を、粒子が辿る空間上の経路にそった粒子の速度の積分として定義した。
モーペルテュイは互いに矛盾するいくつかのアド・ホックな作用の定義を用いた。モーペルテュイは自身の論文(英文訳
系が辿る実際の時間発展の経路は、作用の停留点(通常は最小点)に対応する。作用の停留点は作用積分に対する変分により与えられる。
作用には異なるいくつかの定義があり、それらは物理学で一般的に使われている。[3][5]よく使われる作用の定義は、ラグランジアンの時間積分
として与えられる。しかし、場の作用に対しては、ラグランジアンではなくラグランジアン密度に対する積分として定義され、空間と時間の両方の積分として定義される。いくつかの特別な場合において、作用は時間をパラメターとした系の辿る経路に沿った積分に置き換えられる。例えば粒子系の時間発展に関して、作用積分はそれぞれの粒子が辿る経路に束縛されるため、作用積分は時間をパラメターとする粒子の軌跡の積分となる。典型的な作用は、初期時刻 ti と終端時刻 tf の間で系が辿る経路に沿った時間積分として表現されるものである。[3] S = ∫ t i t f L d t {\displaystyle {\mathcal {S}}=\int _{t_{\mathrm {i} }}^{t_{\mathrm {f} }}L\,\mathrm {d} t}
右辺の被積分関数 L はラグランジアンと呼ばれる。作用積分が well-defined であるためには、ラグランジアンに与えられる軌跡は時間と空間の両方について有界である必要がある。 最も一般的には、時間と(場の作用に関しては)空間の関数に対するスカラー値の汎関数 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} を作用と呼ぶ。[6][7] 古典力学において、作用汎関数に与えられる関数は初期時刻 ti と終端時刻 tf の間の系の経路 q(t) である。ここで q は一般化座標である。作用 S [ q ( t ) ] {\displaystyle {\mathcal {S}}[{\boldsymbol {q}}(t)]} は初期時刻 ti と終端時刻 tf の間のラグランジアン L の時間積分 S [ q ( t ) ] = ∫ t i t f L [ q ( t ) , q ˙ ( t ) , t ] d t {\displaystyle {\mathcal {S}}[{\boldsymbol {q}}(t)]=\int _{t_{\mathrm {i} }}^{t_{\mathrm {f} }}L[{\boldsymbol {q}}(t),{\dot {\boldsymbol {q}}}(t),t]\,\mathrm {d} t} として定義される。 また上記の定義に加え補助的な境界条件として、初期時刻および終端時刻における系の一般化座標 q(t) はそれぞれ q(ti) = qi, q(tf) = qf と固定される。最小作用の原理に従えば、実現される経路 qtrue(t) は作用 S [ q ( t ) ] {\displaystyle {\mathcal {S}}[{\boldsymbol {q}}(t)]} の停留点(最小点、最大点、もしくは鞍点)である。上記の作用に対する最小作用の原理は、ラグランジュ力学における運動方程式、すなわちオイラー=ラグランジュ方程式を与える。
作用汎関数
簡約された作用