不良債権
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不良債権(ふりょうさいけん、: Bad debt, non-performing loans[1])とは、回収困難な債権を言う。狭義では、銀行など金融機関において、貸付(融資)先企業の経営悪化や倒産などの理由から、回収困難になる可能性が高い貸付金(金融機関から見た債権)を指す。
企業会計における不良債権

企業が保有する債権は、決算期毎に回収可能性を査定し、回収が困難な部分については貸倒引当金を設定して費用としたり(一般に間接処理と呼ぶ)、回収が不可能な部分については貸倒損失として減損処理をしたり(一般に直接処理と呼ぶ)する必要がある。これらの損失処理をした結果、利益が減少又は損失が拡大し、結果として自己資本が減少することにつながり得る。この処理方法は会社法(計算規則)や企業会計原則等において規定されている。学問でも異論が少ない処理であり、国際会計基準にも合致する。また、法人税法や所得税法においても、この処理が容認されている。[2]

一般に、不景気になると、貸出先の経営状態が悪くなり不良債権が増加するので、引当金は増え利益を圧迫する要因となる。好景気になると、貸出先の経営状態が良くなり不良債権が減少するので、引当金を取り崩し利益とすることができる。

不良債権の存在は、銀行ノンバンク等の貸金業のバランスシートを大きく毀損する要因になりえる。たとえば、80円の借入金(銀行では預金)と20円の自己資金を元手に、90円を貸し出し10円を現金として置いておくとする。もし、貸出の1割(9円)が返済されなくなった場合、自己資金が11円になることになる。この場合、貸出額のたった1割であっても、自己資金に大きな影響を与えてしまっており、貸金業において経営上の大きな課題となりえる事が分かる。
金融機関における不良債権

金融機関でも企業会計原則に従って処理するのは変わらないが、不良債権を厳密に査定し、以下の分類に分けるのが特徴である。

特に銀行は、BIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)によるBIS規制で、国際金融に携わる銀行は自己資本比率(総資産に対する)の最低限が8%と定められている。
日本

BISは業務を国内に限る金融機関について特に定めていないが、日本では国内法で4%の自己資本比率を維持することが求められている。これらの数値はあくまでも最低限であり、突発的なリスクへの対応から、この比率を上回る水準での経営が求められる。

銀行は金融庁の金融検査の対象とされているが、不良債権の査定が大きな関心事となっている。

特に金融検査において、特定業種の不良債権査定に注力され厳格化された場合、銀行の特定業種に対する貸し付けが保守的になる傾向があるといわれる。たとえば、2008年3月以降の金融検査において、不動産業(サブプライム関連)と建設業(公共工事削減による業界不況)の不良債権の査定が厳格化されたという噂が流れた。また、金融検査の厳格化を理由に融資を断られた業者が多数おり、その苦情が金融庁に殺到した(金融庁長官がわざわざ事実無根であると説明したが、それ自体が異例のことである)。

また銀行によっては、自己資本比率自体を守るため、貸出総額を抑えることもある。それを一般的に貸し渋り(貸し止め)や貸し剥がしと呼ぶ。
自己査定における債務者区分

金融庁が定めた「金融検査マニュアル」における区分は以下の通り[3]

貸出先説明区分
破綻先法的・形式的な経営破綻(破産会社更生法適用など)に陥っている貸付先不良債権
実質
破綻先法的・形式的な経営破綻には陥っていないが、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがないなど、実質的に経営破綻に陥っている貸付先
破綻
懸念先経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、再建計画の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きい貸付先
要注意先貸出条件に問題がある、債務の履行状況に問題がある、業況が低調ないし不安定な債務者、財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意が必要な貸付先(いわゆる金融支援を受けている)
要管理先要注意先のうち、債務の履行を3か月以上延滞、または貸出条件の緩和を受けた貸付先
要管理先以外要注意先の貸付先のうち、要管理先以外の貸付先正常債権
正常先業績が良好で、財務内容にも問題がない優良な貸付先

1990年代の銀行の不良債権問題

金融再生法による不良債権比率[4]平成14年平成20年平成25年令和2年
主要行8.4%1.4%1.7%0.6%
地方銀行7.7%3.7%2.9%1.7%
第二地方銀行9.0%4.4%3.8%1.9%
信用金庫10.1%6.4%6.4%3.5%
信用組合12.7%10.3%8.4%3.2%
預金取扱金融機関の総計10.6%3.0%2.9%1.4%
失われた10年」も参照

通常であれば、銀行は融資の際に不動産などの担保を取るため、貸し倒れが起こっても担保を回収することで損失は出さずに済む。

しかし日本では、バブル景気時代に高騰した不動産を担保にとり甘い融資が行われた。通常は土地評価額の70%を目安に融資額を設定するが、今後の地価の高騰を見越して120%を融資した例や、融資を優先するあまり、抵当権の順位が下位でも担保を設定して貸し付けるなどの行為も行われた。

バブル崩壊後には融資先が事業に失敗して融資の回収ができず、さらに、担保の不動産は暴落して融資額を下回り、下位の抵当権で担保を設定した金融機関は、融資回収も担保も取れない、という状況が相次いた。こうして回収が不可能になった債権によって日本の銀行各行は深刻な経営危機に陥った。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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