ロードプライシング
[Wikipedia|▼Menu]

ロードプライシング(: Road pricing)とは、

広義には自動車による道路の使用に対して料金を徴収する行為全般を意味する(有料道路を含む)。

狭義には、社会的合理性の実現を狙って、公道と考えられていた道路の使用に対する課金課税をいう。

この場合の社会的合理性とは、公害低減、交通量制限、道路維持補修費用・道路建設費への充当、公共交通整備費用への充当などに関わる。

さらに主目的を限定し、自動車排ガスによる大気汚染問題や救急車の到着遅延問題等の自動車公害への根本策として、自動車の乱用を控えさせる交通量を制限する政策措置、そして適用対象を都市中心の一定範囲内の公道とする政策措置の事例が比較的多い。都市域を迂回する有料道路の料金を減額するなどの措置の事例もある。狭義のロードプライシングはこれらを指す場合もある。この場合、課金の目的を強調して「渋滞(混雑)課金」、「環境ロードプライシング」という呼称もある。交通工学交通経済学では、「混雑料金」、「混雑課金」、「混雑税」と呼ばれる事も多い。

なお日本語では、「道路課金」という訳語が提案されているが[1]、和訳せず「ロードプライシング」という呼称も優勢である。

なおピークロード・プライシングとは、ピークロード(peak load, 負荷若しくは需要の最大状態)に対する課金を言う。最も道路が混雑する時間帯のみに実施する道路課金や、電力需要ピークを対象とする電力料金等を指す。
ロードプライシングの概念と推移

この概念は以前から存在したものの、主として1990年代以降、大都市中心部への過剰な自動車の乗り入れによる社会的損失(救急車の到着を遅らせる等の深刻な問題を起こす交通渋滞大気汚染など)を縮小させる施策として、都心の一定範囲内に限り自動車の公道利用を有料化し、流入する交通量を制限する政策措置が導入される動きがある。

第二次世界大戦後に日本を含め世界中の国や地域で、所得水準の向上により自動車の大衆への普及(モータリゼーション)の爆発的進行に対応して、各国で道路容量の拡大と高速道路網の整備が進められたが、同時に交通事故、大気汚染、騒音などのいわゆる自動車公害が大きな社会問題になってきた。また、道路の新設拡張にも限界が見えて道路容量が頭打ちになったために交通渋滞が慢性化して都市部では悪化する傾向が続いてきた。その結果、供給面の限界に直面した運輸当局は、交通需要を抑制する手段として「ロードプライシング」に注目することになった。

通常の有料道路は、道路建設に投下された資金を一定期間内に回収する目的で料金を徴収するが、ロードプライシングの課金は、社会的損失自身の縮小(需要抑制)に加えて社会的損失事象に対する改善施策費用の回収を目的とする。公害の発生に伴う外部費用を回収する意味合いで課金し、それと同時に公共の利便性を一部犠牲にしながら道路需要を制限する。例えば、渋滞の時間帯について渋滞の比率を計算し、それに比例させたり累進的な比率で道路料金を通行車輌に課金する。または渋滞率なるものを設定して、40%の時間帯には400円、80%の時間帯には800円と課金することにより、渋滞の緩和効果をねらうというものである。

欧州では課金収入の使途について、後述の貨物自動車への課金も含め、道路の維持・拡張よりも公共交通の拡充が重視される傾向がある。
道路交通需要及び道路整備維持の適正化と社会的費用

道路交通発生需要及び道路整備維持は、社会全体での「純便益」: =「利用者便益」 - 「社会的費用(通常の費用に加えて、社会に与える負の効果である外部費用も合わせた費用)を最大とするように適正化(合理化)される必要がある。また、持続可能な公共交通都市、社会の整備維持を含めて、適正化される必要もある[2][3][注釈 1]

道路の渋滞・混雑の問題点については、旅行時間増大等により都市及び社会全体での道路交通の「社会的費用」が、交通量に対して非線形的(加速度的)な増大を生じていることと考えることができる。これは道路利用者が加害者でもあり被害者でもある状態と見なすことができ、利用者は外部費用を明示的に請求されないので、道路利用を表層的に安価と見てしまうことによる利用者数の増大による過大需要が生じている状態と考えられる[4]

単純なモデルを用いると、一定区間道路の利用車台数 n {\displaystyle \,n} 、一台の得る便益 p {\displaystyle \,p} 、 一台が混雑により被る不便益 q {\displaystyle \,q} 、 総純便益 R {\displaystyle \,R} とする。利用者は外部費用である n d q d n {\displaystyle \,n{\frac {dq}{dn}}} を明示的に請求されないとすると、 p − q {\displaystyle \,p-q} の正負が利用・不利用の基準となるので、それによって実現される需要 n {\displaystyle \,n} (すなわち p − q ( n ) = 0 {\displaystyle \,p-q(n)=0} の解)は過大であり R {\displaystyle \,R} を極大化しない。 R = n p − n q ( n ) , d R d n = p − q ( n ) − n d q d n {\displaystyle {\begin{aligned}R&=np-nq(n),\\{\frac {dR}{dn}}&=p-q(n)-n{\frac {dq}{dn}}\end{aligned}}}

道路利用者の適正な社会的費用負担の原則(受益者負担の原則)の実施、並びに適正な道路交通需要及び道路整備維持の実現は可能と考えられている。これは道路を公共財と位置づけず、排除性競合性が成立すると見なし、これに基づき通常の市場経済に委ねる考え方にも近い[5]。但し実現のためには、適正な「道路課金及び需要に基づく道路整備維持」及び「料金徴収」を運用できる制度とシステム(例えば走行距離課金)の実現が前提条件である[6]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:67 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef