万延元年のフットボール
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万延元年のフットボール
訳題The Silent Cry
作者
大江健三郎
日本
言語日本語
ジャンル長編小説
発表形態雑誌連載
初出情報
初出『群像1967年1月号-7月号
刊本情報
出版元講談社
出版年月日1967年9月
総ページ数393
idISBN 4061121820
受賞
第3回谷崎潤一郎賞
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『万延元年のフットボール』(まんえんがんねんのフットボール)は、大江健三郎長編小説。『群像1967年1月号から7月号にかけて連載され、同年9月に講談社から刊行された。現在は講談社文芸文庫から刊行されている。第3回谷崎潤一郎賞受賞作品。

1974年、”The Silent Cry”のタイトルで英訳が[1]、1985年、ガリマール出版社より”Le Jeu du siecle”のタイトルで仏訳が[2]刊行されている。

1994年に大江がノーベル文学賞を受賞した際に、受賞理由において代表作として挙げられている[3]

万延元年(1860年)は、幕府を揺るがすテロ「桜田門外の変」が発生して、安政から万延に改元され、勝海舟らが渡米した大きな転換点である[3]。大江は本作を「日本の近代化の始まる直前、封建幕府がはじめてアメリカに使節の乗る船を送った年、一八六〇年と、それから百年後の一九六〇年というふたつの象徴的な年号に関わる物語」であると説明している[3]

ATGにより監督:吉田喜重、脚本:別役実で映画化が企画されたが実現しなかった[4]

あらすじ

英語の専任講師の根所蜜三郎と妻、菜採子の間に生まれた子供には頭蓋に重篤な障害があり養育施設に預けられている。蜜三郎のたった一人の親しかった友人は異常な姿で縊死した。蜜三郎と菜採子の関係は冷めきり、菜採子はウイスキーに溺れている。

蜜三郎の弟鷹四は1960年の安保闘争学生運動に参加していたが転向し渡米、放浪して帰国する。アメリカで故郷の倉屋敷を買い取りたいというスーパーマーケット経営者の朝鮮人(スーパー・マーケットの天皇)に出会い、その取引を先に進めるためである。蜜三郎夫婦は、鷹四に、生活を新しくする切っ掛けにしてはどうか、と提案され、鷹四と鷹四を信奉する年少の星男、桃子とともに郷里の森の谷間の村に帰郷する。

倉屋敷は庄屋であった曽祖父が建造したものである。曽祖父の弟は百年前の万延元年の一揆の指導者であった。曽祖父の弟の一揆後の身の上については兄弟で見解が違う。鷹四の考えでは騒動を収束させるために保身を図る曽祖父によって殺されたとされ、蜜三郎の考えでは曽祖父の手を借りて逃亡したことになっている。鷹四は曽祖父の弟を英雄視している。

故郷の実家には父母はすでになく、戦後予科練から帰ってきた兄弟の兄・S兄さんは戦後の混乱で生じた朝鮮人部落の襲撃で命を落としている。兄弟の妹は知的障害があり、父母の死後に伯父の家に貰われていったが、そこで自殺した。倉屋敷は小作人の大食病の女ジン夫婦が管理している。

S兄さんの最後についての見方も兄弟で食い違う。当時幼児だった鷹四は、朝鮮人部落襲撃時のS兄さんの英雄的な姿を記憶しているが、蜜三郎は、S兄さんは、騒動の調停の死者数の帳尻合わせのため、日本人の側から引き渡されて殺された哀れな犠牲の山羊であったと指摘する。

谷間の村はスーパー・マーケットの強力な影響下にあった。個人商店は行き詰まり、スーパー・マーケットに借金を負っている。スーパー・マーケットの資本で村の青年たちは養鶏場を経営していたが、冬の寒さで鶏が全滅する。その事後策を相談されたことから鷹四は青年たちに信頼され始め、鷹四は青年たちを訓練指導するためのフットボール・チームを結成する。

妻の菜採子は退嬰的になって一人閉じこもる蜜三郎から離れ、快活に活動する鷹四らフットボール・チームと活動を共にするようになる。鷹四はチームに万延元年の一揆の様子などを伝え、チームに暴力的なムードが高まっていく。

正月前後に大雪が降り、谷間の村の通信や交通が途絶されると、チームを中心にして村全体によるスーパー・マーケットの略奪が起きる。この暴動は伝承の御霊信仰の念仏踊りに鼓舞された祝祭的なものであった。

鷹四は、菜採子と公然と姦淫するようになったが、村の娘を強姦殺人したことから青年たちの信奉を完全に失い、猟銃で頭を撃ち抜いて自殺する。自殺の直前、鷹四は蜜三郎に「本当の事をいおうか」と過去に自殺した知的障害のあった妹を言いくるめて近親相姦していたことを告白する。鷹四の破滅的な暴力の傾向は自己処罰の感情からきていた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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