伝送線路
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この項目では、電子回路内で高周波伝送に用いる線路について説明しています。伝送路・伝送線路の総論については「伝送路」をご覧ください。

伝送線路(でんそうせんろ、: transmission line)は、電力信号をある地点から別の地点へ送信するための配線のことである。伝送路と同義であるが、伝送路、伝送線路の語は、日本語で広い意味で利用される(参照 : 伝送路)。ここでは、その中で電信方程式に関連し、電子回路などで使用される、高周波信号を伝送するための配線に関する内容に関して述べる。なお、高周波信号を通す伝送線路は導波路(どうはろ、: waveguide)とも呼ばれる。

一般に、ここで述べる伝送線路を構成するものとして、配線同軸ケーブルスタブ光ファイバー、電力線、導波管などがある。
歴史

伝送線路の数学的な解析は、ジェームズ・クラーク・マクスウェルウィリアム・トムソンオリヴァー・ヘヴィサイドらによる研究から始まった。ウィリアム・トムソン(後のケルヴィン卿)は海底ケーブルの拡散モデルの伝播モデルを構築した。モデルは、1885年大西洋を横切る電信用海底ケーブルの性能の問題を正確に予測した。

1885年に、ヘヴィサイドは電信方程式のケーブルと新たな形の解析を記載した最初の論文を公開した[1]。1887年には装荷コイル(英語版)を付加した装荷ケーブルを提案した。

1932年に、松前重義が、無装荷ケーブルを利用した長距離伝送を可能とするシステム(松前重義#無装荷ケーブル)を提案した。
伝送線路と配線

ほとんどの電気回路において、素子に接続される配線の長さはほとんどの場合無視される。これは、ある時刻における、配線における電圧が全ての点で同一であると仮定することができるためである。しかし、電圧が信号が配線を伝達するためにかかる時間と同じくらいの時間で変化する場合、配線長は重要となり、その配線は伝送経路とみなす必要がある。別の言葉で言うなら、配線長に相当する波長に相当する周波数の利用を行う場合、配線長が重要となる。

経験則(インピーダンスの章に記載)では、ケーブルや配線の長さが波長の100分の1を超える場合、これを伝送線路とみなさないといけない。この長さでは、位相の遅延や配線における反射や干渉も重要となり、伝送線路の理論を用いて慎重に設計されていない系の振る舞いを予測不能とする。
4端子モデル伝送線路の電気回路における回路記号の種類詳細は「二端子対回路」を参照

解析においては、伝送線路は2ポート(端子対)回路網(4端子回路網)におけるモデルとして扱われる。これは次の様に表される。

最も単純な場合、伝送線路の回路は線形であると仮定する。すなわち、反射が無いと仮定した場合、両端子間の電圧は、その端子から流れ込む電流に、(複素成分も含め)比例する。この時、伝送線路が、その長さ全体において均一である場合、2つのポートは交換可能であると考えられる。すなわち、この振る舞いは、特性インピーダンスZ0と呼ばれる1つのパラメータで記載が可能である。この特性インピーダンスは、伝送線路上の任意の点において同一の波形である複素電圧波形と複素電流波形の比を表している。同軸ケーブルではZ0は50もしくは75オームであることが多く、ツイストペア(より対線)では約100オーム、一般的な平行線(レッヘル線)は約300オームである。

伝送線路に、電力を入力する場合、ほとんどの電力が負荷に到達し消費され、電源への反射が極小となるのが望ましい。これには、電源と負荷のインピーダンスをZ0にすることが必要であり、この場合、伝送線路は、整合していると言う。

伝送線路に入力した電力の一部は抵抗により失われる。この効果は、抵抗性の損失と呼ぶ(ジュール熱を参照)。高周波では、抵抗による損失に加え、誘電損と呼ばれるが重要となってくる。この誘電損は、伝送線路内の絶縁体材料が、変動する電界からエネルギーを吸収し、熱に変換するために発生する(詳細は、誘電加熱を参照)。

伝送線路における電力の損失量の合計は長さあたりデシベルで表記されることがあり、これは信号の周波数に依存する。製造メーカは通常、周波数に対する損失をdB/mで記載した表を提供している。3dBの損失はパワーで約半分の損失に相当する。

高周波用の伝送線路は、伝送線路の長さと同等もしくはそれより短い波長電磁波を伝送するように設計される。この状況では、低周波における計算で使用される近似は利用できない。これは、無線ミリ波光通信の信号において使用され、高速のデジタル回路においても使用される。
電信方程式詳細は「電信方程式」を参照

電信方程式(Telegrapher's Equations、あるいはTelegraph Equations)は長さを持ち、時間を考慮した伝送線路における電圧電流を表した偏微分方程式である。これらは、マクスウェル方程式を元に伝送線路のモデルを作り出した、オリヴァー・ヘヴィサイドにより考案されたものである。回路素子で表記した伝送線路の回路図モデル

伝送線路のモデルは伝送線路を2ポートの素子により構成されたものを無限に直列に接続した分布定数回路で表される。それぞれは伝送線路の短い区間の無限回の繰り返しとして表される。

抵抗 R {\displaystyle R} は、単位長さあたりの直列の抵抗 (Ω/m) を示す。

インダクタ L {\displaystyle L} は、配線の周りの磁界などによる単位長さ当たりの直列のインダクタ (H/m) を示す。

キャパシタンス C {\displaystyle C} は2つの導体、信号線と対地間の単位長さ当たりの容量 (F/m) を示す。

コンダクタンス G {\displaystyle G} は2つの導体、信号線と対地間の単位長さ当たりの誘電体のコンダクタンス (S/m) を示す。

このモデルは、図の中に「無限の直列素子」が既に含まれて構成されており、素子の値は「単位長さあたり」を表している。そのため、この回路図はしばしば誤解されることがある。 R {\displaystyle R} 、 L {\displaystyle L} 、 C {\displaystyle C} 、 G {\displaystyle G} は周波数の関数で表される。長さで微分を行った値として R ′ {\displaystyle R'} 、 L ′ {\displaystyle L'} 、 C ′ {\displaystyle C'} 、 G ′ {\displaystyle G'} の値を使用する。


線路の電圧 V ( x ) {\displaystyle V(x)} と電流 I ( x ) {\displaystyle I(x)} を周波数領域を考慮して表記すると次の様になる。

∂ V ( x ) ∂ x = − ( R + j ω L ) I ( x ) {\displaystyle {\frac {\partial V(x)}{\partial x}}=-(R+j\omega L)I(x)}

∂ I ( x ) ∂ x = − ( G + j ω C ) V ( x ) {\displaystyle {\frac {\partial I(x)}{\partial x}}=-(G+j\omega C)V(x)}

伝送線路が無損失であると仮定した場合、 R {\displaystyle R} 、 G {\displaystyle G} の素子は無視して構わない。この仮定の場合、モデルは L {\displaystyle L} と C {\displaystyle C} に依存し、以上に単純な解析となる。無損失の伝送線路の場合、電信方程式の2次の定常状態は、 次の形で表される。

∂ 2 V ( x ) ∂ x 2 + ω 2 L C ⋅ V ( x ) = 0 {\displaystyle {\frac {\partial ^{2}V(x)}{\partial x^{2}}}+\omega ^{2}LC\cdot V(x)=0}

∂ 2 I ( x ) ∂ x 2 + ω 2 L C ⋅ I ( x ) = 0 {\displaystyle {\frac {\partial ^{2}I(x)}{\partial x^{2}}}+\omega ^{2}LC\cdot I(x)=0}

これらは、進行方向と逆方向への伝播速度と等しい平面波波動方程式である。この物理的意味は、電磁波が伝送線路を伝播し、元の波形を妨害する反射成分を生じさせる。これらの方程式は伝送線路の理論の基本となる。

もし、 R {\displaystyle R} と G {\displaystyle G} が無視できない場合、電信方程式は次の形となる。


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