二酸化炭素貯留
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火力発電所から排出される二酸化炭素を、地形と環境を利用して吸収・固定する方法を模式的に表した図

二酸化炭素回収・貯留[1](にさんかたんそかいしゅう・ちょりゅう、: carbon dioxide capture and storageまたはcarbon dioxide capture and sequestrationまたはcarbon dioxide control and sequestration[2]、CCS)とは、通常、セメント工場やバイオマス発電所などの大規模な汚染点源からの廃棄物である二酸化炭素(CO2)を回収し、貯留場所に輸送し、大気の影響のない場所、通常は地下の地層に堆積させるプロセスである。目的は、重工業により大気中に大量のCO2が放出されるのを防ぐことである。源業や暖房からの二酸化炭素排出地球温暖化海洋酸性化[3]への影響を緩和するための潜在的な手段である[4]。CO2は数十年前から石油の回収強化など様々な目的で地層に注入されてきたが、CO2の長期貯留は比較的新しい概念である。直接空気回収は、点源ではなく、周囲の空気からCO2をスクラブするCCSの一種である。

二酸化炭素は、吸収吸着、ケミカルループ、膜ガス分離、ガスハイドレート技術などの様々な技術を使用して、空気中から直接、または産業用ソース(発電所の煙道ガスなど)から回収することができる[5] [6]。アミンは、代表的なカーボン・スクラブ技術では溶剤として使用されている[7]。最新の従来型発電所にCCSを適用した場合、CCSなしの場合と比較して、大気中へのCO2排出量を約80 - 90 %削減することができる[8]。CO2を回収・圧縮する発電所に使用する場合、その他のシステムコストは、化石燃料発電所の場合、生産されるエネルギーのワット時当たりのコストを21 - 91 %増加させると推定されており[8]、既存の発電所にこの技術を適用すると、特に隔離場所から離れた場所にある場合にはさらにコストが高くなるとみられている。2019年現在、世界では17のCCSプロジェクトが稼働しており、年間31.5百万トンのCO2を回収しており、そのうち3.7百万トンは地質学的に貯蔵されている[9]。そのほとんどは発電所ではなく産業由来である[10]

バイオマスと組み合わせれば、CCSは正味のマイナス排出量になる可能性がある[11]。英国のドラックス発電所(英語版)では、2019年にバイオエネルギーCCS(BECCS)を用いた試験が開始された。成功すれば、大気中から1日1トンのCO2を除去することができる[12]

CO2の貯蔵は、深い地層において鉱物炭酸塩の形で行われることが想定されている。発熱性CSS(PyCCS)[13]も研究されている[14]。海洋深層貯留は、海洋を酸性化させる可能性があるため、利用されていない[15]。地質層は現在、最も有望な貯留場所と考えられている。米国国立エネルギー技術研究所(NETL)は、北米には現在の生産率で900年分以上の二酸化炭素を貯蔵するのに十分な容量があると報告している[16]。一般的な問題は、海底または地下貯留の安全性に関する長期的な予測が非常に困難で不確実であり、一部の二酸化炭素が大気中に漏れ出す危険性が残っていることである[17]
回収

回収方法として代表的なものの1つが、火力発電所工場などで燃料燃焼によって排出される二酸化炭素を回収するもの、つまり排出源から効率よく回収を行いそれを貯蔵する方法である[18]。二酸化炭素の回収・貯蔵、二酸化炭素の回収・貯留、二酸化炭素の分離・回収、二酸化炭素隔離、炭素隔離など、さまざまな呼び方がある。

回収方法としては他にも、大気中に含まれる二酸化炭素を集めて貯留する方法、木材など将来二酸化炭素を放出するもととなる物質を集めて貯留する方法なども考えられる[18]。大気中からの回収に関しては、化学的に行わなくても植林等により行える(植林による吸収源活動は、二酸化炭素貯留・CCSとは別の活動であり、分けて考える。ただ、バイオマス技術やその二次利用技術に関しては関連性の深いものがあるため、一体的に考える場合もある)。大気中からの化学的な回収は技術的に容易ではない上、回収効率や大気中二酸化炭素濃度の削減効果が高くないので、現在のところほとんど行われていない。
回収対象
大規模排出源での回収
工場発電所ガス田油田鉱山など、二酸化炭素を大量に排出する場所で回収を行う。回収の効率は良い。
分散型排出源での回収
自動車航空機船舶発電機家庭など、少量ながら発生源が多数あるものから回収を行う。回収の効率は悪い。
回収技術
吸収法
化学吸収法
二酸化炭素を反応吸収する
アミンなどのアルカリ性の溶液を用いて、二酸化炭素を分離・回収する手法[19][20][21]。吸収した溶液を加熱してCO2を分離する「再生工程」で消費する熱コストが問題となっている。化学工場プラントなどで実用化しているものもある[20]
固体化学吸収法
二酸化炭素のみを吸収するような固体に、二酸化炭素を吸収させて分離・回収する手法[19][22]。固体にはリチウムシリケートや酸化亜鉛などを用いる[19]
物理吸収法
高圧でメタノール、ポリエチレングリコール等の溶解度を上げた液体に二酸化炭素を物理的に吸収させ、分離・回収する手法[19][20]。大規模化が比較的容易。化学吸収法に比べて必要な熱量が小さく、排気ガス中に含まれる硫黄酸化物の影響による吸収液の劣化程度も小さい。吸収能力が溶解度に依存する[20]。冷メタノール吸収液などが実用化されている[20]
物理吸着法

ゼオライト活性炭アルミナなどの吸着剤に、二酸化炭素を選択吸着させ、分離・回収する手法[19]。さらに、圧力を変化させて二酸化炭素を選択的に分離・回収を行う方法をPSA法といい、温度を変化させて行う方法をTSA法という[23]。その双方を組合わせた方式をPTSA法という[23]。日本国内では、電力会社に実施例がある。
膜分離法

セルロースアセテートなどの多孔質の高分子膜にガスを透過させ、透過速度の違いを利用して、二酸化炭素を選択的に分離・回収する手法[19][24]。プロセスが簡単で運転が容易であるため、将来的には期待できる技術である。二酸化炭素の回収率の低さ、膜材料の耐久性、分離膜が高価なことなどに課題がある。
深冷分離法

ガスを圧縮液化し、蒸留により他の不純物を除去し、二酸化炭素を選択的に分離・回収する手法[19]。液化二酸化炭素としての回収は実用化され実績がある[19]
酸素燃焼法

二酸化炭素が発生するボイラーや燃焼炉において、支燃ガスに空気ではなく酸素を利用する酸素燃焼が二酸化炭素回収でも利用される[25]


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