人工芝
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人工芝人工芝(側面)

人工芝(じんこうしば)はに似た形状を化合物で造った物。スポーツ用のスタジアムなどで使用する他、個人宅の用など様々なものが製造・販売されている。本項ではスポーツ用のものについて述べる。
人工芝の種類
競技用人工芝の種類

人工芝は下地の布(基布)とそれに貼り付ける芝糸(パイル)で構成される。基布の下にクッションとなるアンダーパットを敷くことも多い。同じくクッション用として珪砂やゴムチップ(温度上昇対策としても[1])が充填されているものもある。現在、販売されているのは以下のような種類である(例外も存在する)。
ショートパイル人工芝

最初に開発されたのがこれである。別名に「ノンサンド人工芝」[2] 短めのパイルを使い、基本的には充填剤を使用しない。クッションとなるパッドをその下に貼りつけるものもある。巻き取って収納することができ、スポーツイベント以外の使用時に痛めないようにできる。新しく開発されたものの中にはクッション性を向上させるために、特性の違う長短2種類のパイルをつかったものもある。しかし、スポーツ用に使う場合には摩擦が激しく、耐用年数が短い。そのため、足腰を傷めることが多かった[3]
ロングパイル人工芝

20世紀末に新たに開発されたもので、パイルを従来のものより長くしてその間に充填剤を表面上には見えない程度に詰める。充填材を多層構造にするものもある。クッション性に優れており天然芝に近い性質を持つが、施工に手間がかかる分、価格が高い。メンテナンスは充填材のコンディション維持に手間が掛かる一方、初期性能を維持しやすいメリットもある。充填材がある為、巻き取ることは不可能、充填材の重量があるので収納することはできない。スポーツイベント以外の使用時は上にシート養生をする。サッカー・ラグビー場で使用されるのは専らこちらとなるが、アメリカンフットボールや野球場でも多用されている。
砂入り人工芝

ショートパイル並みの長さのパイルに珪砂を充填したもの。こちらは砂が露出しており、滑りやすい。いわゆる「オムニコート」とも呼ばれ[4]、テニスコートや、フィールドホッケー場、野球場の一部などに使用される。屋外用に透水性を高めたコンクリート(アスファルト)、基布、アンダーパットが使用されたものがあり、特に透水性人工芝と呼称される。なお下には砕石や排水管なども埋め込まれる。
競技別
野球場「野球場#人工芝」も参照

1965年に世界初のドーム球場であるアストロドームアメリカ合衆国に誕生した。高温多湿に加えて夏場にが大量発生することへの対策だった。当初は天然芝のフィールドを採用し、芝の育成のために透光性の屋根を採用したものの、太陽光が選手のプレーに支障をきたすため、屋根にシートをかぶせるようになった。そのうちに芝が枯れてしまい、1966年に人工芝化された。この人工芝は米・モンサント社の開発で、「アストロターフ」と名づけられた。これにより緑のフィールドで一年中、プレーが出来ることになった。この頃からアメリカではアメリカンフットボール兼用の円形野球場(クッキーカッター)が流行となり、転換しやすい人工芝が続々と導入された。また維持コストも安いことから天然芝の野球場も人工芝に張り替えられるなど、人工芝は1980年代まで、隆盛を極めた。

日本では、1969年に呉羽化学(現・クレハ)によって商品化された。その後アメリカの人工芝球場ブームに合わせて、後楽園球場1976年)、新設の横浜スタジアム1978年)、阪急西宮球場1978年外野のみ、1990年総人工芝化)、新設の西武ライオンズ球場1979年)、平和台野球場1979年)、明治神宮野球場1980年ファウルグラウンドのみ、1982年総人工芝化)、藤井寺球場1985年外野のみ、1996年総人工芝化)、川崎球場1991年)など天然芝球場が次々と人工芝化された。

ところが、開発当初の人工芝は天然芝のように芝の目が長くないショートパイルで、スライディングすると火傷や擦過傷を負ったり、クッションが少ないため膝や足に負担がかかった。1980年代に入ると、透水性やクッション性を高めるため、下層部に砂・土を散布もしくは充填したものが開発された(ロングパイル人工芝の走り)。しかし、下地がコンクリートやアスファルトであることから依然選手の足腰に負担がかかるという声があがるようになった。

アメリカでは1990年代から天然芝の新古典派式野球専用球場が主流となっていった一方、芝の維持にかかる経費や多目的性、気候面を重視する日本では、1990年代以降も人工芝のドーム球場が次々と建設され、地方球場でも人工芝球場が増加していった。韓国KBOリーグでは高尺スカイドームだけが人工芝で、他の球場では人工芝だったところも天然芝に変更している。

20世紀末にはパイルを5 - 6cmまで長くしたロングパイル人工芝が開発された。最初に実用化したのはカナダのフィールドターフ・ターケット社で「フィールドターフ」と名づけられ、2000年にアメリカのトロピカーナ・フィールドで採用された。ダイヤモンドを除く内野部分を土にし、見た目もプレイ感覚も天然芝球場に近づける配慮がなされた。日本でロングパイル人工芝を最初に敷設したのは東京ドーム2002年)で、「フィールドターフ」を採用した。

これ以後新聞記事などに「ハイテク人工芝」という表記がしばしば出るようになった。ただし「ハイテク」=「新型」なっており本来のハイテクの意味とは異なる。ショートパイル人工芝でも新技術を使用している場合には「ハイテク人工芝」と報道されているケースもある。その後、他社でもロングパイル人工芝が開発され、様々な野球場に採用されている。こうしたロングパイル型は従来の人工芝に比べ、身体への負担が軽いなど選手からも概ね好評である。また高校や大学の野球部の練習場にも導入されている。日本ではダイヤモンドを除く内野部分を土にすることはほとんどなく、人工芝の色を土色にしているケースが多い。ZOZOマリンスタジアムグローブライフ・フィールド

2010年代になると、より天然芝に近い感覚の「野球専用人工芝」が登場した。日本ではミズノ・積水化学共同開発の「エムエス・クラフト・ベースボール・ターフ」が、2016年にベルーナドーム(当時西武プリンスドーム)で採用された[5]。アメリカではショー・スポーツ・ターフ社の「ショー・スポーツ・ターフ B1K」が、2019年にチェイス・フィールドで採用された。

ナショナルリーグでは2006年から2018年まで人工芝球場ゼロという状況が続き、メジャーリーグ全体でも2010年から2018年まで人工芝球場はロジャーズ・センター(1989年)とトロピカーナ・フィールド(1998年)の2球場だけとなっていた。しかし、チェイス・フィールド(2019年)、新設のグローブライフ・フィールド(2020年)、ローンデポ・パーク(2020年)と立て続けに増え、人工芝球場は5球場となっている。このうちロジャーズ・センターのみアストロターフ社製、他の4球場がショー・スポーツ・ターフ社製の人工芝を採用している。

ロジャーズ・センター(開閉式ドーム球場)、トロピカーナ・フィールド(密閉式ドーム球場)、グローブライフ・フィールド(開閉式屋根付きボールパーク)は当初から人工芝を採用している。ロジャーズ・センターは天然芝化を発表したものの結局頓挫した。チェイス・フィールド(開閉式屋根付きボールパーク)は2019年に、ローンデポ・パーク(開閉式屋根付きボールパーク)は2020年にそれぞれ天然芝から人工芝に転換した。チェイス・フィールドは高温であるため人工芝化され、翌年に新設されたグローブライフ・フィールドも高温に加えて多雨であるため人工芝を採用した。ローンデポ・パークは一日4時間ぐらいしか日射しを受けることができず、天然芝の手入れに長年悩まされていた。

日本野球機構(NPB)加盟プロ野球チームの本拠地球場のうち8球場が人工芝球場で、そのうち4球場が「エムエス・クラフト・ベースボール・ターフ」を採用している。ショートパイルの球場は札幌ドームを本拠地としていた北海道日本ハムファイターズが2023年より内外野総天然芝のエスコンフィールドHOKKAIDOに移転したことでNPBからは消滅した。また、宮城球場では2005年より人工芝が導入されていたが、2016年シーズンより内外野総天然芝に変更された。ただし、ファウルゾーンは人工芝のままである。阪神甲子園球場は内野は土、外野は天然芝であるが、一・三塁側ファウルゾーンの一部やウォーニングゾーンを人工芝にしている。
アメリカンフットボール場エンドゾーンにヘルメットが描画されたカウボーイズ・スタジアム

アメリカンフットボールの競技場は季節的な問題及び競技の性質により芝が傷みやすいため、人工芝が多い[6]

NFLの一部のスタジアムで使用されており、特に(野球・サッカーなどでの利用を想定しない)専用スタジアムで採用される傾向が強い。1968年よりヒューストン・オイラーズがアストロ・ドームを本拠地として以来、野球兼用を中心にアストロターフが多く採用されたが、2000年代に入ってからはロングパイルを採用した専用スタジアムに移転する球団が目立つ。ロングパイルとなってからはラインやエンドゾーン、ロゴなどを着色したもので敷設して描くスタジアムも多い。

日本のXリーグや大学リーグの試合会場は人工芝にしている会場が多い。大阪市長居球技場(現:ヨドコウ桜スタジアム)はアメリカンフットボールでの利用を想定し、野球場以外における日本初の人工芝球技場として開場したが、現在は後述の通りサッカーなどでの利用を前提に天然芝に転換されている。


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