一条さゆり_濡れた欲情
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一条さゆり 濡れた欲情
監督
神代辰巳
脚本神代辰巳
出演者一条さゆり
伊佐山ひろ子
白川和子
粟津號
高橋明
小見山玉樹
中平哲仟
絵沢萠子
中田カウス
中田ボタン
姫田真左久
小沢昭一
音楽世田ノボル
撮影姫田真左久
編集鈴木晄
製作会社日活
配給日活
公開 1972年10月7日
上映時間69分
製作国 日本
言語日本語
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『一条さゆり 濡れた欲情』(いちじょうさゆり ぬれたよくじょう)は[† 1]1972年10月に公開された、神代辰巳脚本、監督の日活制作の映画作品である。ロマンポルノの名を高めた傑作とされ、1972年度のキネマ旬報の日本映画ベストテン8位、映画芸術ベストテン2位、脚本の神代辰巳は1972年度キネマ旬報監督賞、主演の伊佐山ひろ子はキネマ旬報女優賞を受賞した。また、仁義なき戦いに影響を与えた作品であることも知られている。
あらすじ

まず最初に、「この映画はあくまでストリップの女王、一条さゆりに託したフィクションです」との字幕が流される[1]

うだるような夏の日、24?25歳くらいのストリッパーのはるみ(伊佐山ひろ子)と、彼女と同年齢くらいの男が阪神電車野田駅に現れる。はるみは白いパラソルを差し、男はバカでかいトランクを担いでいる。男はストリッパーはるみのヒモであった。ちょうどこの日、かつてのはるみのヒモ、大吉(粟津號)が3年の刑期を終え、出所する日であった。今後どちらがはるみのヒモとなるのか、3人で話し合わねばならない。しかし話し合いの前に待ち合わせ場所の喫茶店からヒモが逃げ出してしまう。逃げられたことを知って悔し泣きするはるみ。そこに丁度、出所した大吉が現れる。泣きはらしていたはるみの姿を見て、出所を喜んで嬉し泣きをしているものだと勘違いする大吉。そうして結局、はるみと大吉は元さやに収まってしまう[2]

はるみの次の仕事場は大阪、吉野ミュージック。はるみはストリップの女王、一条さゆりに激しい対抗意識、嫉妬心を燃やしていた。一条さゆりに対していじましい嫌がらせを繰り返し、はるみが演じるレズショーの相方、まり(白川和子)から、一条さゆりにいじましい嫌がらせを繰り返しているのははるみではないかと追及されても、素知らぬ顔ですっとぼける。そして一条さゆり本人の前でおべんちゃらを使い、自らも同じような人生行路を歩んできたと騙り、一条さゆりのことを尊敬していると言うが、すげなくあしらわれる[3]

一条さゆりが急病のためお休みとなった日に、吉野ミュージックに警察のガサ入れが入った。はるみとまりは検挙され、はるみは連行時、そして留置場の中でも悪態をつきまくり、相方のまりと口論となる。婦警(絵沢萠子)から「阿呆くさ、なに揉めとんねん!」と怒鳴られる二人。結局罰金刑となり釈放され、はるみのヒモである大吉と、まりのヒモ、勇(高橋明)が迎えに来るが、はるみとまりは大喧嘩となって殴り合いになる。するとヒモの大吉と勇も巻き込まれ、4人の喧嘩に発展して大吉が勇の足を刺してしまい、大吉は刑務所に戻ってしまう[4]

まりとの大喧嘩の結果、はるみはまりとのレズショーから単身でストリップを演じることになる。そしてはるみは懲役となった大吉から、勇へとヒモを乗り換えた。一条さゆりに激しいライバル心を燃やすはるみは、勇相手に一条さゆりお家芸のろうそくショー、特出し(局部を観客に見せる)の特訓に明け暮れる[5]

一条さゆりが引退を決意し、テレビのインタビューを受ける。一条さゆりの引退興行の前座に、はるみも出演することになる。引退興行当日、報道陣から今の気持ちを聞かれる一条さゆり、そこにはるみが現れて、やはりおべんちゃらを使うも一条さゆりから「大事な興行ですさかい、いたずらせんようにな」と、釘を差される。怒りが沸騰するはるみ。一条さゆりのステージが佳境を迎える中、はるみと勇は大阪の街を歩き回り、デパート屋上の遊園地の乗り物でセックスをする。ふと我に返るはるみ、舞台に穴を開けられないと吉野ミュージックに急いで戻る[6]

一条さゆりが特出しに入ったその時、警察が一条さゆりを逮捕する。観客の怒号の中、連行される一条さゆり。その混乱の隙に勇ははるみを大きなトランクの中に隠す。しかし長時間隠れる中で尿意を催し、我慢できずに漏らしてしまうはるみ。はるみの尿は小さな流れとなって、警戒中の刑事の足下に。刑事に気づかれる中、勇は無理くりトランクを持って逃げようと試みる。しかし足が不自由な勇は、坂道でトランクの紐を離してしまい、はるみを乗せたトランクは勢いよく坂道を転げ落ちたあげくにトラックにぶつかりようやく停止する。あえなく御用となったはるみ。警察前では自らの衣装を脱ぎ捨て、裸で警察内に担ぎ込まれる[7]

釈放後、はるみは性懲りもなく特出しを演じ、観客に「うちと一条はん、どっちがようけ出よる?」と、語り掛けるのであった[8]
製作
日活ロマンポルノ路線と神代辰巳

1958年にピークを迎えた映画館入場者数はテレビの普及に伴って急速に減少し、1965年には1958年の約3分の1にまで落ち込んだ。観客数の減少は映画会社を直撃し、1960代半ば以降、日活は経営状態が悪化し始めた。1660年代末には経営の悪化が進み、1969年に撮影所を売却し、翌1970年には本社ビルの売却に追い込まれた。経営再建のため大映と共同出資してダイニチ映配を設立したものの、1年あまりでダイニチ映配も行き詰まり、1971年6月にはダイニチ映配から撤退し、8月には映画製作を中止する事態に陥った[9]

会社存続の危機に立たされた日活は、まず経営陣より大規模なリストラが提示されたが、労働組合側から労使協調で経営再建策を話し合おうとの提案があり、経営側も同意し、1971年7月に労使双方による「経営」、「映像」の委員会が立ち上げられ、経営再建策を練ることになった。結局再建案は

成人映画

大作映画

児童映画

スタジオレンタル、ビデオ展開を図るための映像開発

という4つの事業で進められることになった。中でも成人映画はロマンポルノと名付けられた[10]

映画撮影中断時、自宅待機を命じられた日活関係者は、方針決定後、「これからロマンポルノを始めるので、ポルノをやっても良い人は会社に残れ。やりたくない者は辞めてもらって構わない」と通告された。成人映画を経営再建の柱のひとつとする方針には反発も強く、多くの監督、専属俳優が日活を離れた。日活を離れる決断をした人たちの中からは、ロマンポルノなど映画では無いなどという声も挙がった。しかし撮影、録音等の技術スタッフはかなりの数が日活に残る決断をした[11]

日活の経営危機の再建策として始められたロマンポルノは、低予算、短期間での制作が宿命づけられた。具体的には撮影日数は10日以内、映画は70分以内で750万円の予算で制作すべしとの方針が定められた。当時、日活は平均して映画一本の制作に約3000万円をかけていた。それでも1971年当時、主に独立プロダクションが制作していたポルノ映画は約200?300万円の制作費であり、映画制作に慣れたスタッフらが手掛ける日活ロマンポルノには勝算があると踏んだのである。ロマンポルノ路線転向以前の日活には、「石原裕次郎は決して死んではならない」、「ロケ時は晴天で無ければならない」等の撮影上のタブーが存在したというが、ロマンポルノは70分以内の映画にして成人映画として10分間に1回は絡み場面を入れる等の要件を満たせば企画内容の制限が撤廃され、映画監督が自由に腕が振るえるようになった[12]

ロマンポルノ路線が動き出す中で、急速に頭角を現してきた人物のひとりが神代辰巳である。神代は1955年に日活に入社後、斎藤武市蔵原惟繕らのもとで助監督を務めていた。1968年、かぶりつき人生で監督デビューを果たすが、日活始まって以来の不入り映画と言われるほどの不評に終わり、その後、1971年のロマンポルノ路線開始まで不遇の時代を過ごしていた[13]神代はロマンポルノ路線への転向に向けて社内での話し合いの中で、実際にポルノ映画の企画まで出していた[14]

1971年11月、日活ロマンポルノの初作が封切られ、その後続々と作品が発表される。日活ロマンポルノは順調な滑り出しを見せ、多くのスタッフが辞めていった日活は、映画監督を始めとするスタッフに新人を抜擢していき、日活は活気を取り戻していく。しかし1972年1月28日、山口清一郎監督の「恋の狩人 ラブ・ハンター」、藤井克彦監督の「牝猫の匂い」などが刑法175条の猥褻図画公然陳列罪容疑で警視庁保安一課にフィルムを押収され、日活本社や撮影所にも家宅捜索が入った。そして5月25日には関係者135名が東京地検に書類送検され、6月4日からは日活ロマンポルノ裁判と呼ばれる公判が開始された[15]

神代辰巳は、猥褻図画公然陳列罪容疑で摘発された「恋の狩人 ラブ・ハンター」の共同脚本執筆者であった。そして自らの監督作品「濡れた唇」も公開直前であった。摘発直後の1月29日、日活は予定通り「濡れた唇」の封切を行い、当初から警察の摘発に抵抗する姿勢を見せた。もともと日活はロマンポルノ路線転向に確たる見通しを持っていた訳ではない。また警察の摘発についても想定はしていた。摘発後、映画関係者や評論家の中から「映画界の面汚し」などと批判する声が上がり、日活内でもこれを契機に新たな退職者も出た。しかし現場ではむしろ摘発に対して闘争心を掻き立てることになった[16]
一条さゆりの映画出演

記録的不入りを記録した「かぶりつき人生」と異なり、神代のロマンポルノ初作であった「濡れた唇」の評判は上々であった。


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