人事院勧告
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総理の菅義偉へ人事院勧告を手交する人事院総裁の川本裕子(2021年8月)

人事院勧告(じんじいんかんこく)とは、人事院が、国会内閣、関係大臣その他機関の長に行う、国家公務員の一般職職員の「給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告」(国家公務員法第3条第2項)の総称である。人勧とも略称される。一般には、単に人事院勧告と言う場合、給与制度に関する勧告である給与勧告を指すことが多い。
概説

人事院は、法律の定めるところに従い、給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告」(国家公務員法第3条第2項)をつかさどる。勧告は人事院の権限のうち、最も重要なものの一つであるとされる(浅井1970、p.115)[1]

ここで言う勧告とは行政機関が他の政府機関に参考意見を提出することである。勧告制度は人事院だけではなく、行政委員会審議会等各種の行政機関に設けられている。勧告制度は勧告する機関とそれを受ける機関との間に、上級・下級の指揮命令関係がないことを前提とし、相手側への法的な拘束力はないが、勧告する機関の専門的地位と勧告の権威によって実際上、一定の影響力をもつ。とりわけ人事院勧告は一般に公務員の労働基本権制限の代償措置とみなされているため、影響力は強い(詳しくは#労働基本権制約の代償措置性を参照)。

人事院勧告の勧告先の機関には、国会、内閣、関係大臣その他の機関の長があるが、勧告の種類によってその規定は異なる。具体的には、その実現に法律の制定改廃を要する種類の勧告は国会や内閣に対して、行政措置で足りる勧告は関係大臣その他の機関の長のみに対して行うことが定められている。国会に対する勧告は、憲法に国会に対する内閣の責任制度(日本国憲法第66条第3項)を定めた日本においては、人事院の強い独立性とその勧告内容の重要性を意味する。内閣所轄下にあって国会に対する勧告権をもつ行政機関は、現行制度下では人事院のみである[注釈 1]

「人事院勧告」という呼称は人事院が行う諸勧告の総称、通称であり、法律上の用語ではない。国家公務員法にて「勧告」の語を用いて規定された人事院の権限には大きく「人事行政改善の勧告」(第22条)と勤務条件の変更に関する勧告(第28条ほか)の2種類に大別でき、後者のうち給与、勤務時間等主要な事項については給与法勤務時間法等の関連法に個別規定が設けられている。

この他にも、上の「勧告」(GHQの作成した国公法草案の英原文:recommendation)と性質が同一または類似する権限が、「意見の申出」(to submit opinions)、事案および(調査研究)成果の「提出」(submit its recommendation)といった形式で定められており、「人事院勧告」の範囲は一様ではない。本項ではこれら全体を扱うものとする。

元人事院総裁の浅井清は上の勧告制度の特質を踏まえ、いずれも、国会と内閣を勧告先に含むことから「勧告」と「意見の申出」、「提出」はその内容においては同じことであるとしている。ただし、「筆者の経験によると、意見の申出は、これを受け取るほうで、勧告ほど強く感じないように思われる」とも述べている(浅井1970)。また、人事院勧告の中には、給与勧告(後述)のように「報告」と密接に結びついているものもある。以下、国公法その他関連法に規定された人事院勧告を列挙する。以下、国公法その他関連法に規定された人事院勧告を列挙する。

「人事行政改善の勧告」(国公法第22条第1項) - 人事行政の改善に関し関係大臣その他の機関の長に勧告することができる。ただし、この勧告をしたときは、その旨を内閣に報告しなければならない(同条第2項)。なお、国家公務員宿舎に関する事項はこの勧告と国公法第28条第1項に定める勧告に含まれる(国家公務員宿舎法第21条)。本条制定以来、この勧告がなされたことはない([2]p.75)。

「法令の制定改廃に関する意見の申出」(国公法第23条) - 法令の制定改廃に関し意見があるときは、その意見を国会及び内閣に同時に申し出る。最近の例では、給与勧告と同時の2010年8月10日、非常勤職員が育児休業を取得できるようにするために「国家公務員の育児休業等に関する法律の改正についての意見の申出」を行った。過去人事院が行った意見の申出は、そのほとんどが内容どおりに立法化されている([2]p.77)。

勤務条件の変更に関する勧告(国公法第28条第1項) - 給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項を、国会により社会一般の情勢に適用するように(情勢適応の原則)、随時変更するよう勧告する。ここでいう「基礎事項」とは法律の制定改廃を要する事項であるため、1950年代後半まで人事院は、当該勧告と国公法第23条の「法令の制定改廃に関する意見の申出」を厳密に区別した上で、勧告後に改めて「意見の申出」を国会及び内閣に行っていた。現在は、単に当該勧告を国会と内閣に行うことで済ませている[2]。なお、国家公務員宿舎に関する事項はこの勧告と国公法第22条第1項に定める勧告に含まれる(宿舎法第21条)。

給与勧告(国公法第28条第2項) - (詳しくは#給与勧告を参照)。給与改定勧告とも。給与水準・制度の適正化・改善について国会及び内閣に対して勧告する。国公法第28条に規定された勧告の具体的一形態である。職員の給与を調査研究し、それが適当であるかどうかを明らかにした「報告」とセットでなされる。「情勢適応の原則」により、国家公務員の給与水準を民間のそれに合わせること(民間準拠)を基本としている。給与法において、給与一般のより詳細な勧告規定がある。寒冷地手当については、寒冷地手当法にて2種類の勧告が特記されている。

給与に関する法律に定める事項の改定に関する勧告(国公法67条) - 国公法28条2項に規定された給与水準の改定以外で、給与に関する法律に定める事項の改定案を作成し、国会及び内閣に勧告する。

行政措置要求の実行勧告(国公法第88条) - 行政措置の要求に対し、人事院が措置の必要性を認めた場合、内閣総理大臣又は請求者たる職員の所轄庁の長に対し、その実行を勧告しなければならない。

補償制度の研究成果の「提出」(国公法第95条) - 補償制度の研究成果を国会及び内閣に提出しなければならない。規定どおり、人事院は研究成果を1951年2月17日に国家公務員災害補償法案として提出し、同法は第10回国会にて成立、同年7月1日に施行された。

退職年金制度に関する「意見の申出」(国公法第108条) - 退職年金制度に関して調査研究を行い、必要な意見を国会及び内閣に申し出る。退職年金制度は現在、退職共済年金として財務省の所管する国家公務員共済組合が運用しているが、退職年金制度は人事労務管理上の重要な機能を有しており、人事行政の公正確保と職員の利益保護のために、人事院の意見の申出が認められている[3]。ただし、退職年金制度は第一義的には社会保障制度の一部であるため、改正の際に政府・内閣は人事院の意見の申出の有無にかかわらず、社会保障制度審議会に意見を求めなければならない。

勤務時間、休日及び休暇に関する勧告(勤務時間法第2条第1項) - 勤務時間、休日及び休暇に関する制度の改定を国会および内閣に対して勧告する。人事院が上の制度について調査研究を行い、その結果を国会及び内閣に同時に報告、必要があればそれにあわせて勧告がなされる。給与と同様に民間準拠原則を採用しているほか、「行政サービスの維持」や「仕事と生活の調和」といった観点から決定される。


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