乱雑位相近似
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ファインマンダイアグラムにおいて、乱雑位相近似(RPA)はリングダイアグラムの和として表される。上の太い線は相互作用するGreen関数、細い線は相互作用のないGreen関数、破線は2体の相互作用を表す。

乱雑位相近似(らんざついそうきんじ、英語: Random Phase Approximation, RPA)とは、元々デヴィッド・ボームとデヴィッド・パインズ(英語版)によって展開された多体系における基底状態の量子揺らぎ及び励起振動状態(フォノン)を記述するための近似手法。線形応答理論における摂動論的な近似法の一つである。

粒子系(電子ガスなど)が高密度の場合は、乱雑位相近似が妥当な近似であることが分かっている。

同等な近似手法が、多方面(例:GW近似)で利用、応用されている。
第一量子化でのRPA

N粒子系(N電子系)における密度演算子は次のように与えられる。 ρ ( q → ) = ∑ i = 1 N exp ⁡ ( i q → ⋅ r → i ) {\displaystyle \rho ({\vec {q}})=\sum _{i=1}^{N}\exp(i{\vec {q}}\cdot {\vec {r}}_{i})}

ここで位置座標ベクトル r → i {\displaystyle {\vec {r}}_{i}} が無秩序であれば、逆格子ベクトルと位置座標ベクトルとの積、 q → ⋅ r → i {\displaystyle {\vec {q}}\cdot {\vec {r}}_{i}} も無秩序(乱雑)なので、 ρ ( q → ≠ 0 ) {\displaystyle \rho ({\vec {q}}\neq 0)} からの寄与が ρ ( q → = 0 ) {\displaystyle \rho ({\vec {q}}=0)} よりずっと小さいとして無視できる。これを乱雑位相近似(RPA)という。

q → ≠ 0 {\displaystyle {\vec {q}}\neq 0} においては、 q → ⋅ r → i {\displaystyle {\vec {q}}\cdot {\vec {r}}_{i}} が乱雑なことにより各項の位相も乱雑となり、和の各成分が相殺し合って全体としての寄与が無視できるほど小さくなることによる。勿論、この近似が適用できない場合も多々ある。
概要

RPAは1952年と1953年にボームとパインズによって初めて導入された[1][2][3]。それまで何十年もの間、電子間のミクロな量子力学的相互作用の効果を物質の理論に取り入れようとする試みがあった。ボームとパインズのRPAは、弱く遮蔽されたクーロン相互作用を説明し、電子系における電子の動的な線形応答を記述するために用いられる。

RPAでは、電子は全電位V(r)(つまり外部摂動ポテンシャル Vext(r) と遮蔽ポテンシャル Vsc(r) の和)にのみ応答すると仮定される。外部摂動ポテンシャルは単一の周波数 ω で振動すると仮定されるので、このモデルに自己無撞着場(SCF)法[4]を適用すると動的誘電関数 εRPA(k, ω)が得られる。

誘電関数への全電位の寄与は平均化される仮定するため、波数ベクトル k における電位のみが寄与する。これが乱雑位相近似が意味するものである。結果として生じる誘電関数はリンドハード誘電関数とも呼ばれ[5][6]、電子ガスの多くの性質(プラズモンなど)を正確に予測している[7]

RPAは自由度を過大に評価していると50年代後半に批判され、その正当化には理論物理学者の多くの労力が費やされた。マレー・ゲルマンとキース・ブルックナーは、高密度の電子ガスのファインマンダイアグラムにおける最低次のチェーンの和からRPAが導かれることを示した[8]

これらの結果の一貫性はRPAの正当化には重要であり、50年代後半と60年代の理論物理学は大きく発展した。
RPA方程式

まず第0近似としてハートリー-フォック近似を考える。ハートリー-フォック近似で得られた基底状態には量子揺らぎ効果は含まれてはいない。そこで、量子揺らぎ効果を含んだ量子状態が一体演算子 F ^ {\displaystyle {\hat {F}}} を用いて次のように与えられると仮定する。 。 Ψ ⟩ = e i λ F ^ 。 Φ H F ⟩ {\displaystyle |\Psi \rangle =e^{i\lambda {\hat {F}}}|\Phi _{\mathrm {HF} }\rangle }

そして、次にこのように与えられた状態を用いて計算されるハミルトニアンの期待値を λ {\displaystyle \lambda } に関してテイラー展開すると次のようになる。 ⟨ Ψ 。 H ^ 。 Ψ ⟩ = ⟨ Φ H F 。 H ^ − i λ [ F ^ , H ^ ] + λ 2 2 [ F ^ , [ H ^ , F ^ ] ] + ⋯ 。 Φ H F ⟩ {\displaystyle \langle \Psi |{\hat {H}}|\Psi \rangle =\langle \Phi _{\mathrm {HF} }|{\hat {H}}-i\lambda [{\hat {F}},{\hat {H}}]+{\frac {\lambda ^{2}}{2}}[{\hat {F}},[{\hat {H}},{\hat {F}}]]+\dotsb |\Phi _{\mathrm {HF} }\rangle }

[ F ^ , H ] {\displaystyle [{\hat {F}},H]} の期待値がゼロになるように求めるのがハートリー-フォック近似であるので右辺第2項はゼロとなる。従って、 ⟨ Ψ 。 H ^ 。 Ψ ⟩ = ⟨ Φ H F 。 H ^ 。 Φ H F ⟩ + λ 2 2 ⟨ Φ H F 。 [ F ^ , [ H ^ , F ^ ] ] 。 Φ H F ⟩ + ⋯ = E H F + λ 2 2 ∑ m i n j ( f m i ∗ − f i m ) ( A B B ∗ A ∗ ) m i n j ( f n j − f j n ∗ ) + ⋯ {\displaystyle {\begin{aligned}\langle \Psi |{\hat {H}}|\Psi \rangle &=\langle \Phi _{\mathrm {HF} }|{\hat {H}}|\Phi _{\mathrm {HF} }\rangle +{\frac {\lambda ^{2}}{2}}\langle \Phi _{\mathrm {HF} }|[{\hat {F}},[{\hat {H}},{\hat {F}}]]|\Phi _{\mathrm {HF} }\rangle +\dotsb \\&=E_{\mathrm {HF} }+{\frac {\lambda ^{2}}{2}}\sum _{minj}{\begin{pmatrix}f_{mi}^{*}&-f_{im}\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}A&B\\B^{*}&A^{*}\end{pmatrix}}_{minj}{\begin{pmatrix}f_{nj}\\-f_{jn}^{*}\end{pmatrix}}+\dotsb \end{aligned}}}


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