体性幹細胞
[Wikipedia|▼Menu]
幹細胞の分裂と分化 A ? 幹細胞; B ? 前駆細胞; C ? 分化した細胞; 1 ? 対称性幹細胞分裂; 2 ? 非対称幹細胞分裂; 3 ? 前駆細胞分裂; 4 ? 最終分化

成体幹細胞(せいたいかんさいぼう、: Adult stem cell)は、生物の体内に見られる最終分化していない細胞である。細胞分裂によって増殖することにより、最終分化細胞への前駆細胞の供給源として、死んだ細胞を補充し損傷した組織を再生される機能をもつものである。体性幹細胞(: somatic stem cells)、組織幹細胞(: tissue stem cell)とも呼ばれる。通常、成体幹細胞は特定の複数種の細胞にしか分化することができない (多分化性)。

近年、多能性を持つ細胞の存在が主張されている。このような細胞が存在すれば、潜在的には少数の細胞から臓器全体を再生させる能力を持つことから注目されている。また、これらの細胞は胚性幹細胞と違って成人の組織サンプルから得ることができ、ヒトの胚を破壊する必要がないため、研究と治療に使っても議論を招くことはない。主にヒトのほか、マウスラットといったモデル生物で研究されている。
特性

幹細胞は、以下の2つの特性を持っている。

自己複製。細胞分裂の周期を多数経ても、未分化状態を維持する能力。

分化多能性。特定の細胞型しか作り出せない単能性の細胞と異なり、さまざまな細胞型の子孫を作り出せる能力。ただし単能性で自己複製能をもつ幹細胞も存在し得ると考えて、多能性は幹細胞の本質ではないとみなす研究者もいる[1]。これらの特性は、クローン原性アッセイ(英語版)のように単一細胞の子孫を確認できる手法を用いればin vitro(生体外)で比較的容易に実証できる。しかし、in vitroでは細胞培養の条件によって細胞の挙動が変わることが知られている。そのため特定の細胞集団がin vivo(生体内)で幹細胞性を持つことの証明は難しく、生体内の幹細胞とされる細胞集団のなかには、本当に幹細胞なのか議論の的となっているものもある。

発見

成体幹細胞は1960年代にジェイムズ・ティルアーネスト・マコラックらによって[2]骨髄から造血幹細胞が発見されたことに始まる[3]。その後、1970年に骨髄由来幹細胞が見出された[4]のに続いて、様々な組織から成体幹細胞が見つかった。
細胞系列

幹細胞は、対称分裂と非対称分裂の2種類の細胞分裂を行うことによって、自己複製を可能としている(「幹細胞の分裂と分化」の図を参照)。対称分裂は2つの同一の娘細胞を生み出し、その2つはどちらも幹細胞の性質を受け継いでいる。それに対して非対称分裂では、幹細胞と、限られた自己複製能力を持つ前駆細胞を1つずつ作る。前駆細胞は数回の細胞分裂を経てから、成熟した細胞に分化する能力を持つ。対称分裂と非対称分裂の分子レベルでの違いは、娘細胞の間で膜タンパク質受容体など)の分配が偏っていることにあると考えられている。
多剤耐性

成体幹細胞は様々な有機分子を細胞外へと輸送するABC輸送体を発現している[5]。この膜輸送体によってこれらの細胞は多剤耐性を有している。
シグナル伝達経路

成体幹細胞研究において、その自己複製能と分化多能性を制御する共通メカニズムの解明が注目されている。

Wnt
Wntシグナル経路も幹細胞の調節に重要な役割を果たすことが示されている[6]腸陰窩においては、陰窩細胞はWntシグナルによって増殖性を維持されており、陰窩を離れてWntシグナルが取り除かれると増殖を停止する。また、Wntシグナル経路はNotchシグナル経路の活性化も行っている[7]

Notch
古くから発生生物学者に知られていたNotchシグナル経路の幹細胞増殖における役割が造血神経、および乳腺幹細胞において示されている[8]。また、腸陰窩においてはNotchシグナル経路が分泌細胞への分化を抑制していることが知られている[7]

TGFβ

種類
造血幹細胞詳細は「造血幹細胞」を参照

造血幹細胞は骨髄に由来し、すべての血液細胞に分化する。
衛星細胞詳細は「衛星細胞」を参照

衛星細胞は基底膜筋鞘の間に存在し、筋繊維に新たな細胞を供給する。
腸管幹細胞

腸管幹細胞は生涯を通して分裂を続け、小腸および大腸の内壁を覆う細胞を供給する[9]。腸管幹細胞は腸陰窩と呼ばれる幹細胞ニッチの底付近に存在する。多くの小腸、および大腸がんは腸管幹細胞に由来すると考えられている[10]
毛包幹細胞
乳腺幹細胞

乳腺幹細胞は思春期と妊娠中に乳腺を成長させる細胞の源となり、乳がんにおける発癌性に重要な役割を果たす[11]。乳腺幹細胞はヒトおよびマウスの組織、および乳腺の培養組織から単離されている。これらの細胞は腺の内腔および筋内皮細胞のいずれにも分化でき、マウスにおいては完全な器官を再生しうることが示されている[11]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:77 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef