本項目では、特撮テレビドラマ仮面ライダーシリーズにおける変身について記述する。
変身(へんしん)は、仮面ライダーシリーズにおける設定要素で、登場人物がヒーローキャラクターに姿を変えることを指す。 「変身」は、シリーズ第1作『仮面ライダー』の制作にあたって、新ヒーローを一言で表現できるインパクトのある言葉を探していた渡邊亮徳が、書棚にあったフランツ・カフカの『変身』から名称を取り入れたものである[1]。「変身」という言葉自体は『宇宙猿人ゴリ』に見られるように、ヒーロー番組で既に使用されていた[2]。しかし当時はまだ知名度の低い表現であり、『仮面ライダー』制作スタッフによる最初の打ち合わせでは台本に書いてある「変身」の意味をだれも理解できず、スーツアクターだった岡田勝ですら「どうして面をかぶるのか」と疑問に思っていたという[3]。 番組開始時の仮面ライダー1号 = 本郷猛の設定は、バイクに乗り風を受けて変身するというものだった。後に藤岡弘が撮影中の怪我により長期休養を余儀なくされ、急遽新たに登場した仮面ライダー2号 = 一文字隼人が「変身ポーズ」の誕生のきっかけとなった。 当初は1号ライダーと同様の変身が検討されていたが、一文字役に抜擢された佐々木剛は、当時オートバイの運転免許を持っていなかった。佐々木はそのことを事前にスタッフに知らせておらず、内田有作(東映生田スタジオ所長)がそのことを問い詰めると、佐々木は「俺は『風を受けて』とか、そういう受け身なのは好きじゃないんだよ!ここは一発、自分からやる!みたいなポーズか何かはないのか?」と言った[4]。 ポーズの導入は毎日放送映画部長・庄野至の意向だった。また、そのときに叫ぶ「変身!」というセリフは平山亨が暫定的に入れたものだったが、結局そのまま採用された[2]。以降、仮面ライダーシリーズにおける変身者は大半の作品で「変身!」というセリフとともにライダーに変身しており、作品ごとに固有のセリフで変身するスーパー戦隊シリーズなどと対照的なスタンスをとっている[5]。 ポーズの内容は技斗の高橋一俊がほとんどイメージで作り上げたものである[6]。大野剣友会が携わった1969年のテレビドラマ『柔道一直線』で主演を務めた櫻木健一は、同作中の独特の構えについて「(高橋一俊と)ふたりで考えたんです。あれが仮面ライダーやミラーマンなどの変身ポーズにつながっていくんですが、イメージとしては『宇宙の力』を自分の体の中に蓄える感じでした」と語っており[7]、着想元として中村錦之助演ずる『源氏九郎颯爽記』3部作に出てきた二刀流の構えを挙げている[8]。「両腕を水平にそろえて伸ばす」などの姿勢は、同じく櫻木が出演し大野剣友会が関連した1970年の柔道映画『柔の星』でもファイティングポーズとして使われているのが確認できる[9]。これは仮面ライダー1号のファイティングポーズとしても導入されていたが、2号の登場にあたり一応前のライダーとの関連を持たせようと改めて変身ポーズとして採用された[6]。 「変身ポーズ」の存在は、「自らの意思で変身する」という点で視聴者に「より強いヒーロー像」を与え[10]、また「変身ブーム」と呼ばれる社会現象を起こした(詳細は変身ブームを参照)。
成立の過程