ワニ形上目
現生のイリエワニ(上)
ヘスペロスクス復元CG(下)
地質時代
後期三畳紀 - 現代
分類
本文参照
ワニ形上目(ワニけいじょうもく、学名:Crocodylomorpha)は、爬虫綱主竜形下綱に分類される上目。中生代の後期三畳紀に出現し、陸棲・半水棲・海棲と多くの生態的地位に適応した属種を輩出した。現生のワニ目と、スフェノスクス類や原鰐類などの近縁の絶滅群を含む[2]。ワニ形類[2]、ワニ型類[3]、鰐型類[4]ともいう[注釈 1]。 ワニ形上目は三畳紀に出現した[6]。その起源は明確にされていないが、プロテロスクスのような主竜形類から派生したと考えられている[7]。当時のワニ形上目は現在のワニから想像されるような大型の動物ではなく、小型で後肢が長く、現生のネコやイヌのように踵を浮かせて歩行する趾行性の動物であった[6]。前肢は後肢に比べて短いことから、基本的に二足歩行で行動し、前肢は獲物の捕獲や補助的な歩行に用いられていたと推測されている。初期のワニ形上目の例として後期三畳紀のテレストリスクスやグラキリスクス
進化史
ワニ形上目は前期ジュラ紀から短期間のうちに多様化して数多くの生態的地位を埋めており、陸上・河川・湖沼・河口・海洋へ進出した[7]。例えば、陸上では中期ジュラ紀のマダガスカルにラザナンドロンゴベが生息していた。本属は全長約7メートル、体重は最大で約1トンと推定されており、当時の恐竜を差し置いて頂点捕食者の地位に居たと考えられている[10]。前期ジュラ紀の初頭には現生のワニを含むより小さな系統群である新鰐類が登場した。当時の新鰐類は現生のワニと比べて大きくはなく、全長1 - 3メートル程度のものが主であった[7]。新鰐類の代表例として挙げられる属に後期ジュラ紀のゴニオフォリスがいる。ゴニオフォリスは全長2,3メートルで、現生のワニと酷似した腹這いの姿勢を採っていた。つまり、より基盤的なワニ形上目のように内陸を直立歩行するのではなく、水辺に潜む捕食動物としての半水棲の生態に適応していた[11]。後期ジュラ紀のメトリオリンクスに代表されるメトリオリンクス科(英語版)は海棲適応を果たしており、四肢はヒレ状に特殊化を遂げた[8]。ただし当時の頂点捕食者は彼らではなく首長竜のリオプレウロドンであったと推測される[7]。
新顎類は白亜紀に大型化を遂げた。その代表例は前期白亜紀のサルコスクスである。サルコスクスは全長約12メートルに達する大型の捕食動物で、魚類だけでなく翼竜や中型の恐竜も獲物にしていたと考えられている。後期白亜紀には正鰐類が出現し、そのうち現生ワニ目のクロコダイル科とアリゲーター科が分布を拡大した。これらの属種には北極へ進出するものもいた。ガビアル科の出現は前者2科と比べて遅く、新生代の古第三紀始新世の前期に出現した[7]。
なお、半水棲の新鰐類のみが白亜紀末の大量絶滅を生き延びたわけではない。新鰐類の姉妹群であるノトスクス亜目(英語版)に属するセベコスクス類(英語版)と呼ばれる陸棲の系統は、新第三紀中新世までの化石記録が確認されている[12]。 ヒトを含む哺乳類の歯では、エナメル質に覆われていない歯根部の象牙質がセメント質に覆われ、顎の骨に開いたソケットに収納されている(槽生)。ワニ形上目をはじめとする主竜類もまたセメント質の槽生を獲得している[13]。歯は哺乳類と対照的に生涯を通じて何度でも生え変わる多生歯性を持つ。原毛・体毛の発達したキノボリトカゲ科
解剖学的特徴
四肢の構造としては、哺乳類を含む獣弓目と同様に脚が体の下へ位置する、直立に近い姿勢を採る。すなわち、トカゲ(有鱗目)のように脚を横へ突き出して地面に這いつくばるような姿勢を採らない[13]。これは、腸骨の寛骨臼が外側を向く基盤的な主竜形類と異なり、ワニ形上目では寛骨臼が大腿骨頭側へ拡大して下側を向いている(すなわち大腿骨軸が下向きに位置する)ためである。この直立歩行の獲得は寛骨臼が貫通して直立を可能とした恐竜の直立様式とは由来を異とする[6]。なお、現生のワニでは大腿骨が下向きになっておらず、直立姿勢は失われている。現生のワニでは這い歩き、半直立の高這い、ギャロップといった歩行様式が見られる[14]。
遠位足根骨は癒合しており、獣弓目ゴルゴノプス亜目との収斂を示す[13]。足根骨の蝶番状の関節には隆起があり、足の筋肉の力を補助している[6]。また、ラウィスクス類やオルニトスクス科と同様に第5中足骨が退化し失われている。