乳酸菌
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Enterococcus faecalisLactobacillus sp.Streptococcus mutans

乳酸菌(にゅうさんきん)は、代謝により乳酸を産生する細菌類の総称。生育の為には糖類アミノ酸ビタミンB群、ミネラル(Mn , Mg , Fe等の金属)が必要な細菌類[1]ヨーグルト乳酸菌飲料漬け物など食品の発酵に寄与する。一部の乳酸菌はなどの消化管腸内細菌)やに常在して、他の微生物と共生あるいは拮抗することによって腸内環境の恒常性維持に役立っていると考えられている。
細菌学的な位置づけ

乳酸菌という名称は、細菌の生物学的な分類上の特定の菌種を指すものではなく、その性状に対して名付けられたものである。乳酸発酵によって糖類から多量の乳酸を産生し、かつ、悪臭の原因になるような腐敗物質を作らないものが、一般に乳酸菌と呼ばれる。乳酸菌は、また、TCA回路を有さずその発酵の様式から、乳酸のみを最終産物として作り出すホモ乳酸菌と、ビタミンC[2]アルコール酢酸など乳酸以外のものを同時に産生するヘテロ乳酸菌に分類される[3]。また、その細菌の形状から、球状の乳酸球菌(にゅうさんきゅうきん)と桿状の乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)に分類されることもある。ただし、これらはいずれも便宜的な分類名である。

一般に、乳酸菌と呼ばれて利用されることが多い代表的な細菌には、以下のような属が挙げられる。いずれも発酵によって多量の乳酸を産生するだけでなく、比較的低いpH条件下でよく増殖する。これらの菌にとって乳酸は発酵の最終産物であると同時に、それを作り出して環境を酸性に変えることで他の微生物の繁殖を抑え、自分自身の増殖に有利に導く役割を持つと考えられている。

但し、以下の要件を満たす菌類が乳酸菌とされている[1]
グラム陽性

桿菌球菌

芽胞=なし

運動性=なし

消費ブドウ糖に対して50%以上の乳酸を生成

ナイアシン(B3)を必須要求

ビタミンとの関係

ヘテロ型桿状乳酸菌(21株を実験対象)は例外なくB1、ニコチン酸(=ナイアシン(B3))(またはニコチン酸アミド)およびパントテン酸(B5)を必須生長素として要求し、そのうちDL-乳酸を生産する13株はL. brevis 1株を除く他の12株がB2を要求しないのに対し、L-乳酸を生産する8株はすべてB2を要求した[4]

ビフィズス菌は、パントテン酸(B5)をそのまま利用できずパンテチンを必要とし、また、リボフラビン(B2)を必要とするとされる[5]。ビフィズス菌(B. infantis、B. breve、B. bifidum、B. longum及びB. adolescentisのすべて)で菌体内にビタミンB1、B2、B6、B12、C、ニコチン酸(B3)、葉酸(B9)及びビオチン(B7)を蓄積し、菌体外にはビタミンB6、B12及び葉酸を産生した。ヒト(成人)の腸内の平均量のビフィズス菌の推定ビタミン産生量はビタミンB2、B6、B12、Cおよび葉酸で所要量の14-38%を占め無視できない割合と考えられる[6]。ただし、このうちビタミンB12については、内因子と結びついたビタミンB12が吸収される回腸の部位からさらに遠位の大腸でビタミンB12が産生されているので、ヒトは大腸で作られたビタミンB12を十分に吸収することができない[7]
生育場所による分類

細菌学・分類学上の区別ではなく生育に利用する基質と生育場所による違いで、次の様に分けられる[1][8]
腸管系乳酸菌[8]


動物の腸管に生息する。消化液耐性を有する種が多い[8]。腸管における菌数は、栄養分、酸素濃度、胃酸に対する耐性、胆汁酸に対する耐性、腸の免疫システムにより排除されないこと、腸壁への付着力、の要因が考えられる[9]。ヒトの糞便中1 gあたりの菌数は、ビフィズス菌が100億個、ビフィズス菌以外の乳酸菌が10-100万個であるといわれている[10]

動物性乳酸菌


動物質に由来する乳酸菌で、主に乳発酵食品(チーズ、ヨーグルト)。欧米での研究の歴史が長い[1]

植物性乳酸菌


岡田(1988)[11]により提唱された。植物質に由来する乳酸菌[8]で、主に味噌醤油、漬け物、パン[12][13]。なお、漬け物などと同時に摂取する程度の付着量では摂食した菌種によるアレルギー反応抑制等の機能性は期待できないとの指摘がある[8][14]

海洋乳酸菌


石川(2009)により提唱された[15]。海洋環境から分離した乳酸菌で好塩性・好アルカリ性、耐アルカリ性が特徴である。

ラクトバシラス目に属するもの
乳酸菌としてのラクトバシラス目の分類の歴史

乳酸菌の分類体系は、1900年代にグラム陽性乳酸発酵(ホモ発酵またはヘテロ発酵)によりラクトバシラス属ペディオコッカス属ストレプトコッカス属ロイコノストック属の4属とされた。これに形状(桿菌及び球菌)、カタラーゼ陰性が条件に加えられた。1980年台には細胞壁ペプチドグリカン組成、菌体脂肪酸組成によりストレプトコッカス属からラクトコッカス属エンテロコッカス属が独立し、ラクトバシラス属からカルノバクテリウム属が独立した。同時期にDNAGC含量が利用されるようになり、乳酸菌はグラム陽性の低GC含量群に含められた。1990年代、16S rRNA系統解析が導入された結果、乳酸菌のほとんどがラクトバシラス目に含まれることとなった。Bergey's Manual of Systematic Bacteriology 第2版により、ラクトバシラス目は、アエロコックス科カルノバクテリウム科エンテロコッカス科ラクトバシラス科ロイコノストック科レンサ球菌科(ストレプトコッカス科)の6科に分類された[16]
ラクトバシラス属 (Lactobacillus)

ラクトバシラス属は、フィルミクテス門バシラス綱ラクトバシラス目ラクトバシラス科に属するグラム陽性の桿菌でありラクトバチルスとも呼ばれる。一般に「乳酸桿菌」と呼ぶ場合狭義にはこの属をさす場合が多い。種によって乳酸のみを産生(ホモ乳酸発酵)するものと、乳酸以外のものを同時に産生(ヘテロ乳酸発酵)するものがある。L. delbrueckii、L. acidophilus、L. caseiなど。

ラクトバシラス属(Lactobacillus)は野外から容易に分離され、ヨーグルトの製造に古くから用いられてきた。ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィラスなど多くのラクトバシラス属に属する種がヨーグルト製造に利用されている。

ヒトや動物の消化管にも多く生息しており、その糞便からも分離される。また女性の内に生息するデーデルライン桿菌と呼ばれる細菌群も、主にラクトバシラス属で構成されている。また、L. fructivorans、L. hilgardii、L. paracasei、L. rhamnosusなど、ラクトバシラス属の一部にはアルコールに強いものがある。これらは日本酒醸造の現場では「火落ち菌」と呼ばれ、この菌の混入は日本酒の異臭や酸味などの発生(火落ち)の原因になるが、L. paracasei , L. plantarum は、ワインマロラクティック発酵を行う[17]

ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(Lactobacillus casei Shirota)は、別名「ヤクルト菌」や「LCS」と呼ばれる。
エンテロコッカス属 (Enterococcus)

エンテロコッカス属は、ラクトバシラス目エンテロコッカス科に属するグラム陽性の球菌で、ホモ乳酸発酵をする。回腸、盲腸、大腸に生息している。フェカリス (E. faecalis) 、フェシウム (E. faecium) などがある。このうち E. faecalis は、整腸薬としてビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)、ラクトバチルス(アシドフィルス菌)と共に配合されて用いられる事が多い。フェカリス菌株やEF-2001株 (E.faecalis EF-2001) を加熱殺菌した菌体の免疫賦活能力が高いとされる報告が見られる。なお、 E. faecalis と E. faecium は薬剤耐性が高く、院内感染において重要な位置を占める(バンコマイシン耐性腸球菌の代表的な種である。)[18]。なお、 E. faecalis は、ビタミンB群のうちいくつか(ニコチン酸葉酸ビオチン)を要求し、これらが与えられていると活動が促進される事が知られている[19]
ラクトコッカス属 (Lactococcus)

ラクトコッカス属は、ラクトバシラス目ストレプトコッカス科に属するグラム陽性の球菌で、連鎖状ないし双球菌の配列をとる。狭義の「乳酸球菌」。ホモ乳酸発酵をする。牛乳や乳製品に多く見られ、これらを原料とした発酵乳製品に用いられる。L. lactis、L. cremorisなど。市販のカスピ海ヨーグルトなどに利用されている。

ナイシンは34アミノ酸残基の多環式抗菌ペプチドであり、食品の保存料等に用いられ、Lactococcus lactis の発酵によって生じる。商業的には、Lactococcus lactis の牛乳デキストロース等の天然培地での培養、大麦焼酎粕由来発酵大麦エキスの発酵[20]によって得られる。グラム陽性菌の成長を抑え、食品の寿命を延ばすためにプロセスチーズや肉、飲料等に添加し加工に用いられる。多くのバクテリオシンが通常近縁種しか阻害しないのに対し、ナイシンはリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等を含む広い範囲の種に対して効果がある[21]
ペディオコッカス属(Pediococcus)

ペディオコッカス属は、ラクトバシラス目ラクトバシラス科に属するグラム陽性の球菌で、4連球菌の配列をとる。ホモ乳酸発酵をする。ピクルスなどの発酵植物製品から分離されることが多い。P. damnosusなど。
ロイコノストック属 (Leuconostoc)

ロイコノストック属は、ラクトバシラス目ロイコノストック科に属するグラム陽性の球菌で、連鎖状ないし双球菌の配列をとる。ヘテロ乳酸発酵をする。ザワークラウトなどの発酵植物製品から分離される。L. mesenteroidesなど。L. mesenteroides は、ワインマロラクティック発酵を行う[17]
ストレプトコッカス属(レンサ球菌属) (Streptococcus)

ストレプトコッカス属は、ラクトバシラス目ストレプトコッカス科に属するグラム陽性の球菌で、連鎖状の配列をとる。ストレプトコッカス属(レンサ球菌)は乳酸菌にも分類されている[22]。Streptococcus thermophilusは発酵乳製品に含まれており、一般的にヨーグルト(例えばブルガリアヨーグルト)の製造に利用されている[23]

ストレプトコッカス属は、虫歯(う蝕)の主要因の一つとして重要なミュータンス菌(S. mutans)を含む。
放線菌門に属するもの


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