交流電化
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交流電化(こうりゅうでんか)は、鉄道の電化方式の一つで、交流電源を用いる方式。
概要

交流電化には、単相交流を使うものと、三相交流を使うものがある。さらに単相交流には商用周波数(50 - 60 Hz)を使うものと、その2分の1から3分の1の低い周波数を使うものがある。現在、主流は商用周波数の単相交流で、電圧は主に25 kVを使用する。
特徴

直流電化と比較して、以下のような特徴がある。
送電ロスが少なく地上設備のコストが低い
同一電力送電する場合のロスはおおむね電圧の2乗に反比例することから、電圧はできるだけ高くした方が送電には有利である。同じ電力を送るのに架線で失われる電力損失が少なくて済むことから、交流電化は直流電化に比べ変電所の間隔を長く取ることができ[注釈 1]、直流電化の場合には別途必要となる饋電線(架線に並行した太い電力線)、変電所への送電用の特別高圧線そして、自動閉塞で用いる閉塞信号機で用いる高圧線も不要であり[注釈 2]、全体として地上設備コストの低減が図れる。交流は動力車において変圧器を用い容易に電圧を変えられるため、使用する電動機の電圧に合わせた600 - 3000 Vを用いる直流電化のような電圧の縛りから解放され、任意の高い電圧を選べる。しかし架線電圧が高くなると車両ならびに地上設備の離隔距離[注釈 3]を大きくとらなくてはならず、車両の設計が困難になるばかりか建設費など他のコストが上がってしまう。そのため動力車に供給すべき電力のほか、設備費用など制約条件を総合的に検討した上で11000 - 50000 Vの電圧が選択される。日本においては20000 V(在来線)と、25000 V(新幹線)の2種類の電圧が採用された。交直同様条件での消費電力量は、発電所からの受電電力量において直流電化に比較して20?40%が省力化、節電されている。この長期に渡る省力化の為、1960年前後以降の国鉄の新幹線と在来線九州全域、在来線東北以北全域などは交流電化が推進され、直流電化路線は戦前に直流電化の私鉄として開業した仙石線、地下鉄直通のために共通する直流電化を採用した筑肥線など、ごく一部にとどまる。
大容量送電が可能
交流は高電圧を用いることから、直流に比して小さい電流での送電が可能である。そのため、負荷電流が直流方式と比べて1/10以下になり、電車線は細いものですむ、したがって、大きな出力を必要とする電気車両への大容量送電に適している。日本の新幹線は高速走行で大量の電力を必要とするため、交流電化を採用した[注釈 4]
電動機起動制御のロスが少ない
抵抗制御を用いた直流車では、主電動機に与える電圧を制御するため、抵抗器を用いて一部を熱として捨てていた。これに対し交流車では、電圧を直接制御できるタップ制御やサイリスタ制御が基本となっており、無駄なく電力を利用できる。ただし、後に直流車・交流車の区別なく電圧を自在に調整することができ、小消費電力であるVVVFインバータ制御方式が主流となりこの点における交流車としての利点は少なくなっている。
粘着係数が高い
交流車は粘着係数が高いという長所を持つ。直流車では低速で電動機を直列につなぐが、電流一定のために、ある電動機で空転が始まってもトルクが下がらず回転数がむしろ上がる傾向になる。一方交流車では一般に並列接続であるので、回転が上がるとその電動機に流れる電流が減少してトルクが下がり、容易に再粘着する。また、以前の直流車で一般的であった抵抗制御では、加速(力行)中に限流値により一段ごと抵抗を抜く時に電流が一時的に増大して空転を起こしやすいのに対し、タップまたはサイリスタにより連続的に電圧を変えられる交流車は優位であり[1]、一時は交流電気機関車のD級(動軸数4)は直流電気機関車のF級(動軸数6)に匹敵すると評された[2]。ただし、先述のVVVFインバータ制御方式が主流となり再粘着制御が容易に行えるようになったことから、この点における交流車としての利点は少なくなっている。
かつては車両コストが割高
特別高圧を電動機が使用可能な電圧に下げるため、車両には重い変圧器を搭載しなければならない。また、主電動機は、直流を電源として用いる直流電動機の場合には、整流器またはサイリスタが必要であり、交流を電源として用いる誘導電動機の場合には、PWMコンバータで直流に変換した後にVVVFインバータで三相交流に変換する主変換装置が必要である。両者とも、重量のある商用電源対応の平滑リアクトル[注釈 5]が必要であり、集電装置も高電圧対応である必要がある。したがって、車両の製作費およびメンテナンスコストが高くなり、重量も大きくなりがちである。高額な直流直巻電動機を用いた直流電車においては短時間の最高出力は連続定格出力の4、5割増しの大きなものとなる。しかし交直両用車の場合、コストの制約・軸重制約のため、電動機の最高出力時の消費電力よりかなり容量の小さい、連続定格をやや上回る程度の変圧・整流機器となるため、最高出力は直流時をかなり下回る[注釈 6]

以上が交流電化の特徴であり、地上設備と車両のコストに鑑みると、需要が少ない地域の輸送や動力集中方式に適した方式と従来言われてきた。JR在来線のように交流電化と直流電化が混在する場合、交流直流両用車を使うことになり、20世紀終盤までは導入コストが高くなる傾向があった。

21世紀に入り整流機器が安価になったことにより直流電化の費用が低下したことに加え、電車化の進展やVVVFインバータ制御により直流電車の性能が向上したものの、変電所の設置間隔と消費電力の省力化は交流電化の最大の利点である。

また電力回生ブレーキの観点からは、回生電流を電源系統に戻すことができる等の要因により回生失効がおこりにくい特徴が挙げられる。小規模ではあるがこの点も直流電化に較べ交流電化のメリットである。
交流饋電系統の構成交流饋電系統の饋電回路のモデル図。A断路器、B受電用遮断器、C三相二相変換変圧器、D饋電用遮断器、Eエアセクション、F饋電区分所、G帰線、H饋電線又は負饋電線、I電車線、Jレール。

日本の交流饋電系統の饋電回路は、沿線の変電所に一般電力網からの特別高圧系統の三相交流電力を受電し、断路器と受電用遮断器を介して、三相二相変換変圧器で、90度位相差がある2組の単相交流電力に降圧変換し[注釈 7]、それらを饋電用遮断器を介して方向別又は上下線別に流し、電車線(トロリー線)に給電される。その後、電車(負荷)で使用された電流は、レールから負饋電線又は架線・AT饋電線[注釈 8]を介して変電所の三相二相変換変圧器に戻る。

三相二相変換変圧器は、当初はスコット結線変圧器が使用され、一般電力網からは66 kV - 154 kVの特別高圧を受電していたが、その後、饋電(通電)距離を長く、送電容量の大きくできるAT饋電方式が開発されたため、一般電力網からはさらに上の187 kV - 275 kVの超高圧を受電して饋電することが可能になった。ところが超高圧変圧器の1次側は送電線の地絡事故時の要請からその中性点を直接接地にすることが要求される。そのため1次側の中性点を直接接地することが可能な変形ウッドブリッジ結線変圧器が使用されており、主に新幹線などで使用されている。さらに変圧器の受電側にある1次側の中性点を直接接地が可能かつ、変圧器の饋電側にある2次側の結線が電気的に接続点を持たず、変圧器の巻線構成を簡単にしたルーフ・デルタ結線変圧器が東北新幹線新七戸変電所で採用され2002年に運用を開始した[3]。なお変圧器の容量は、在来線が6 - 60 MVA程度、新幹線が30 - 200 MVA程度としている。

直流饋電系統とは違い、隣接する変電所の電車線の電圧が等しくても、交流の電圧位相が異なる場合があるため、その場合は並列接続することはできない。そのため変電所間の中間に遮断器などの開閉装置を設けた饋電区分所を設置し、変電所と饋電区分所には、エアセクションまたは電車線にFRP製の絶縁体と吊架線に数個の250mmの懸垂碍子で構成でされた異相セクションと呼ばれるされたデッドセクションを設置して、変電所から饋電区分所までの単独饋電としており、この区間おいては、電気車はノッチオフで通過している。さらに新幹線では、変電所から饋電区分所の間に補助饋電区分所を設置しており、変電所と饋電区分所には、2つのエアセクションと真空切替器で構成した約1000mの中間セクションを設置した異相区分用切替セクションが設置して、軌道回路による列車検知により自動で進行方向の電源に切替わることで、電気車はノッチを入れたまま通過することができるようになっており、切替による停電時間は0.3秒としている。

交流饋電系統では、電車線を流れる交流電流の不平衡による電磁誘導や帰線電流の一部がレールから大地に漏れる[注釈 9]などして、近くの通信線や電話線に電磁誘導障害を発生させる、そのため、通信線や電話線にその対策をするとともに、饋電回路でもレールに帰線電流が流れる区間を限定するなどの処置の他に、電車線と平行して帰線である負饋電線又はAT饋電線を張り、お互いの磁力を打消し合う方法が取られる。その方法として3 - 4 kmごとに電車線にセクションを設け、そこに電車線と負饋電線との間に吸上変圧器(ブースタートランス)を接続し、電車線の電流により吸上変圧器がレールの帰線電流を強制的に負饋電線に吸上げて電磁誘導障害を軽減させるBT饋電方式、10 - 15 kmごとに電車線・レール・饋電線との間を接続した単巻変圧器を設置して、帰線電流を単巻変圧器を介して饋電線に吸上げて、誘導障害を軽減させるAT饋電方式がある。

変電所と饋電回路には過電流や地絡電流などによる故障電流や内部故障などから機器・電源系統を保護するため、さまざまな保護継電器が取付けられている。変電所内では受電側に過電流継電器・接地継電器・不足電圧継電器を、変圧器内の内部故障の検出に、変圧器の温度・油量・圧力・油流および過電流継電器をそれぞれ設置し、受電用遮断器を作動させて、機器等の故障による事故の波及を防ぐ。特徴的な保護継電器装置として、容量が10 MVAの変圧器の場合、変圧器の1次側電流と2次側電流を比較する比率差動継電器が設けられる。またAT饋電用変電所での饋電母線の地絡検出において、計器用変圧器 (VT) に中性点接地形VT(EVT)を使用しており、VTの2次側の電圧上昇を検知することで地絡を検出する。


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