住所
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「住所は分かりやすくお書き下さい」1958年ポスター(英国郵便博物館(英語版)所蔵)。

住所(じゅうしょ、英:address)とは、「住んでいるところ。生活の本拠である場所。すみか。すまい。」[1]のことである。
住所の決定
形式主義と実質主義

各人の住所の決定の基準には、本籍住民登録といった形式上の条件を基準として住所を定める形式主義と、各人が実質的に生活の中心としている場所を住所とする実質主義がある[2]

日本旧民法人事編262条は形式主義を採用していた[2](「本籍地」を民法上の住所としていた)。

これに対して、フランス民法などは実質主義を採用している。現行の日本の民法も「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(民法第22条)として実質主義を採用している[2]住民基本台帳法(旧・住民登録法)では各人は転居届や転入届を提出する際に住所を届け出るものとされており(住民基本台帳法第22条・第23条)、各人の住所は住民基本台帳に記載されることになる(住民基本台帳法第7条第7号)[注 1]。ただし、住民票の記載・消除・修正などは各人の届出または市町村長などの職権で行うものとされている(住民基本台帳法第8条)ため、現実には届出などにより住民票に記載された場所と、実質的に生活の本拠となっている場所(民法上の住所)とが一致しない場合がある。したがって、住民基本台帳法(旧・住民登録法)による住民票の住所は、民法上の住所との関係では「ただ事実推測のため一応の資料となり得るにすぎない」[5]ものと考えられている。判例も転出届の事実があっても実質的な生活の本拠の移転がなければ民法上の住所が移転したものとすることはできないとしている(最判 1997年8月25日 判例時報 1616号52頁)。日本法での住所と住民登録との関係については「住民票」を参照
住所の設定・変更・廃止

ドイツスイスフランスなどでは法定住所と任意住所を法律で規定している。任意住所を原則としつつ、ある場所に居住している事実だけでなく恒常的に居住する意思があることを基準にした法定住所の概念も設けている[2]

これに対して、日本ではこれらの国々のような法定住所の概念は設けられていない[6]。民法上の住所である「生活の本拠」の意味をめぐっては、定住事実のみで足りるとする客観説と、定住事実のほか定住意思が必要であるとする主観説の対立がある。通説は客観説をとっている[6]。住所の個数については、複数の場所を生活の本拠としている場合にはそれぞれが民法上の住所となるとする複数説(法律関係基準説)[7]と単数説(単一説)がある。大正時代までは単数説が通説であったが、次第に複数説が優勢となり、第二次世界大戦後には複数説が通説となった[8]。ただ、最高裁は「およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当」としており、公職選挙法上の住所についても、修学のため親元を離れて居住する学生の住所はその寮または下宿などの所在地にあるとしている[9]。下級審の裁判例はさらに、ある場所が住所であるかどうかは「滞在日数、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮して判断するのが相当である」と述べている[注 2]。なお、会社の住所は、その本店の所在地にあるものとされる(会社法4条)。

現在居住しているというだけではその場所が住所であるとは限らない。居住期間について、1年未満の短期・一時滞在地は住所には当たらず後述の居所に当たる[11]。前述の最高裁判例においても、当該学生は最も短期の者でも1年間在寮の予定の下に寮に居住していたことが原審により認定されている。

また行政実例において、家族と共に居住していた者が現在家族と離れて居住している場合において、家族と共に居住していたときと現在を比較し、私的生活における家族との関わりが変わらない場合は、家族の居住地が住所と認定される[12]

日本の民法では、住所のほかに居所と仮住所という概念も定めている。

居所居所とは、継続して居住しているものの生活の本拠というほどその場所との結び付きが強くない場所のことである。住所が知れない場合には、その者の居所が住所とみなされる(民法第23条1項)。また、日本に住所を有しない者は、その者が日本人か外国人かを問わず、日本における居所がその者の住所と見なされる(民法第23条2項本文)。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合にはそれによる(民法第23条2項但書)。

仮住所ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所が住所とみなされる(民法第24条)。

また転居しなくても、居住する地域に住居表示が導入されたり、市町村合併旧町名復活などにより行政上の地名が変わったりして、住所表記が変更される場合がある[13]

一方、イギリスなど英米法上の住所概念であるドミサイル (domicile) は、一つの独立した法体系が適用される地域的単位を意味するもので、英米法に特有の住所概念となっている[14]
国際私法

住所の認定要件は法域により異なるため、法の管轄を定める国際私法において住所地を連結点とするのは適当ではないという問題意識があった。そこで、人がある程度長期間にわたって常時居住している場所を指す常居所という概念が採用されるに至っている[14]
日本の住所表記

日本における住所は、大きな区分から細かい区分の順序で表記される。細かい区分から大きな区分へと表記していく欧米式とは逆の順序になる。住居表示に関する法律により住居表示を実施している区域ではその住居表示を用い、それ以外の区域では地番を用いて表記される。

日本の行政区画(参考)都道府県区市町村備考
都都区(特別区)特別区は特別地方公共団体であり行政区などとは異なる。

郡町・村
(島嶼部)町・村東京都島嶼部は郡に属さない[注 3]
道府県道・府・県市(政令指定都市)行政区(大阪市西成区、横浜市中区など)が設置されている[注 4]
市(政令指定都市以外)合併特例区や地域自治区などが設けられている場合がある[注 6]
郡町・村

町・字

町・字は、「大字○○」「〇〇」「○○」などといった名称が用いられることが多い。また、複数の階層区分を設けて、佐賀市「川副町大字西古賀」(「町」が上位区分で「大字」が下位区分)[注 7]、青森市「大字滝沢字住吉」(「大字」が上位区分で「字」が下位区分)などと表記することもある。「大字」の下位区分として「字」が用いられる場合、特に「小字」と称することがある。これらの階層区分の有無・名称などは市町村合併や町・字名整理の過程で各市区町村ごとに変遷してきたもので、全国的な統一基準や変遷の経緯が存在するわけではない。

その外、岩手県の一部地域で用いられる「第○地割」や、北海道で用いられる「○条×丁目」、京都市の通り名、愛媛県の一部で用いられる「○番耕地」、長崎県のうち対馬を除く地域で用いられる「郷」「名」「免」「触」「浦」など、その地域独自の区分法も存在する。詳細は「#その他の表記」を参照

市街地では、台東区「浅草四丁目」のように「○丁目」という町・字区分が多い。そのため町を「町丁」と呼ぶ場合も多い。なお、「○丁目」に入る数字は、ほとんどの都道府県の告示で漢数字となっていることや、「浅草四丁目」もそうであるが、町名そのものに丁目を含んでいる[注 8]ため、アラビア数字を用いて「4丁目」などと表記するのは正確な表記でないという考え方もある。しかし、アラビア数字を用いた町丁名表記は広く普及しており、公共施設の表示や市区町村の公式サイトにでも使用されている。なお、「丁目」以降の部分を簡略に表記する場合は「-」(ハイフン)を用いる慣習がある。例えば「新宿区西新宿二丁目8番1号」という住所は、「新宿区西新宿2-8-1」や「新宿区西新宿2丁目8-1」と略されうる。

郵便においては、丁目を含まない町域名に対して郵便番号が割り当てられており、カスタマバーコードでは丁目をアラビア数字で抜き出すこと、丁目以下の区切りはハイフンとすることとなっている。上記例では東京都新宿区西新宿に対して160-0023が割り当てられているため、「新宿区西新宿二丁目8番1号」のカスタマバーコードは「16000232-8-1」(制御コードやチェックデジットを除く)となる。

町・字は全ての地域に必ず定められているものではなく、「○○市9999番地」といったように市町村名の後に町・字名がなく直接地番を付す区域もある。たとえば「八幡浜市立武道館」の住所は「愛媛県八幡浜市487番地」、「香川県立琴平高等学校」の住所は「香川県仲多度郡琴平町142番地2」である。
地番による表記と住居表示

近代以降、日本では地番を用いた住所の表示が用いられてきた。


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