人の移動の歴史(ひとのいどうのれきし)あるいは人の移住の歴史(ひとのいじゅうのれきし)(英: history of human migration)について解説する。
人の移動あるいは人の移住(英: human migration)は、人間がある場所から別の場所へ、永続的にあるいは一時的に移動すること(そこに住まうこと)である。
古代のこと、中等教育の歴史の教科書などで、パターン化された歴史用語で言う場合は「民族大移動」などと「移動」という呼び方で表現する傾向があるが、一方、その詳細を説明する文章中では「移住」と言うことも多く、また教科書以外で近・現代の事象を説明する場合は最初から「移住」と表現することが多く、「移動」ということはどちらかというと少ないが、両者は本質的に同じことを指しており、いわゆる "表記の揺れ" だと理解してよい。本記事の説明文中でもやはり「移動」と表記することも「移住」と表記することもあるが、特に区別して使い分けているわけではなく、単なる表記の揺れだと理解していただきたい。
本記事では、人類の誕生以来、現代に至るまでの、人の移動(移住)の歴史を説明する。
旧石器時代
人類のアフリカでの誕生、出アフリカ、世界への拡散ハプログループAの移動
出発した場所
現生人類の最も古い化石は、エチオピアのオモ遺跡(英語版)から発見されたおよそ19万5,000年前のものとされてきたが、2004年にモロッコのen:Jebel Irhoudの地層で発見された、頭蓋骨及びその同年代のもの思われる複数の石器がおよそ30万年前のものであると結論づけられた[1][2][3][4][5]。アフリカ人の遺伝的多様性に関する広範な研究から、南西アフリカのナミビアとアンゴラの沿岸境界近くが現生人類の移動の起点(出発点)だとされている[6][7]。父系最古の遺伝子であるハプログループA (Y染色体)の分布もそれを示唆している。
出アフリカ
現在広範に支持されているのはアフリカ単一起源説である。ホモ・サピエンスは7万年前にアフリカから外へ移住し始め(出アフリカ)[8][9]、そのルートはアフリカ東部の突端であるいわゆるアフリカの角からアラビア半島を経由したものだと考えられている[10]。Y染色体ハプログループの拡散と人種ピロリ菌亜型の拡散経路図
アフリカを出た現生人類はアラビア半島沿岸部を伝って現在のイラン付近に至り、そこを起点に、インドから東南アジア、オセアニア方面にむかう「南ルート」、中央アジアを経由してアルタイ山脈、東アジア、北アジア方面に向かう「北ルート」、中東からヨーロッパに向かう「西ルート」の3方向に分かれた拡散した[11]。人類のY染色体ハプログループ、ミトコンドリアDNAハプログループ、ピロリ菌および形質人類学的特徴もこの流れに対応しており[12]、南ルートをとった集団がオーストラロイド、北ルートの集団がモンゴロイド、西ルートがコーカソイド、非出アフリカ(アフリカから出なかった集団)がネグロイドということになる。
Y染色体ハプログループの拡散と人種
非出アフリカ(ネグロイド)…A(カポイド)、B(ネグリロ)、E(コンゴイド)