この項目では、その構造の概要、特にDNAの立体構造について説明しています。同名の通称がある江戸時代後期に特有の建造物については「栄螺堂」をご覧ください。
DNAの二重らせん構造(二重らせん状)。主溝 (major groove) と副溝 (minor groove) が示されている。
二重らせん(にじゅうらせん、二重螺旋[1])は、
2本の線が平行したらせん状になっている構造。
DNAが生細胞中でとっている立体構造。
本項目では、 2. のDNA二重らせん (DNA double helix、DNA二重螺旋) について解説する。互いに相補的な2本のDNA鎖がらせん状に絡み合う構造は、遺伝情報の複製の仕組みを説明するものであり、DNA分子が遺伝情報を担う物質であることを支持する強い証拠となった。1953年の2月28日にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがDNAの二重螺旋構造を発見した[1]。 DNA二重らせん構造(二重らせん状)は、1953年、分子模型を構築する手法を用いてジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって提唱された[2]。当時、DNAが遺伝物質であることの証拠は既に発表されていた。例えば、アベリーらによる肺炎双球菌の形質転換実験(1944年)やハーシーらによるブレンダー実験(いわゆるハーシーとチェイスの実験、1952年)からの証拠である。しかし、複雑な遺伝情報を単純な物質である DNA が担っているという考えには批判も多く、タンパク質こそが遺伝物質であろうという意見も強かった。二重らせんモデルの提唱によって、遺伝がDNAの複製によって起こることや塩基配列が遺伝情報を担っていることが見事に説明できるようになり、その後の分子生物学の発展にも決定的な影響を与えた。1962年、この研究により、ワトソンとクリックはモーリス・ウィルキンスとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。 二重らせんモデルでは、以下の7つの特徴が強調されている(なお、以下の特徴はB型DNAのものである)。 1. の特徴を証明することに最も困難があったと言われている。光学異性体の研究で有名なライナス・ポーリングもDNAの立体構造について研究し、ワトソンとクリックの論文の数か月前に三重らせんモデルを提案している。後にDNA密度測定により二重らせんが正しいことが証明された。 2. の特徴は反平行の二本鎖DNAのみが二重らせんを構築できることを説明している。デオキシリボースの5'側の配列を上流、3'側の配列を下流とする。 3. の特徴には、左巻きのZ型DNAという例外が知られている。 4. の特徴はプリン、ピリミジン環が内部であると同時に糖-リン酸に関しては外部に配向していることを説明している。なおプリン、ピリミジン環はらせん軸に対してほぼ直角に傾いている。 5. の特徴はエルヴィン・シャルガフによって提案された塩基存在比の法則(後述)をうまく説明することができた。後にアデニン (Adenine) とチミン (Thymine) の間に2本の、グアニン (Guanine) とシトシン (Cytosine) の間に3本の水素結合が存在することが示された(詳しくは相補的塩基対)。一般に、この相補的塩基対は発見者の名前にちなみワトソン・クリック塩基対と呼ばれている。
概説
主要な特徴・模式図DNA二重らせんのいくつかの特徴を示す模式図
二重らせんは2本のポリヌクレオチド鎖から成る。
2本のポリヌクレオチドはそれぞれ方向が逆である(反平行である)。
二重らせんは、右巻きである。
塩基は二重らせんの内部に、リン酸基をもつバックボーンは外側に配向している。
一対の塩基は相補的な関係にあり、水素結合によって結ばれている。
二重らせんは約10塩基対で一回転する。
二重らせんには、主溝(major groove)と副溝(minor groove)がある。