乳用牛
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ホルスタイン種の雌牛。乳房が発達している乳牛の飼育場。イスラエルキブツ、レヴィヴィムにて

乳牛(にゅうぎゅう)あるいは乳用牛(にゅうようぎゅう)は、家畜化されたのうち、特にの出る量が多くなるように品種改良された牛のこと。日本ではホルスタインがよく知られている。

「乳を出す種類の牛」が存在するわけではなく、乳牛が乳を出すのは、ほかの哺乳類同様出産後である。よって牛乳生産のために、計画的な人工授精と出産が人為的に繰り返される。

乳量の増加に特化した育種改変が行われてきた結果、1975年には一頭当たり4,464kgであった年間乳量は、2016年には8,526kgまでに増加した[1]。中には年間乳量20,000kgのスーパーカウ(ホルスタイン)も報告されている。このことは、生産性の向上とともに、後述する乳牛の職業病ともいえるさまざまな病気をもたらした[2]。泌乳量が上がるにつれ乳牛の体型も大型化しており[3]、1991年の牛と2021年の牛の平均体重には30kgの遺伝的差異がある[4]
品種詳細は「乳牛品種の一覧(英語版)」を参照

ホルスタイン

ガンジー種

ジャージー種

エアシャー種

ブラウンスイス種(英語版)

草原紅牛

乳牛の一生
子牛

生乳を生産ラインにのせるために、子牛は産まれてすぐに母牛から離される(親子の引き離しも参照)。産まれた子牛が雌ならば乳牛として飼育されるが、雄の場合は、肉牛として肥育するために肥育農家などに販売される[5]。まれに子牛肉として飼育されることもある。出産後すぐは母牛から搾乳した乳(初乳)が人間の手で与えられるが、その後は母乳から代用乳(粉ミルク)への切り替えが行われる。自然界では哺乳期間は6か月と緩やかだが、酪農では牛乳資源の確保や飼料費の節減(代用乳は配合飼料や乾草より高い)などの理由から、6?8週で[6][7]濃厚飼料(配合飼料)や乾草への切り替えがおこなわれる。

産まれた雌子牛の多くは、つなぎ飼いか単頭飼いのストール(囲い)で飼育される。2014年の国内調査によると、子牛の25.0%がつなぎ飼い、50.9%が1頭での単飼となっている[8]動物福祉の観点から子牛のつなぎ飼いや単飼に規制を設ける国もある。例えばカナダでは牛舎で子牛を繋ぎ飼いすることを禁止する。また生後4週齢以降の単飼を禁止する[9]。EUは、理事会指令で子牛の繋ぎ飼いを禁止、生後8週齢以降の単飼を禁止する[10]。しかし国内での規制はない。
育成牛

離乳からはじめて子牛を産むまでの期間は育成牛と呼ばれる。本来牛が成牛に達するのは生後3年ほどだが[11]酪農業では生後14か月 - 16か月ほどで人工授精が行わわれる[12]。妊娠後、約9か月で分娩する。牛舎内で飼育される牛は運動量が少ないため、自力で出産することが困難であり、人の介助が必要であることが多い。寒冷地域での分娩では、畜主の監視外での自然分娩によって出生子牛が凍死することも少なくない[13]
搾乳牛

出産後約300日間搾乳される。出産しなければ乳は出ないので、常に搾乳できる状態にしておくために、出産後2か月ほどで次の人工授精が実施される[14]。日本での搾乳牛の主な飼養方法は72.9%が繋ぎ飼いであり、牛を運動場などに放していない農家は72.5%にのぼる[15]。自然放牧は1%程度である。

乳牛は出産後約1年間乳を出し続けるが、次の出産前の約60日間、搾乳を中止する乾乳が行われる。乾乳とは搾乳を中止することである。急に搾乳が停止されること、乾乳期は群れ分け(再編成)されることなどから乾乳は牛にとってストレスとなる。60日間の乾乳が推奨されているのは、乾乳期間が60日の時に、次の泌乳期の乳生産が最大となることを示した昔の研究から確立されたものである。しかしながら乳牛の高泌乳化にともない、多くの牛は分娩60日前で20kgの乳生産があるため、この状態での乾乳は乳房炎リスクとなる[16]

乳の泌乳量は3-4回目の出産後がピークであり、その後徐々に泌乳量は減少し、繁殖力も下がっていく[17]。生産性が落ちると屠殺される。牛の寿命は20年ほどだが[18]、乳牛として畜産利用される場合は5-6年と短い。近年、日本の乳牛の平均除籍(乳牛としての供用が終了すること)産次数は3、4産程度に低下している[19]。除籍後は別の農家に売られて肉質を上げるために「飼い直し」されることもあるが、多くの場合は「乳廃牛」となりと殺される[20]
飼養管理と動物福祉上の課題2019年日本の酪農場 スタンチョンを利用した繋ぎ飼育2019年日本の酪農場 スタンチョンを利用した繋ぎ飼育2
つなぎ飼い

日本の酪農場の72.9%の搾乳牛が、スタンチョンやチェーン、ヒモなどでつなぎ飼いで飼育されているが、前後左右に数歩しか動けないため、この飼養方法は動物福祉上の問題リスクが高まると国際獣疫事務局(OIE)の乳牛動物福祉基準に記載されている[21]。約700kgの体重を支える脚には運動が必要不可欠であり[22]跛行飛節周囲炎、乳房炎[23]難産などのリスクが高くなることが知られている[24]

ヨーロッパではつなぎ飼いへの規制が進んでおり、アニマルウェルフェアの広がりから、世界100カ国ほどで酪農機器を販売するスウェーデンの大手メーカーが、つなぎ牛舎用の製品の販売を終了するなど、つなぎ飼いは縮小している[25]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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