万能細胞
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マウスのES細胞(緑)

万能細胞(ばんのうさいぼう)は、多能性幹細胞[1]あるいは多能性細胞[2][3][4]、もしくは仮想の夢の治療材料になる細胞[5]を指して使用される言葉である。細胞の多能性とは、多細胞生物の身体を構成するほぼすべての種類の細胞分化する能力(分化能)である[6][7]。「万能細胞」という呼称は、主に一般向けの解説やマスメディア向けに用いられている用語で生物学用語ではない[8]
「万能細胞」

「万能細胞」という言葉は、1998年11月ヒト胚性幹細胞(ES細胞)が報告されたときの新聞報道から見られる[1]。その後、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が報告されると、ES細胞を「従来の万能細胞」、iPS細胞を「新型iPS細胞」と呼び分けあるいはまとめて「万能細胞」と呼ぶようになった[1]。この両者は多能性幹細胞である。なお、粥川は英語圏で「万能細胞」に対応する言葉が見つからないと指摘している[1]
代表的な"万能細胞"

"万能細胞"と呼称される代表的なものには、受精卵の細胞分裂の初期に生じた数百個の細胞からなる胚盤胞の内側の細胞(内部細胞塊)を培養することによって得られたES細胞[9][10]、皮膚細胞などの体細胞遺伝子などを導入させて多能性を持たせた人工多能性幹細胞(iPS細胞)がある[11][12][2][10]。このES細胞人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、多能性幹細胞(: pluripotent stem cell)と呼ばれている[13]。これらは増殖して増やせる上、体のさまざまな細胞に分化誘導できるため、再生医療の材料としての利用が期待されている>[13]
多能性(pluripotency)とは

細胞の分化多能性の「pluripotency」は、「totipotency(全能性)」と「multipotency(多分化能、複能性)」の中間の分化能にあたり、生物学者の間では「多能性」と日本語訳されるが、「万能性」「分化万能性」と表記し説明される場合もあり[4][14][15][16]、一般向けの書籍や報道、講演などでは、「万能細胞」と呼称し多用されている[4]

ヒトの体はおよそ60兆個の細胞で構成されているが、元をたどればこれらの細胞はすべて、たった一つの受精卵が増殖と分化を繰り返して生まれたものである[4]。この受精卵(および、ごく初期の卵割[注釈 1][17]まで[18])のみに見られる完全な分化能を全能性(totipotency)と呼ぶ[7][19][20][21][22]。この全能性は、ほ乳類では、初期胚の細胞に見られる多能性(pluripotency)(胎児のすべての体細胞へ分化できる能力)とともに胎盤組織にも分化できる能力をもっている未分化な状態を指す[19]

受精卵が胚盤胞まで成長すると、胚体外組織を形成する細胞と、個体を形成する細胞へと最初の分化が起こる。後者の細胞は内部細胞塊に存在し、胚体外組織を除くすべての細胞へ分化できることから、これらの細胞がもつ分化能を多能性(pluripotency)と呼ぶ[19]。通常、外胚葉神経細胞など)、中胚葉(筋肉細胞など)、内胚葉腸管上皮など)の組織に分化できるかを検証して、多能性の有無を見る[10][23]。このように身体を構成するすべての種類の細胞に分化する能力(多能性)を有する未分化な細胞が多能性細胞(pluripotent cell)であり[19][7]、一般呼称的には万能細胞と呼んでいる[2][3]

そして、この内部細胞塊から単離培養されたES細胞もまた分化多能性を持ち、個体を構成するすべての細胞に分化できる[10]。ES細胞は、後に研究開発された人工多能性幹細胞(iPS細胞)と共に「万能細胞」の代表的なものとして認識されている[13][12]

なお、成人にも神経幹細胞造血幹細胞など、種々の幹細胞が知られているが、これらの幹細胞のもつ分化能は、神経系や造血系など一部の細胞種に限られているため、多分化能あるいは複能性(multipotency)と呼ばれている[19][24]
再生医療と万能細胞

ヒトを含めた哺乳類においては、原則として受精卵以外に万能細胞は存在しないが[2][3][7]、この受精卵を人工的に培養開発させた万能細胞で、人類が最初に手にしたのはES細胞である[25][4]。1981年にイギリスマウスのES細胞が作られ、万能細胞の代名詞のように呼ばれた[4][3]。培養したES細胞を正常な胚盤胞の中に注入させ、胚と細胞が混ざり合ったものを、仮親の子宮に入れると正常な胎仔を作ることができるが、この仔マウスは全身にES細胞と同じ遺伝子を持ち、正常な孫マウスを産むこともできる。このような異個体の細胞を持つマウスはキメラマウスと呼ばれている[9][10]。胚の中であらゆる器官に分化できるES細胞は、子宮の中の条件に近い環境を整えさえすれば試験管内で様々な器官へと分化できる可能性を含み、人工臓器を作って移植に利用することが可能となる[9]。1998年にはアメリカでヒトES細胞の作製が達成され、ヒトES細胞を、欲しい器官や臓器に任意に誘導分化させる条件への応用研究が進められた[9]

しかし、受精卵を壊すプロセスが倫理面・宗教面で問題とされ、2001年には、アメリカで公的研究費によって新たなヒトES細胞作製を作成することが禁止された[25][26]


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