代謝性アシドーシス
[Wikipedia|▼Menu]

代謝性アシドーシス

血液中の重炭酸塩(HCO3?)の計算値は、アシドーシスの重症度を反映する。
概要
種類

急性
慢性
診療科腎臓学
原因

急性: 有機酸の過剰;
慢性: 腎機能障害
診断法血液中の重炭酸塩(HCO3?)の濃度
合併症

急性: 罹患率・死亡率共に不良;
慢性: 腎機能、筋骨格系、心血管系への悪影響の可能性
治療

急性:糖尿病性ケトアシドーシスの場合はインスリンの投与、乳酸アシドーシスの場合は血管内容量の回復など、代謝問題の根本的原因を軽減する。重炭酸塩静脈内投与は、病態生理学的には魅力的であるが、適応となることも、慢性的に投与されることもまれである。慢性: 果物や野菜が豊富な食事、経口アルカリ療法[1]
頻度

急性: 重篤な疾患や入院中に発症することが多く、発症率は14?42%である[2][3]
。慢性: 慢性腎臓病患者に多くみられる:9.4%がCKDステージ3a、18.1%がCKDステージ3b、31.5%がCKDステージ4および5である [4]
分類および外部参照情報
Patient UK代謝性アシドーシス
[ウィキデータで編集]

代謝性アシドーシス(たいしゃせいアシドーシス、英語: metabolic acidosis)は、体内の酸塩基平衡の不均衡を特徴とする電解質異常である。代謝性アシドーシスには、酸産生の増加、重炭酸塩の喪失、および過剰な酸を排泄する腎臓の機能低下という3つの主な根本原因がある[5]。代謝性アシドーシスは、アシデミア動脈血pHが7.35未満と定義)を生じる可能性がある[6]。アシデミアとアシドーシスは相互に排他的なものではなく、pHおよび水素イオン濃度は、他の酸塩基障害の併存にも依存する。したがって、代謝性アシドーシスの患者のpHは、様々である。

急性代謝性アシドーシスは、数分から数日間続くもので、重篤な病気に起こることが多く、一般に、体内で有機酸(ケトアシドーシスではケト酸乳酸アシドーシスでは乳酸)が過剰に産生されたときに起こる。慢性代謝性アシドーシスは、週から年の単位で起こるもので、腎機能障害(慢性腎臓病)および/または重炭酸塩の消耗の結果として起こりうる。急性代謝性アシドーシスと慢性代謝性アシドーシスの悪影響もまた異なり、急性代謝性アシドーシスは重症患者において心臓血管系に影響を及ぼし、慢性代謝性アシドーシスは筋肉、骨、腎臓および心臓血管系に影響を及ぼす[7]

重炭酸塩による補充療法は、慢性腎臓病(CKD)に合併する慢性代謝性アシドーシスに対しては腎機能の低下を遅らせるが、急性代謝性アシドーシスに対しては、適応は限定的である。
症状と徴候
急性代謝性アシドーシス

症状は非特異的で、患者が血液ガス分析の明確な適応を示さない限り、診断は困難である。症状には、動悸頭痛低酸素による強い不安などの精神状態の変化、視力の低下、吐き気嘔吐腹痛、食欲の変化と体重増加(英語版)、筋力低下(英語版)、骨痛(英語版)、関節痛などがある。急性代謝性アシドーシスの患者は、クスマウル呼吸と呼ばれる深くて速い呼吸を示すことがあり、これは古典的には糖尿病性ケトアシドーシスと関連している。速く、深い呼吸は、吐き出される二酸化炭素の量を増加させ、血中二酸化炭素濃度を低下させ、ある程度のアシドーシスの代償をもたらす。かといって、この、呼吸性アルカローシス(英語版)を介した代償によってアルカレミア(アルカリ血症)となることはない。

代謝性アシドーシスによる極度のアシデミア(酸血症)は、神経および心臓の合併症を引き起こすこともある:

神経学的:嗜眠、昏睡、けいれん発作(seizure)(英語版)

心臓:不整脈心室頻拍など)およびアドレナリンに対する反応低下(いずれも低血圧につながる)。

診察で疾患の徴候が発見されることもあるが、それ以外は正常であることが多い。エチレングリコール中毒では脳神経の異常が報告されており、メタノール中毒では網膜浮腫が徴候として現れることがある。
慢性代謝性アシドーシス

慢性代謝性アシドーシスも、非特異的な臨床症状を有するが、慢性腎臓病(CKD)患者においては、一般的な検査項目の一つである、血清重炭酸値を検査することにより、容易に診断することができる。CKDステージG3?G5の患者は、代謝性アシドーシスのスクリーニングをルーチンに受けるべきである[8][9]
原因と診断アプローチ

代謝性アシドーシスは、呼吸機能障害ではなく代謝機能障害に起因する血清pHの低下をもたらす。通常、血清重炭酸濃度は22mEq/L未満となり、正常範囲である22?29mEq/Lを下回り、塩基過剰は-2未満となり、pHを正常に近づけようとする過換気の結果として血中二酸化炭素分圧が低下する。時折、代謝性アシドーシスが主要な障害ではない混合性の酸塩基障害では、pHが正常または高い場合がある[5]。慢性呼吸性アルカローシスがない場合、代謝性アシドーシスは、計算された血清重炭酸値の分析により臨床的に診断できる。
原因

一般に代謝性アシドーシスは、体内で酸が過剰に産生される場合(乳酸アシドーシスなど、下の項参照)、血液中の重炭酸塩が失われる場合、あるいは腎臓で体内の酸が十分に除去されない場合に起こる。

慢性代謝性アシドーシスは、腎アンモニア生成を通じて過剰な酸を排泄する腎臓の能力低下によって引き起こされることがほとんどである。典型的な西洋食は、毎日75?100mEqの酸を生成し[10]、腎機能が正常なヒトでは、この食餌性酸を除去するためにアンモニアの産生が増加する。腎機能が低下すると、尿細管は過剰な酸を排泄する能力を失い、その結果、血清重炭酸塩を用いた酸の緩衝作用や、骨や筋肉への貯蔵が起こる[11]
診断アプローチ

代謝性アシドーシスの主なタイプを見分けるには、アニオンギャップと呼ばれる臨床ツールが非常に役立つ。アニオンギャップは、主要な陽イオン(カチオン)であるナトリウムの血清濃度から、主要な陰イオン(アニオン)である塩化物と重炭酸塩の血清濃度の合計を引くことによって計算される[5]。(血清カリウム濃度は計算に加えることができるが、これは単に正常なアニオンギャップとみなされるものの正常基準範囲を変えるだけである)。

血清ナトリウム濃度は、塩化物と重炭酸塩の合計濃度よりも高いため、アニオンの差、すなわち「アニオンギャップ」が算出される。実際には、アニオンギャップを計算する式では測定されない他の微量陽イオン(カリウム、カルシウム、マグネシウム)や陰イオン(アルブミン、硫酸塩、リン酸塩)が存在するため、血清は電気的に中性である。

アニオンギャップの正常値は8?16mmol/L(12±4)である。アニオンギャップの上昇(すなわち16mmol/L以上)は、過剰な「未測定」アニオンの存在を示す。例えば、組織低酸素による嫌気性代謝で生じる乳酸、有毒アルコールの代謝で生じるグリコール酸やギ酸、アセチル-CoAがトリカルボン酸(クレブス)回路に入るのではなくケト化を受ける際に生じるケト酸、硫酸塩やリン酸塩などの代謝産物の腎排泄不全などである。

有害アルコールの存在を示す浸透圧ギャップの検出、ケトアシドーシスを示す血清ケトン体の測定、腎機能障害を検出するための腎機能検査や尿検査など、アニオンギャップの上昇した代謝性アシドーシスの病因を決定するためには、補助的な検査が有用である。

蛋白(アルブミン、グロブリン)の増加は理論的にはアニオンギャップを増加させるが、臨床的に高値になることは通常ない。低アルブミン血症は臨床的にしばしばみられ、アニオンギャップを覆い隠す。経験則として、血清アルブミンが1G/L減少すると、アニオンギャップは0.25mmol/L減少する[5]。急性代謝性アシドーシスの原因は数多くあるためアニオンギャップの異常の有無で分類することが有用である[12]
アニオンギャップ上昇詳細は「高アニオンギャップアシドーシス(英語版)」を参照

アニオンギャップが増大する病態は以下の通り。

乳酸アシドーシス[13]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:72 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef