世界都市
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世界都市(せかいとし、: world city、: Weltstadt)とは、主に経済的、政治的、文化的な中枢機能が集積しており、世界的な観点による重要性や影響力の高い都市。グローバル都市(: global city)ともいう。
用語

今日の「世界都市」にあたる言葉の淵源・由来やその歴史的意味合いについてはさまざまな説があり、概念史はまだ確定状態ではない[1]

地理学者で、「メガロポリス」の著者でもあるジャン・ゴットマンは、世界都市というのは文豪ゲーテが1787年に、ローマの歴史的な文化的卓越性をもった都市としての性質を表現するために作った、「Weltstadt」(ドイツ語での世界都市)という言葉にその源を発すると述べている[1]。一方、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの地理学者であったピーター・ホール(英語版)は「世界都市」を著し、スコットランドの地域計画家パトリック・ゲデスが『進化する都市』(1915年)という本の中で、「世界でもっとも重要なビジネスのきわめて大きな部分が集積して行われる大都市」のことを「世界都市」(: world city)と命名したと述べ、この言葉の由来をゲデスに求めている[1]

1991年、コロンビア大学教授のサスキア・サッセンは、著書『グローバル都市-ニューヨーク、ロンドン、東京』において、初めて「グローバル都市」(global city)という表現を用いた[2]
定義

多国籍企業とグローバル・マネーの形成が本格化した1970年代、国際的な企業・法人本部とそれを支える活動の複合体を擁する都市を「世界都市」と定義し、こうした都市の育成をはかる議論が始まった[3]。1986年、カリフォルニア大学教授のジョン・フリードマン(英語版)は『世界都市仮説』を著し、世界都市を定義した[4]。フリードマンの主要な世界都市の定義は以下の通りである。

資本主義の世界システムの中で、法人の拠点、金融センター、グローバル・システムや地域・国民経済の結節点としてその機能を果たす都市[4]

多国籍企業がその基地として立地し利用するため、複雑な国際的・空間的階層の中に位置づけられる都市[4]

グローバルな管理機能の集積を反映して、法人の中枢部門、国際的な金融・輸送・通信・広告・保険・法務などの高次ビジネス・サービスなどが成長する都市[4]

フリードマンは多国籍企業の本社部門の所在それ自体を重くみる世界都市論を展開していたが、サッセンは「1960年代、1970年代に比べて都市の経済力を測定する尺度としては十分なものではなくなっている」と述べ、今や金融、高次法人サービスなどの活動こそが国際都市ヒエラルキーを左右し、世界都市を形成する要因として重要性をもつものと説明した[5]。経済活動の地球的な規模での分散が同時に地球規模の統合、コントロール機能の形成を促しており、こうしたセンター機能が集積する少数の都市(ロンドンニューヨーク東京など)こそグローバル都市だとした[6]

2017年、アメリカのシンクタンクであり、世界都市研究に深く関与し続けてきたシカゴ国際問題評議会(英語版)は、「何がグローバル都市を作るのか?」(: What Makes a Global City?)という題名でグローバル都市の定義や傾向を定めた[7]。主な内容な以下の通りである。

世界経済をリードしている。

都市規模が大きい傾向にあるが、それだけでは十分ではない。

国内の若者なども含む、世界の人々を惹きつける魅力がある。

大学など高等教育が発展しており、子供や労働者にも充実した教育環境を提供している。

外国人の人口が多い。移民を惹きつける仕事があり、その情熱、気迫が都市のバイタリティーを高めている。

文化的な中心地である。博物館、劇場、レストラン、スポーツ、ナイトライフなどが充実している。

デスティネーション、いわば目的地であり、観光客にとって魅力的である。

政治的影響力があることは有利な条件である。首都ではないグローバル都市も領事館、シンクタンク、国際会議場などを有する。

国際的なハブであり、グローバルな連結性が高い。都市圏にメジャーな国際空港がある。

グローバル都市に必要な先見の明のある指導者がいる。

生活の質が高い。公共交通機関、クリーンな生活環境、治安のよさ、ヘルスケア、地方政府の効率性などが発展している。

オープンである。移民、デジタルコミュニケーション、トレードの制限などが少ない。報道の自由度が高い。

特徴
経済的特徴ニューヨーク証券取引所

ビジネス活動が盛んであり、都市の経済規模が大きい(東京は都市の経済規模が世界最大であり、2位のニューヨークも巨大な経済圏を形成している [8])。

国際的に活動している法人本社部門とその活動を支える金融・保険・通信・証券・不動産・法務・会計・広告・コンサルティングなどの高次法人サービス、それにレストラン・出版・印刷、運輸・倉庫・専門店・ファッション・ホテル・観光・教育・芸術・医療・福祉・娯楽などの補助サービスが集積している。

多国籍企業の本社など、世界経済に影響を及ぼす組織の中枢が所在する(2016年時点で世界の500大企業の中でもっとも本社数が多い都市は北京であり、2位は東京である[9])。

証券取引所、銀行、保険会社などが集積し、高度に発達した金融センターを形成している(世界を代表する金融センターとしてロンドン、ニューヨーク、シンガポール、香港、東京が挙げられる[10])。

労働人口における高学歴者の割合が高く、企業や市場にサービスを提供する専門サービス業や知的産業が発展している。

学術研究やビジネス、文化人など各分野における著名人が拠点を置いており、実績ある人材が集積している。

政治的特徴ホワイトハウス

中央政府など行政機関が所在し、グローバルな政治的影響力がある(主要国の首都であるワシントンD.C.、北京、東京、ロンドン、パリ、ベルリン、ローマ、モスクワなどが代表的である)。

大使館や領事館が所在しており、外交の舞台となり得る。

主要なシンクタンクがある(ニューヨークの外交問題評議会、ロンドンの王立国際問題研究所、北京の中国社会科学院など)。

国際機関や地域統合体の本部が所在する(たとえば、ニューヨークには国連本部があり、ブリュッセルには欧州連合の主要機関が置かれている)。

行政区画の人口が通常数百万人規模の大都市であり、さらに都市圏の中枢として機能している場合が多い。

都市が世界的な影響力を持つことから、通常世界政治ではあまり注目されない地方首長も各国から注目される場合が多い(たとえば、ニューヨーク市長東京都知事ロンドン市長といった上位世界都市の選挙の場合は、世界的なニュースとなる)。

文化的特徴大英博物館

都市の世界的な認知度が高い(たとえば、パリは「フランスのパリ」と国名を補足しなくてもそれが何かが自明であり、エッフェル塔凱旋門など有名なランドマークがある)。

外国人の訪問者数が多い(2016年の統計によると、世界でもっとも外国人の訪問者数が多いのはバンコクであり、2位はロンドンである[11])。

世界的に有名な学府や文化施設を擁する(ロンドンのロンドン大学大英博物館、ニューヨークのコロンビア大学やメトロポリタン美術館など)。

世界的に有名で世界情勢に多大な影響力をもつ通信社やマスメディアが本拠を置く(ニューヨークのAP通信ニューヨーク・タイムズ、ロンドンのロイター通信BBC、パリのフランス通信など)。

チャイナタウンなど、都市の内部に複数の移民コミュニティーや異文化圏が存在することが多い。また、国際都市として大規模なビジネスを引きつけることから、その土地本来の文化とは別に異邦人文化も形成される傾向もある。

アートシーンをリードするさまざまな媒体や受け皿となる施設がある(ニューヨークのブロードウェイ(演劇・ミュージカル)、リンカーンセンター(オペラ、バレエ、音楽)、ソーホー(美術館)、七番街(ファッション)、マディソン街(広告)など)。

幅広いスポーツコミュニティが存在し、メジャースポーツチームが本拠を置く(ニューヨークのヤンキースメッツ(プロ野球チーム)、東京のジャイアンツ(プロ野球チーム)、ロンドンのチェルシーアーセナル(プロサッカーチーム)など)。


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