主要組織適合性複合体
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主要組織適合遺伝子複合体(しゅようそしきてきごういでんしふくごうたい、major histocompatibility complex; MHC)は、免疫反応に必要な多くのタンパクの遺伝子情報を含む大きな遺伝子領域である[1][2]
目次

1 概要

2 MHC分子

2.1 MHCクラスI分子

2.1.1 構造

2.1.2 局在

2.1.3 発現経路

2.1.4 機能


2.2 MHCクラスII分子


3 遺伝子

4 MHCの進化と多様性

5 参考文献

6 外部リンク

概要

主要組織適合遺伝子複合体は、ほとんどの脊椎動物がもつ遺伝子領域であり、ヒトのMHCはヒト白血球型抗原 (HLA)、マウスのMHCはH-2 (histocompatibility-2) 、ニワトリではB遺伝子座 (B locus) と呼ばれる。

MHCには主要組織適合遺伝子複合体抗原(主要組織適合抗原、MHC抗原、MHC分子とも呼ばれる)と呼ばれる糖タンパクがコードされている。このMHC分子は抗原提示を行うことで細菌ウイルスなどの感染病原体の排除や、がん細胞の拒絶、臓器移植の際の拒絶反応などに関与し、免疫にとって非常に重要な働きをする。その他、ペプチドの輸送に関与するTAP (transporter associated with antigen processing) やプロテアソームに関与するLMP (low-molecular-weight protein) といった、免疫に関するさまざまなタンパク群もこのMHCにコードされている。

ここではMHCの主要な遺伝子産物であるタンパクとしてのMHC分子、および遺伝子領域の両者について記述する。

なかなか使える分子。
MHC分子

MHC分子は細胞表面に存在する細胞膜貫通型糖タンパク分子であり、細胞内のさまざまなタンパク質の断片(ペプチド)を細胞表面に提示する働きをもつ。細胞に感染したウイルスや癌抗原、あるいは抗原提示細胞に貪食処理されたペプチドなどがMHC分子に結合して細胞表面に提示され、それがリンパ球のうちT細胞抗原として認識され、引き続き免疫反応が惹起されてウイルスや癌などを攻撃排除する方向に働く。

それぞれの個体は、似たような構造のMHC分子の遺伝子情報を何種類も持ち、こうして数種類のMHCを同時に発現させている。さらに数種類のMHC全てを、父親由来のMHC1組と母親由来MHC1組の計2組ずつもっている。またMHCは個体によって非常に多様性に富み(多型性 polymorphic )、このため2組のMHCはほとんどの場合異なった種類の組み合わせとなる(ヘテロ接合体)。このようにしてそれぞれの個体は、何種類ものMHC分子の遺伝子情報をもっており(多遺伝子性 polygenic )、このためMHCはさまざまな抗原に対応できる。また多型性のため、MHC分子はT細胞が自己と他者の区別をする目印にもなる。つまり、T細胞は自己のMHC分子を発現する細胞から抗原提示を受けるが、自己と異なるMHC分子を異物と見なし、攻撃排除しようとする。しかし、個体によって持つMHCが異なるということは、MHCによって結合できる抗原が異なるため、MHCの違いにより病気のなりやすさが異なることがある。例えばMHCの違いによってAIDSの進行が違ってくる[3]。逆にいうとこの多様性によって、病原体に対して種の絶滅を防ぐことができるようになっている。

MHC分子には大きく分けてクラスIとクラスIIの2つの種類がある。MHCクラスI分子は細胞内の内因性抗原を結合し、MHCクラスII分子はエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれて処理された外来性抗原を結合して提示する。つまり、ウイルスのように感染した細胞内で増殖する病原体に対して、あるいはがん細胞内で産生されるがん抗原に対しては、MHCクラスIを介した抗原提示により免疫反応をおこし、細菌など細胞外で増殖する病原体や毒素に対して、あるいは結核菌のようにマクロファージ等の抗原提示細胞に感染する病原体に対しては、抗原提示細胞のMHCクラスIIを介した抗原提示により免疫反応をおこす。ただしこの2つ経路は絶対的なものではなく、外来抗原もMHCクラスIによる抗原提示経路にも入りうる(クロスプライミング cross-priming またはクロスプレゼンテーション cross-presentation )。



MHCクラスI分子 MHCクラスI分子。α1?α3の3つの細胞外領域と細胞膜貫通領域、細胞内領域からなる重鎖と、β2-ミクログロブリンからなる。

MHCクラスI分子はほとんどすべての有核細胞と血小板の細胞表面に存在する糖タンパクであり、内因性抗原を抗原提示する働きをもつ。MHCクラスI分子はさらに古典的クラスI分子(クラスIa)と非古典的クラスI分子(クラスIb)に分けられる。古典的クラスI分子には、ヒトではHLA-A、HLA-B、HLA-Cの3種類が、マウスではH-2K、H-2D、H-2Lの3種類がある。非古典的クラスI分子にはヒトではHLA-E、HLA-F、HLA-Gが、マウスではH-2Qa、H-2Tlaがある[4]
構造

MHCクラスI分子は、糖鎖が付加した分子量45 kDaの重鎖(α鎖)と、分子量12 kDaのβ2-ミクログロブリン軽鎖の2つが非共有結合した二量体であり、これにペプチド抗原が結合して三量体として細胞表面に発現する。非古典的クラスI分子の中には、発現にβ2-ミクログロブリンを必要としないものもある。クラスI重鎖はα1?α3の3つの細胞外領域と、細胞膜貫通領域、細胞内領域からなる。α1領域とα2領域の間に大きな溝状の構造があり、ここに抗原を結合し提示する。
局在

MHCクラスI分子はほとんど全ての有核細胞および血小板の細胞表面に発現するが、発現の程度には差異がある[5]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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