主権のパレード
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主権のパレード(しゅけんのぱれーど、ロシア語: Парад суверенитетов)は、1988年から1991年にかけて多くのソビエト連邦構成共和国自治共和国が、全連邦法が構成共和国法より優先されるというソ連憲法第74条[1]に異議を唱えて主権を宣言し、ソビエト連邦政府(英語版)と対立した一連の出来事である。各構成共和国や自治共和国の首長らは、ソビエト連邦政府の予算に対する税金の支払いを拒否したり、独自の関税制度を確立したりするなど経済的自立を高める行動を取った。その結果、ソ連国内における地域間の経済的な結びつきが綻んでソ連全体の経済的状況が悪化し、ソ連崩壊の一因となった[2]
背景

1922年のソ連成立以来、ソ連憲法では各構成共和国の主権が憲法の規定内に限って認められてきた[1][3][4]。1977年のソ連憲法では、その72条により各構成共和国はソ連から脱退する権利を有していたが[1]、脱退の手続きを規定したソ連の法文が存在せず、特に冷戦期の間は意味の持たない権利であるとの見方が支配的であった。

構成共和国は、諸外国との関係を持ったり、国際機関の活動に参加することが可能であったが[1]、実際には、ソビエト連邦共産党による一党独裁制の下では重要な政治的、経済的な決定は専らソ連共産党政治局の指導の下行われていた。構成共和国や自治共和国などの自治体もソ連の憲法や法律に従って組織された。
構成共和国の主権宣言と独立宣言

1988年6月17日、ソビエト連邦共産党の第19回党大会においてエストニア共産党代表団はソ連の公共・政治・経済の全領域における権限を各構成共和国に移管する形での地方分権を提案した。

11月16日、エストニア最高会議はエストニアの法が全連邦法より優先されることを記した国家主権宣言(ロシア語版)を採択した。この主権宣言はソ連構成共和国の中でも最初のものであった。1989年5月26日にはリトアニア[5]、7月28日にはラトビア[6]、9月23日にはアゼルバイジャンの最高会議で国家主権宣言が採択された。

1990年1月、ナゴルノ・カラバフ自治州を巡るアゼルバイジャンとアルメニアの対立を受けて、アゼルバイジャンの首都バクーソビエト連邦軍が侵攻した黒い一月事件が起こる[7]。これを受けてナヒチェヴァン自治ソビエト社会主義共和国がソ連からの独立を宣言する。この独立宣言はソ連域内で最初のものであった。3月11日、リトアニアにおいてリトアニア国家再建法案(英語版)の可決によって、1938年のリトアニア憲法(リトアニア語版)の復活とソ連からの脱退が宣言された[8]。これは初めてのソ連の構成共和国による独立宣言であった。これに続き、5月4日にラトビアが、5月8日にエストニアが独立を宣言した。

6月12日には、第一回(ロシア語版)ロシア・ソビエト社会主義共和国人民代議員大会で国家主権宣言(英語版)が採択され、ロシア・ソビエト社会主義共和国でも全連邦法よりロシアの法が優位にあることが規定された。その後、国家主権宣言は1990年12月までにソ連のすべての構成共和国の最高会議によってなされることとなる。

一方で、ソ連のゴルバチョフ大統領は1922年のソビエト連邦結成条約(英語版、ロシア語版)(連邦条約)に代わる新連邦条約の草案を提唱し、1990年12月3日にソ連最高会議はその草案を支持した[9]。新連邦条約では、従来の連邦条約より緩やかで、より各構成主体に分権化された国家連合が目指されていた。1991年3月17日には新連邦条約を締結するための布石として、連邦制維持の賛否を問う国民投票(英語版、ロシア語版)が投票をボイコットしたエストニアラトビアリトアニアジョージアモルドバアルメニアを除いた各共和国で行われ、投票者の76.4%が連邦制維持に賛成票を投じることとなった。その後の1991年春から夏にかけて新連邦条約の発効が目指された動きはノヴォ・オガリョボプロセス(ロシア語版)と呼ばれた[10]

新連邦条約の内容は1991年8月15日に確定し、連邦の構成主体がそれぞれの国家構造・政府当局・行政機構を独立して決定することやその一部を他の条約調印国に委任できることなどが規定された。1991年8月20日には新連邦条約にロシア、ベラルーシカザフスタンウズベキスタンタジキスタンが調印することとなっており、秋にはさらにアゼルバイジャン、キルギストルクメニスタンウクライナが調印することとなっていた。


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