この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
この記事には民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による変更点(2020年(令和2年)4月1日施行予定)が含まれています
成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、広義には日本における意思決定支援法制をいう。人(自然人)の意思能力が低い状態がある程度の期間続いている場合に、本人の判断を他の者が補うことによって、本人を法律的に支援するための制度をいう[1]。1999年の民法改正で従来の禁治産制度に代わって制定され、2000年4月1日に施行された。民法に基づく法定後見と、任意後見契約に関する法律に基づく任意後見とがある。広義の成年後見制度には任意後見を含む[1]。
狭義には法定後見のみを指す[1]。法定後見は民法の規定に従い、意思能力が十分でない者の行為能力を制限し(代理権の付与のみが行われている補助の場合を除く)、その者を保護するとともに取引の円滑を図る制度をいう[1]。
最狭義には法定後見(後見、保佐、補助)の3類型のうち民法親族編第5章「後見」に規定される類型のみを指す[2]。
後見には成年後見のほか未成年後見もある。未成年後見については「未成年後見人」と「後見」の項参照。後述の未成年者についても成年後見の適用は排除されていない[1]。これは成年が近くなった未成年者の知的障害者が成年に達する場合には法定代理人がいなくなってしまうことから、その時に備えて申請を行う必要があるためである[3](詳細は後述)。 本制度はドイツの世話法
民法について以下では、条数のみ記載する。
成年後見制度発足の経緯
従来の禁治産・準禁治産制度には、差別的であるなどの批判(後述)が多かった。こうした中で1995年に法務省内に成年後見問題研究会が発足して以来、成年後見制度導入の検討が重ねられてきたが従来の制度への批判とともに、制度導入時期決定の契機となったのが介護保険制度の発足である。
福祉サービスの利用にあたって、行政処分である措置制度から受益者の意思決定を尊重できる契約制度へと移行が検討されていた(いわゆる「措置から契約へ」)。高齢者の介護サービスについては2000年から介護保険制度の下で利用者とサービス提供事業者の間の契約によるものとされることとなったが、認知症高齢者は契約当事者としての能力が欠如していることから契約という法律行為を支援する方策の制定が急務であった[注 1]。
厚生労働省における介護保険法の制定準備と並行して法務省は1999年の第145回通常国会に成年後見関連4法案[注 2]を提出、1999年12月に第146回通常国会において成立した。その後、政省令の制定を経て2000年4月1日、介護保険法と同時に施行されることとなったのである。
こうした経緯から、介護保険制度と成年後見制度はしばしば「車の両輪」といわれる[注 3]。もっとも、政府が介護保険制度の成立を急いだ結果として、成年後見制度は充分審議がされないまま従来の禁治産制度の規定を少なからず移行させたため、本来の理念とは異なる規定が残存することになった(後述の#欠格事由、#選挙権等)。
制度上の名称には「成年」が含まれているが、未成年の知的障害者が成年に達して未成年後見が終了する場合に法定代理人がいなくなることを防ぐため、未成年者の段階でも成年後見の対象となりうる[4]。民法7条、11条本文、15条1項本文の請求権者に未成年後見人、未成年後見監督人がある。
最高裁判所は2000年の制度施行当初から、成年後見事件に関する統計を公表している[5]。 法定後見は、本人の判断能力が不十分になった場合に家庭裁判所の審判により後見人(保佐人・補助人)が決定され開始するものである。本人の判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助の3類型がある。 制度は民法に基づく。実際の手続は家事事件手続法および家事事件手続規則に基づき、家庭裁判所が行う。後見登記[8]は、後見登記等に関する法律による。市区町村長申立の根拠は老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)である。
禁治産・準禁治産制度への批判
制度が作られたのは明治(大日本帝国憲法)時代であり、本人の保護・家財産の保護は強調されても本人の自己決定権の尊重や身上配慮など、本人の基本的人権は、必ずしも重視されていなかった。
禁治産という用語は「(家の)財産を治めることを禁ず」という意を持ち、家制度の廃止された日本国憲法下での民法(親族・相続法)に合致しない。また、国家権力により私有財産の処分を禁ぜられ、無能力者とされること、また禁治産・準禁治産が戸籍に記載されることが、人格的な否定等の差別的な印象を与えがちであった。これらにより、禁治産制度の利用に抵抗が示されやすかった。
裁判所の受理件数が少なく処理が定型化していなかったこともあり、鑑定を引き受ける医師が少なく、時間とコストの負担が少なくなかった。
比較的軽度の判断能力の低下の場合であっても、一律に行為能力を制限する準禁治産者の宣告を受けることになるため、制限が過剰である場合があった。特に浪費者の場合に裁判所の運用によって、鑑定なしで準禁治産宣告を行うなど、やや無理が目立っていた。
配偶者がいる場合に、法律上当然に配偶者が後見人となる旨の規定があり(改正前の840条)、実情に即した弾力的な運用が困難であった。
保佐人の取消権について、法律の明文の規定を欠いていたため、その行使の可否について解釈上の争いがあった。
禁治産・準禁治産制度との相違点
身上配慮義務の明文化(民法858条、民法876条の5、民法876条の10)。
本人の保護と、自己決定権の尊重との調和をより重視。
禁治産という用語を廃止。
戸籍への記載を廃止。代わりに後見登記制度を新設。
「補助」の新設(旧来の禁治産は後見、準禁治産は概ね保佐にあたる)。
準禁治産の事由に含まれていた「浪費者」を、後見制度の対象から除外。
「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を取消しうる行為から除外。
鑑定書の書式を専門医向けに配布することなどにより、鑑定を定型化・迅速化[6][7]。
配偶者が当然に後見人、保佐人となるという規定を削除。
複数成年後見人(保佐人・補助人)、法人後見の導入。なお、後見人(保佐人・補助人)が複数選任されている場合、第三者の意思表示はそのうちの一人に対してすれば足りる(民法859条の2)。
保佐人、補助人の取消権の明文化。
法定後見
根拠法
3類型
成年後見
後見開始の審判
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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