主電動機
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主電動機(しゅでんどうき)は、電車電気機関車などの走行のための動力を生ずる電動機(モーター)である。ほとんどの場合台車内部におかれ、歯車を用いた駆動装置によって輪軸に回転を伝達する。
概要国鉄205系電車用MT61主電動機

電車等の電動機には電動発電機(MG)などに用いられるものもあるが、走行用のものを特に主電動機と称する。加速などの際には印加電圧などを主制御器などの制御装置から制御される。また発電ブレーキ回生ブレーキなどの際には、発電機として作用させられて走行エネルギーを電力に代える場合もある。

主電動機の特性としては、次のようなことが望ましい。

特に起動時および低速でトルクが大きいこと。最もトルクが必要なのは起動時であるため高速域より重要。

幅広い速度域で性能を発揮でき、速度(=回転数)の制御が容易であること。

起動時や大負荷時に過大な電力を必要としないこと。

また電車などの主電動機は床下の台車に取り付けられることから、床下の高さや軌間によって大きさが制約されるので、なるべく小型で大きな出力やトルクが得られることが望ましい。
方式分類
電動機方式

詳細は電気車の速度制御#電気車と電動機のとおりであるが、主電動機の方式として過去から現在にわたって多く用いられているものは次の三つである。

直流整流子電動機 - 特に過去には直巻整流子電動機が多かった。起動時から低速域でトルクが大きく(ただし抵抗を併用)高速になるにしたがってトルクが減少していくという電気車に適した特性を持ち、制御技術としては比較的古くから確立している抵抗制御による速度制御が容易なため広く用いられた。ただし、フェノール樹脂が組み合わされた整流子は過大な遠心力に耐えられないため、ある程度以上の回転数にすることができず、摩耗するブラシ保守にも手間がかかる。また、抵抗制御では一定の電力をとして捨てているためエネルギー効率が低く、パワーエレクトロニクス技術の進展により他の方式に移行していった。界磁チョッパ制御では複巻整流子電動機が用いられる。

単相整流子電動機 - 商用周波数による交流電化には向かず、日本では例が少ない。

三相誘導電動機 - 電源の周波数で決まる速度から大きく変えられないため、かつては利用が難しかったが、パワーエレクトロニクスの発達で自由に周波数を変えるVVVFインバータ制御が実用化され、広く用いられるようになった。直流電動機と比較すると、整流子がなく構造が簡単で保守が容易になり、整流子の分のスペースが必要ないため幅に制約のある台車内でも大出力にしやすく、回転速度を上げて同じ出力でも小型にしやすいなどのメリットがある。

無整流子電動機 - 鉄道車両への採用例は少ない。

駆動方式

電車の場合、ほとんどの場合歯車式の駆動装置が用いられ、その方式の分類は主電動機の構造にも直接反映する。大きく分けると次の2つになり、これは主電動機の台車への取り付け方式の分類でもある。(詳細はそれぞれのリンク先を参照)。

吊り掛け駆動方式

カルダン駆動方式

電気機関車の場合、特に古いものでは歯車式以外のさまざまな形式の伝達装置が用いられることもあるが、一般には吊り掛け駆動方式がよく用いられる。その他、ブフリ式のように車体の床面に主電動機を置き、特殊な伝達装置やロッドによって車輪を駆動する方式もある。
回転方向

主電動機には歯車側からみた基本的回転方向があり、CW(clockwise、時計回り)形とCCW(counterclockwise、反時計回り)形がある。国内メーカーの場合は海外技術提携先の影響が考えられている[1]
CW形
日立製作所(独自の方向性)
CCW形
三菱電機(提携先はウエスティングハウス・エレクトリック社<WH社>)
CCW形が多い
東芝(提携先はゼネラル・エレクトリック社<GE社>)・東洋電機製造(提携先はイングリッシュ・エレクトリック社<EE社>)
電気鉄道開発当初の主電動機
ゼネラル・エレクトリック


GE-800形 - 電気鉄道開発者
フランク・スプレイグの会社を統合後、1892年つくられた。改良してGE-57形になった[2]京浜電気鉄道の4輪電車も参照。

ウェスティングハウス・エレクトリック


WH-12A形 - 1894年に開発[2]京浜電気鉄道の4輪電車も参照。

日本における主な主電動機

日本の国有鉄道では主電動機の形式にMTを用いたが、これはMotor for Tractionの略である[3]
電車用
国鉄
在来線車両用
MT4形
ゼネラル・エレクトリック社製GE-244A(端子電圧675V時、定格出力85kW、定格回転数890rpm)の省制式形式称号。国鉄デハ33500系電車#概要を参照。
MT7形,MT9形,MT10形,MT12形,MT13形,MT14形
端子電圧675V時、1時間定格出力100kW、定格回転数635rpm(全界磁)という性能の電動機を、順に日立製作所,芝浦製作所,東洋電機製造,メトロポリタン=ヴィッカース,三菱電機,奥村製作所の各電機メーカーが競作したもの。
MT15形
端子電圧675V時、1時間定格出力100kW、定格回転数653rpm(全界磁)。鉄道省と製造各メーカーの共同設計により、新規開発で国鉄30系電車に採用された。国鉄30系電車#主電動機を参照。
MT30形
関西私鉄より小出力の電車ばかりであった鉄道省で登場した大出力形。モハ51形の出力増強形であるモハ54形などに用いられた主電動機。端子電圧675V時定格出力128kW(750V換算では142kW)、定格回転数780rpm(全界磁)[4]
MT40形
端子電圧750V時、定格出力142kW、定格回転数870rpm(全界磁)。電機子軸受をコロ軸受とした。重量は約2t[4]。製造に参加していた三菱電機が南海電気鉄道の注文でモハ1551形向けに新規製造したMT40は「MB-280-AFR」のメーカー名称も与えられている。国鉄63系電車#主電動機を参照。以上は吊り掛け駆動方式
MT46A形
新性能電車用の初の標準電動機。旧形電車に用いられたMT40形より大幅に小型軽量化、高速回転化したもので、重量は660kgで約1/3、端子電圧375V時、電流300A、出力100kW、回転数1,860rpm(70%界磁)、中空軸平行カルダン駆動方式国鉄101系電車#主電動機を参照。
MT50形
国鉄101系電車910番台(電力回生ブレーキ試作車)に使用。
MT54形
端子電圧375V時、定格回転数1,630rpm(全界磁)、定格電流360A、最高回転数4,320rpm。定格出力120kWでMT46A形より20%の出力向上。国鉄165系電車#165系を参照。
MT55形
1時間定格出力110kW, 375V, 330A, 1350rpm(85%界磁)、最高回転数4,400rpm。国鉄103系電車#主電動機を参照。
MT57形
1M方式。国鉄クモユ141形電車および国鉄143系電車に使用。
MT58形
定格出力120kW、定格回転数2100rpm(全界磁)。国鉄381系電車#主要機器を参照。
MT60形
定格回転数1850rpm、最高回転数4850rpm、出力150kW。国鉄201系電車#電源・制御機器を参照。
MT61形
端子電圧375V時、定格回転数1,530rpm、定格出力120kW、弱界磁率最大35%、最高回転数4,600rpm。国鉄205系電車#主電動機を参照。
MT63形
端子電圧1,100V、電流100A、定格回転数2,200rpm、定格出力150kW。最高回転数6,000rpm。TD平行カルダン駆動方式三相誘導電動機国鉄207系電車#車両概説を参照。
MT64形
端子電圧750V時、定格回転数1,530rpm、定格出力120kW、弱界磁率最大38%。


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