人称(にんしょう、英: person)とは、文法の用語で、ある発話の話し手(speaker)および聞き手(addressee)という役割とそれ以外を区別するために使われる。grammatical categoryの対訳語「文法範疇」の一種である。話し手という役割をfirst personの対訳語で一人称(だいいちにんしょう)、聞き手という役割をsecond personの対訳語で二人称(だいににんしょう)、それ以外をthird personの対訳語で三人称(だいさんにんしょう)という[1]。一人称、二人称、三人称として広く使われる。正式には、第一人称、第二人称、第三人称である(first第一、second第二、third第三)。第が省かれることにより、一人称、二人称、三人称とは、一人目の呼称、二人目の呼称、三人目の呼称と捉えられる場合があるが、正式用語から分かる通り、第一番目の呼称、第二番目の呼称、第三番目の呼称という意味である。
また動作主がはっきりしない場合、これを不定称ということがある。これは通常、第三人称として扱われる。
四人称という用語が使われる場合がある。この用語はそれが使用される言語によって、第一人称複数、不定人称、疎遠形(英語: obviative)、話者指示性など異なるものを指し示す。 人称の区別は、一般に人称代名詞によって表現され、また多くの言語において文の動詞の主格の人称により動詞が変化したり、接辞が付加されたりする。 人称代名詞は、それが実際に誰を指し示しているか必ずしも同じではない。例えば英語で、子供に対して母親がYour mom is here!(「ママはここだよ!」)と言う場合、動詞は第三人称単数になる。主語が第一人称代名詞 Iではなく名詞句(第三人称で扱われる) your momだからである。名詞主語は第三人称扱いする。 言語によって、非人称(無人称)という言い方が使われることがある。これは意味的に主語が何なのかはっきりしない場合(英語のIt rains.「雨が降る」)や、その言語に特有の言い回し(フランス語のIl y a ...「... がある」、目的語をとる)で、その形式主語や動詞についていう。 人称の区別は代名詞で表されることがある。詳細は「人称代名詞」を参照 主語や目的語などの動詞の項の人称が動詞に標示されることは、世界のいろいろな言語にみられるありふれた現象である。アンナ・シェヴィエルスカが世界380の言語についておこなった調査によると、人称がまったく動詞に標示されない言語は84あり、残りの296の言語には何らかの人称標示が見られた[2]。人称が動詞にまったく標示されない言語は西アフリカ、コーカサス、東アジア、東南アジアで特に顕著である[3]。 項を二つとる他動詞では動作主と対象の両方の人称を標示する言語が最も多く、シェヴィエルスカの調査では193あった。これは全体のおよそ3分の2にあたり、ユーラシア大陸以外ではこのような標示が優勢である[3]。 動作主と対象の両方の人称が標示される例(タワラ語 次いで動作主(A)を表す項の人称だけを標示する言語が73あった。ユーラシア大陸の言語ではこれがもっとも普通であり、インド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、ドラヴィダ語族、チュルク語族などがこの標示をとることが多いが、北アメリカやオーストラリアには見られないものである[3]。これに対して動作の対象(P)を表す項の人称だけを標示するものは少なく、24言語だった[3]。 動作主の人称だけが標示される例(コボン語
概要
人称代名詞
動詞の人称標示
kedewakamkami-uni-hi
犬鶏3SG.A-殺す-3PL.P
「犬が鶏を殺した」
yadkajpak-nab-in
私豚殴る-FUT-1SG[A]
「私は豚を殺す」
対象の人称だけが標示される例(ヤワ語
DorpinuspoMariannar-anepata
ドルピヌスERG.3SG.Mマリアンナ3SG.F[P]-叩く
「ドルピヌスはマリアンナを叩いている/いた」
また、動作主か対象かに関わらず、人称の階層の高い方だけが標示される言語が6あった。人称の階層は一人称が最も高く、第三人称が最も低い(1>2>3)。このような言語では、動作者の人称が対象の人称よりも低い場合、逆行態(INV)という特別な動詞のかたちが使われる。