この項目では、日本語のラテン文字表記について説明しています。その他の用法については「ローマ字 (曖昧さ回避)」を、特に、ローマ字に用いられる文字の文字体系については「ラテン文字」をご覧ください。
日本の鉄道の駅名標では、ローマ字表記の駅名がよく記載されている。
(東京駅、JR東日本 京浜東北線)
ローマ字(ローマじ)は、仮名をラテン文字に翻字する際の規則全般(ローマ字表記法)、またはラテン文字で表記された日本語(ローマ字綴りの日本語)を表す。 単に「ローマ字」(英: the Roman alphabet)と言った場合、本来はラテン文字(ラテン・アルファベット)のことを指す。「ローマ」とは、古代ローマにおいて用いられていた文字に由来することからの呼び名である。 ただし現在の日本では、ラテン文字を用いての日本語の表記法(日本語のラテン翻字)と表記そのもののことをローマ字と呼ぶことが多く、本項での記述はこれに相当する。 非ラテン文字言語をラテン文字で表記することを英語では「romanization」(ラテン文字化)と呼び、日本語以外にも、ロシア語、ギリシャ語、アラビア語、中国語、朝鮮語など非ラテン文字言語の多くでラテン文字化の方法が定められているが、日本国内では一般にそれらの表記法を単に「ローマ字」と呼ぶことはまずない[注 1]。また、英語でも特に日本語からのラテン文字化は「romaji」と呼ぶことがある[1]。 東京大学で日本人初の教授となった外山正一が、1884年に発足させた「羅馬字会」に見られるように、かつてはローマ字を羅馬字とも書いた。 日本国外では英語を中心とするラテン文字言語において日本語を表記する際に用いる。発音表記としての意味も担うことが多い。使用はもっぱら日本語の単語や語句を引用する場合に限られ、たとえば、国内外の図書館で、日本語の書籍名を登録する際に用いられる。日本語の文字を扱えないコンピュータ環境などで日本語を表記する場合に用いる。日本語の文章全体がローマ字で表記されるのは、日本語初等学習者対象の文章を除いてまれである。 ヘボン式、訓令式など複数の表記法や規格が存在する(後述)。教科書では訓令式、人名や標識など固有名詞ではヘボン式を使用することが多い。日本語のローマ字表記は非常に混乱している。写真は阪急大阪梅田駅の入口の看板。阪急17番街のローマ字が「HANKYU JY?NANABAN-GAI」という間違った表記になっている。ヘボン式ならば「J?」、訓令式ならば「ZY?」という表記になるが、どちらにも当てはまらない。外国人向けの案内では、このような表記は推奨されていない。城北通(大阪府高槻市城北町)。推奨されていない「JYOHOKU-DORI」の表記になっている(ヘボン式なら「JO」、訓令式なら「ZYO」と綴る)。 しかし、必ずしも特定の表記法が守られているとは限らず、表記法にはない独自の表記が使われることがある。また、駅名では鉄道会社ごとに表記が違う[2]。ローマ字は和文の転写に過ぎず、表記の揺れ・誤りは、特に長音表記やわかち書きでは甚だしい。例えば「おお」「おう」という音にo, ?, o, oh, ou, ooの6通りが当てられたり、本来は「jo」または「zyo」と表記すべき「じょ」「じょう」という音に「jyo」という表記が、「chu」または「tyu」であるべき「ちゅ」「ちゅう」の音に「cyu」という表記が当てられていることがある。大阪府の箕面市では「Minoh」を公式のローマ字表記として使っている[3]。箕面市長の倉田哲郎は「(英語圏の外国人を念頭に)『Minoo』だと外国人は『ミヌー』と読んでしまうのです。ですからこれは間違いだと思います。」と発言している[4]。また、シューティングゲーム「SENJYO」は「センジョウ」、雑誌「dancyu」は「ダンチュウ」と読ませている(どちらも拗音+長音)。 人名表記において英語・表記発音などを模した創作表記もよくなされる。例としてSheena Ringo、Joe Hisaishi、George Tokoro、Amy Yamada、Kie Kitano、Shioli Kutsuna、Leonard Foujitaなど。パスポートの氏名表記は長音符号を付けないのが原則であり、小野(おの)・大野(おおの)は、ともに表記が ONO になり区別がつかない。ただし、大野は申請によって OHNO が許されるが、そう綴った場合には制約も生じる[5]。これら表記の不統一が、コンピュータで検索する際などには障害ともなる。有名人や企業名などの名称を悪用すれば、なりすましや偽サイトへ誘導することも技術的には可能である。こういった事例は中国人、韓国人名のローマ字表記(李姓:Li、Lee、Rhee、Yi、I、朴姓:Pak、Park、張姓:Zhang、Jang、Chang、盧姓:Lu、Loo、(韓国語原音のNoではなく)Rohなど)や、本国ではキリル文字を使うロシア人、ブルガリア人名のローマ字表記(Иванов姓:Ivanov、Ivanoff など)においても見られる。 ラテン文字を使う欧米の大半では、人名の姓を後に「名-姓」と表記する。日本でも伝統的にローマ字での氏名表記は「名-姓」と表記される事が一般的であったが、2019年に政府は言語や文化の多様性を意識し、日本の伝統的な人名表記である「姓-名」とすることが大切だとし、公用文等の日本人の姓名のローマ字表記について、差し支えのない限り「姓-名」の順を用いるようにするとした(ただし、国際機関で指定された様式があるなど特段の慣行がある場合を除く)。また、姓と名を区別するために「YAMADA Haruo」の様に姓を全て大文字とするとした[6]。国語審議会#日本人名のローマ字表記も参照のこと。 各種方式の共通点と相違点を概説する。 原則として、「カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ヤ、ラ、ワ、ガ、ザ、ダ、バ、パ」行子音を「k, s, t, n, h, m, y, r, w, g, z, d, b, p」で表す。拗音(開拗音)は「子音字+y+母音字」で表す。 旧ヘボン式および修正ヘボン式では英語発音への近似性から「シ」を「shi」、「チ」を「chi」、「ツ」を「tsu」、「フ」を「fu」、「ジ」を「ji」、サ行拗音を「sh-」、タ行拗音を「ch-」、ザ行拗音を「j-」で表す。 日本式では現代仮名遣いまたは歴史的仮名遣いの厳密翻字に基づき、「ヂ」「ヅ」「ヲ」を「di」「du」「wo」と表記するが、訓令式とヘボン式では表音主義(表音式仮名遣い 原則として、撥音「ん」は「n」で表す。例外として旧ヘボン式では「b」「p」「m」の前に限り「m」を使う。後者の例1:tempura(天ぷら) - 本項の「ウィキペディア」節も参照のこと。後者の例2:tombo(トンボ) - 企業名「株式会社トンボ鉛筆」の英称 "Tombow Pencil Co.,Ltd. などにも見られる綴り[注 2]。後者の例3:kamp?(漢方) - 文字検索すれば確認できるが、現在でも企業名・団体名・商標などに数多く使われている。 撥音の後に母音やヤ行音が来てナ行音と区別できなくなった場合は、旧ヘボン式では間に「-」(ハイフン)、修正ヘボン式および訓令式では「'」(アポストロフィー)を挿入する。後者の例1:shin'ai(しんあい:親愛、信愛) - shinaiでは誤読「しない(竹刀など)」を避けられない。後者の例2:shin'y?(しんよう:信用、ほか) - shiny?では「しにょう(屎尿 原則として、促音は直後の子音字を繰り返す。例外として、旧ヘボン式および修正ヘボン式では直後が「ch」の時は「tch」とする。語末の促音表記については、どの方式でも公式には定められていない。語末の促音の例:a'(あっ)、doki'(どきっ)、sore'(それっ)などの感嘆詞。 長音のローマ字表記は混迷を極めており、ヘボン式からマクロンを除いたり、UやHを加えたりと、多様な表記揺れが見られる。詳しくは上記の項目を参照。 助詞の「は」「へ」「を」は、表音主義を採用する訓令式、ヘボン式ではそれぞれ「wa」(わ)「e」(え)「o」(お)と書くが、現代仮名遣いまたは歴史的仮名遣いに基づく厳密翻字では仮名表記どおりに「ha」(は)「he」(へ)「wo」(を)と書く。 ヘボン式は英語の発音への準拠を重視したローマ字表記法である。用途に応じて様々な種類があり、それぞれで細かい表記規則が異なるが、旧ヘボン式、修正ヘボン式の二種類に大別される。 旧ヘボン式(Traditional Hepburn)はアメリカ人ジェームス・カーティス・ヘボンの『和英語林集成』第三版(1886年)で定義された表記法。日本国内で単にヘボン式という場合、この方式を指す場合が多い。 修正ヘボン式(Modified HepburnまたはRevised Hepburn)は、研究社の『新和英大辞典』第三版(1954年)で考案され、後にアメリカ図書館協会およびアメリカ議会図書館のローマ字表記法 両者の大きな違いは、旧ヘボン式では撥ねる音「ん」が「b」「m」「p」の前に来た場合は「m」、それ以外の場合は「n」で表記するのに対し、修正ヘボン式では全て「n」で表記する点である。また、撥ねる音「ん」が母音字または「y」の前に来た場合、旧ヘボン式では「n」の後ろに「-」を入れるのに対し、修正ヘボン式では「'」を入れる点も異なる。 2019年(令和元年)時点、日本国内では旧ヘボン式、修正ヘボン式ともに広く使われており、分野や団体によって採用されている方式が異なる。そのため、例えば同じ地名のローマ字表記が駅名標と道路標識では一致しないといった問題も起こっている(後述)。 なお、現在国内外で「修正ヘボン式」(Modified Hepburn)と呼称される表記法が定着する以前にも、ヘボン式を修正した新たな表記法を定める試みは複数存在したため、文献によっては今日とは異なる意味で修正ヘボン式という語を使用する場合があり、注意が必要である。現在では旧ヘボン式とされる『和英語林集成』第三版(1886年)に掲載された表記法も、第二版の表記法を日本人の案に従って修正したものであり、これを指して「修正ヘボン式」と呼ぶ場合がある[7][8]。1908年、ローマ字ひろめ会が、第三版の表記法に僅かに修正を加えて「標準式」と称したが、この修正を指して「修正ヘボン式」と呼ぶ場合もある[9]。「標準式」は第三版の表記法を含めた広義のヘボン式の名称としても使われた。現在、ブリタニカ国際大百科事典はヘボン式、標準式、修正ヘボン式は同義とみなしている[10]。 イギリスにおいてはアメリカ地名委員会およびイギリス地名常置委員会の1976年合意に基づく修正ヘボン式[11]が日本語仮名のローマ字表記法(Romanization System For Japanese Kana)として、2015年の改訂を経て今日まで用いられている。 アメリカにおいては1975年、様々な非ラテン文字言語のローマ字表記法を規定したアメリカ図書館協会およびアメリカ議会図書館のローマ字表記法 その他には米国国家規格協会のANSI Z39.11-1972[12]規格が存在したものの、訓令式に基づくISO 3602の登場を受け、1994年に廃止された。 いずれも内容は修正ヘボン式と同一である。 旧ヘボン式に準じたローマ字表記法が多い。明治時代については不明点が多く、大正に入り『鉄道公報』1916年12月21日付「驛名假名文字及羅馬字ニ就テ」の時点では「ヘボン式」の名こそ出ないものの、既に第二次世界大戦後と同じ表記法になっている。1927年4月7日鉄道省達第79号『鉄道掲示例規』で改めてヘボン式ローマ字別表が定められた。1938年3月8日鉄道省達第127号により訓令式に順次書き替えられたが、戦後の1945年から占領軍の指令に従って駅名標にヘボン式ローマ字を書く作業が進められた。規程の整備は遅れて、1946年4月1日運輸省達第176号による『鉄道掲示規程』改正で、ローマ字は「修正ヘボン式」と明記された。 旧ヘボン式準拠の場合、長音は母音の上にマクロンを付加し、撥ねる音「ん」は「b」「m」「p」の前は「m」、その他は「n」、区切り点はハイフン、つまる音「っ」は次の音の子音字を重ねるが「ch」が続く場合にはcを重ねずtを用いて「tch」とする(例:「Shimbashi」(新橋)[13]、「Temma」(天満)、「Bitch?-Takahashi」(備中高梁)、「Shindembaru」(新田原)[13]など)。 また令制国名が入る駅名や既存の駅名に新や東西南北などを付けた駅名は、旧国名や新などの後にハイフンを入れる(例:「Tamba-?yama」(丹波大山)、「Gumma-Yawata」(群馬八幡)、「Shin-?saka」(新大阪)、「Higashi-Kakogawa」(東加古川)など。
「ローマ字」という呼称
ローマ字の使用
表記法
母音
子音と拗音
撥音と促音
撥音「ん」
撥音+アポストロフィーなど
促音+子音字
長音詳細は「長音符#ローマ字における表記」を参照
助詞
ローマ字の種別
ヘボン式詳細は「ヘボン式ローマ字」を参照
イギリスおよびアメリカ規格
駅名標豊岡駅ホームにある国鉄型駅名標。隣駅の国府のローマ字表記は訓令式の「KOKUHU」となっているが、玄武洞はヘボン式の「GEMBUD?」となっている千葉都市モノレール・千城台駅の駅名標。「CHI SHI RO DAI」と記載されている。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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