京(けい、英: K computer)は、兵庫県神戸市の理化学研究所計算科学研究機構に設置、運用されていたスーパーコンピュータの名称(愛称)である[1]。従来は「次世代スーパーコンピュータ」、「汎用京速計算機」、「京速」などと呼ばれていた。文部科学省の次世代スーパーコンピュータ計画の一環として、理化学研究所と富士通が共同開発した。「京」は、浮動小数点数演算を1秒あたり1京回おこなう処理能力(10ペタフロップス)に由来する[2]。
総開発費1,120億円を投じ、2012年6月に完成[3]、同年9月に共用稼働を開始[4]。
TOP500で、2011年6月および2011年11月に1位[5][6]になるが、完成直前の翌2012年6月には2位[7]に、同年11月には3位[8]に後退。この年1位の米タイタンは開発費が9,700万US$(約76.5億円)で17.59ペタフロップス[9]。2013年6月に4位[10]、2015年7月に4位[11]となった。また2011年、2012年、2013年、2014年にHPCチャレンジ賞クラス1[12][13]、2013年に日本初となるHPCチャレンジ賞クラス2を受賞[14][15]。2011年、2012年にゴードン・ベル賞[16][17]を受賞。2014年、2015年7月、11月、2016年7月、11月、2017年6月、11月、2018年6月、11月、2019年6月にGraph500で9期連続1位(通算10期)を獲得した[18][19][20][21][22][23][24]。
2019年8月16日に計算資源の共用を終了[25]し、そして8月30日にシャットダウンされた[26]。その後、性能が100倍程度に向上した新しい「次世代のスーパーコンピュータ」富岳(ふがく)に置き換えられ、2021年3月に運用が開始された[27]。
概要「京」が設置された理化学研究所計算科学研究機構(神戸市)
次世代スーパーコンピュータプロジェクトは、2005年に文部科学省と理化学研究所で開始され、2006年に国家プロジェクトとなった。プロジェクトの目的は、過去に世界最高性能を記録した数値風洞、CP-PACS、地球シミュレータに続くナショナル・リーダーシップ・スーパーコンピュータ(NLS)[28]の構築、およびプロジェクトを通じた計算科学・計算機科学分野の人材育成である。今後5-10年の計算需要に基づき、性能目標のひとつとしてLINPACKベンチマークでの10ペタフロップス達成を掲げた。
「京」は特定分野に特化した専用機ではなく、幅広い用途に応用できる汎用計算機として設計された。当初はベクトル機とスカラ機からなる「複合型」を計画・開発していたが、2009年5月にベクトル機を担当していたNECおよび日立が撤退したことにより、スカラ型のみの構成に設計変更された。この結果、CPUに富士通が設計・開発したSPARCベースのSPARC64TM VIIIfxを採用し[29]、Tofuと呼ばれる6次元メッシュ/トーラスのインターコネクトなど、富士通の技術を全面的に使用した計算機となった。その後、富士通は「京」のCPUをSPARC64TM IXfxに変更して性能を向上させた市販モデルのPRIMEHPC FX10を発表し、国内・海外に販売している。
なお、2009年11月の事業仕分けで事実上の凍結と判定されたことを機会として、各種の議論が行われたが、後に予算復活され、2012年6月に完成した。
開発中の2011年6月および2011年11月にTOP500で1位となり、2011年11月にHPCチャレンジ賞とゴードン・ベル賞を受賞した。また性能以外に安定性では、2011年11月のTOP500測定時に29時間28分の無故障動作を実測した[30]。
ロゴは書道家の武田双雲によるもの。
歴史
2005年
文部科学省科学技術・学術審議会等に「政府の国家戦略として最先端の性能を持つスーパーコンピュータの研究開発を持続的に推進していくべき」との提言が提出された[31]。2005年10月、文部科学省のイニシアティブにより、開発主体の理化学研究所を中心にプロジェクトが開始した[32][33]。
2006年
文部科学省による事前評価での
ターゲットの明確化
ベクトル部分の再検討
ソフトウェア開発
開発体制の構築
日本全体の計算資源の役割分担を含む中長期的な計画等の必要性についての指摘を受け、フォローアップを実施した[34]。
9月、世界最高性能を目指した次世代スーパーコンピュータ・システムの概念設計が開始された[35]。概念設計段階では、それぞれの専門分野から技術を持ち寄り、要素技術の開発を行った。
ソフトウエア(OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトウエア)等の設計・研究開発
ハードウエア(計算機システム及び超高速インターコネクション)の設計・研究開発