乗数効果
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

「乗数」はこの項目へ転送されています。掛け算については「乗法」をご覧ください。

乗数効果(じょうすうこうか、: Multiplier effect)とは、一定の条件下において有効需要を増加させたときに、増加させた額より大きく国民所得が拡大する現象である。国民所得の拡大額÷有効需要の増加額を乗数という。マクロ経済学上の用語である。リチャード・カーンがもともとは雇用乗数として導入したが、ジョン・メイナード・ケインズがのちに投資乗数として発展させた。
概要

生産者企業政府)が投資を増やす→国民所得が増加する→消費が増える→国民所得が増える→さらに消費が増える→さらに国民所得が増加する→さらに消費が増える→・・・という経済上の効果を意味する。この増加のサイクルは投資の伸びに対して乗数(掛け算)的な伸びとなることから、乗数効果と呼ばれている。

ケインズ派の乗数理論においては、不完全雇用の経済が前提とされている。
数式で見る乗数効果
投資乗数

今各家計の可処分所得が1単位(たとえば一万円)増加したとき、平均してその割合βを消費し、1?βを貯蓄に回すとする。(0≦β≦1)。β、1?βはそれぞれ限界消費性向、限界貯蓄性向と呼ばれる。

さて、企業や国家の投資により、全家計の可処分所得の合計値がX円増加したとすると、家計はそのうちβX円だけ消費に回す。このβX円は企業の収入となり、それは給料として再び各家計に入る。すると家計はこのβX円のβ割にあたるβ2X円を消費に回す。このβ2X円は企業経由で再び家計に入り、家計はそのβ割にあたるβ3X円を消費に回す。以下、これが繰り返されるので、最終的に総消費は X + β X + β 2 X + β 3 X + ⋯ = X 1 − β {\displaystyle X+\beta X+\beta ^{2}X+\beta ^{3}X+\cdots ={\frac {X}{1-\beta }}}

増加する。すなわち、最初に行われた投資Xの1/(1-β)倍分だけ消費が拡大する事になる。例えばβ=0.9であれば、1/(1-β)=10倍も消費が拡大する。この1/(1-β)の事を乗数といい、1/(1-β)倍消費が拡大する現象の事を乗数効果と呼ぶ。

なお最初に投資されたX円は、上述した乗数効果のサイクルのどこかの段階で家計の貯蓄となり、X円全てが貯蓄に回った段階でサイクルは終了する。従って消費が乗数倍されるのに対し、最終的な家計の貯蓄は投資額と同じX円である。
別の計算方法

乗数効果を異なる視点から導く事もできる。

今外国との輸出入がないとすれば、一国全体の総消費Yは家計の支出Cと政府の支出Gと企業の投資支出Iの総和になる(国内総生産):

Y = C + G + I {\displaystyle Y=C+G+I}

消費された金額Yは利益として企業に入り、そして給料の形で家計へと戻ってくる。すなわち、総消費Yは家計の所得の合計値に等しい。限界消費性向βの定義より、家計は所得Yうち割合βを支出する。すなわち、

C = β Y {\displaystyle C=\beta Y}

以上の式を整理すると、

Y = 1 1 − β ( G + I ) {\displaystyle Y={\frac {1}{1-\beta }}(G+I)} 。

従って政府ないし企業が支出を増加させる事でG+IがXだけ上昇すれば、Yは X 1 − β {\displaystyle {\frac {X}{1-\beta }}} だけ上昇する事になる。すなわち、最初に行われた投資Xの1/(1-β)倍分だけ消費が拡大する。
雇用乗数

投資乗数のアイデア以前に、イギリスの経済学者R.F.カーンによって雇用乗数(employment multiplier)が発表されており、これが先述のケインズによる投資乗数の着想へとつながった。最初にある数の雇用増加がなされると、最終的にその数の何倍かの雇用増加につながるとカーンは考えたが、その倍率を雇用乗数という[1]
貯蓄のパラドックス

投資乗数をある国の単年度における国民経済フローの簡単なモデルで考える。

限界消費性向(可処分所得が1単位増加したとき、消費が増加する量)=0.9

限界貯蓄性向(可処分所得が1単位増加したとき、貯蓄が増加する量)=0.1

限界消費性向+限界貯蓄性向=1

国民所得:Y=C+I

総消費:C=0.9Y

総投資:I=10

この式を解くと、Y=100となる。(I=0.1Y)

ここで、企業が先行きへの期待を基にこの年の投資量を2増やし、総投資が12になったとしよう。このはじめの段階では国民所得は同量の2しか増えない。

しかし、この2はやがて家計の所得となり、消費は所得の関数であるため、その所得の90%(C=0.9Y より)の1.8が消費される。その消費1.8は同量の国民所得1.8を増加させ、さらにその90%の消費1.62を拡大させる。

こうして、貯蓄と消費への振り分けが十分に早いペースで最終段階まで進むと仮定した場合、この年における消費量は18増える(=2×0.9+2×0.9^2+2×0.9^3…)。はじめの投資の増加2と合算して所得(総消費)の増加分は20(兀=X/(1-β)、ここでは=2/(1-0.9))であり、これが追加的な投資に対して最終的に得られる所得の増分(兀=僂+G+僮)となる。一方で所得のうち消費されなかった分である貯蓄は2(所得に対する限界貯蓄性向は1-βであり総貯蓄の増分儡=兀×(1-β)、ここではS=20×(1-0.9)=2))となる。

このことは、当初の投資によって増加した所得のうち、貯蓄されずに消費された分だけが、それと同量の新たな所得を実現することを示している。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:20 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef