ロジスティック関数
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ロジスティック方程式の解曲線(ロジスティック曲線)の一例。S字の形を描き、環境収容力に収束する。培養容器内のキイロショウジョウバエ。ロジスティック曲線に当てはまる個体数増加が確認された例である。

ロジスティック方程式(ロジスティックほうていしき、英語:logistic equation[1])は、生物の個体数の変化の様子を表す数理モデルの一種である。ある単一種の生物が一定環境内で増殖するようなときに、その生物の個体数(個体群サイズ)の変動を予測できる。人間の場合でいえば、人口の変動を表すモデルである。

1838年にベルギーの数学者ピエール=フランソワ・フェルフルスト(Pierre-Francois Verhulst)によって、ロジスティック方程式は最初に発案された。フェルフルストは、1798年に発表されて大きな反響を呼んだトマス・ロバート・マルサスの『人口論』の不自然な点を解消するために、このモデルを考案した[2]。マルサスは『人口論』で、人口は原理的に指数関数的に増加することを指摘した[3]。しかし、実際には環境や資源は限られているため、人口の増加にはいずれブレーキがかかると考えるのが自然である。人口が増えるに連れて人口増加率は低減し、人口はどこかで飽和すると考えられる。ロジスティック方程式はこの点を取り入れて、生物の個体数増殖をモデル化したものである。フェルフルスト以後には、アメリカの生物学者レイモンド・パール(Raymond Pearl)が式を普及させた。

具体的には、ロジスティック方程式は d N d t   = r N ( 1 − N K ) {\displaystyle {\frac {dN}{dt}}\ =rN\left(1-{\frac {N}{K}}\right)}

という微分方程式で表される。N は個体数、t は時間、dN/dt が個体数の増加率を意味する。r は内的自然増加率、K は環境収容力と呼ばれる定数である。個体数が増えて環境収容力に近づくほど、個体数増加率が減っていくというモデルになっている。

式の解(個体数と時間の関係)はS字型の曲線を描き、個体数は最終的には環境収容力の値に収束する。この曲線や解の関数はロジスティック曲線やロジスティック関数として知られる。方程式の名称は、ロジスティック式やロジスティックモデル、ロジスティック微分方程式と表記される場合もある[4][5][6]。発案者の名からVerhulst方程式、発案者と普及者の名からVerhulst-Pearl方程式とも呼ばれる[7]

ロジスティック方程式は、個体群生態学あるいは個体群動態論における数理モデルとしては入門的なものとして位置づけられ、より複雑な現象に対応する基礎を与える[5]。数学分野としては、微分方程式論力学系理論の初等的な話題としても取り上げられる[8][9]
生物の個体数のモデルフィボナッチによるウサギのつがいの増殖問題「個体群動態論」も参照

生物の個体数の変動については古くから興味を持たれ、研究が行われてきた[10]フィボナッチ数の発見に繋がったレオナルド・フィボナッチウサギの個体数の問題が、おそらく最も古い個体数の数理モデルといわれる[11]

生物の個体数の増え方に関する研究は、個体群生態学の分野に属する[12]。ここで、個体群とは簡単には、ある領域に生息している単一のの個体の集まりのことを指す[13]

この個体群の大きさ(個体群サイズ)の指標としては、個体群内の総個体数が使用される[14]。個体数の代わりに、領域の単位面積当たりの個体数である個体群密度や単位面積当たりの生物の総重量である生物量が、個体群サイズとして適切な指標となる場合もある[15]。人間でいえば、これらの指標は人口人口密度に相当する[16]
マルサスモデルマルサスモデルによる個体数増加曲線の様子。赤色が m = 4、紫色が m = 2、藍色が m = 1。いずれも最初は N =1 だが、その後の急激な成長が見て取れる。「マルサスモデル」も参照

多くの生物では、親は多くの子孫を作るので、それがそのまま生き残ると仮定すれば、あっという間に莫大な個体数となる。ねずみ算など、数学的小話の種である[17]。まずはこのような単純なものが、生物個体数の増加モデルとして考えられる。

ある個体群において、時刻 t に個体数が N 体が存在しているとする。実際の生物個体数は不連続な値(整数)をとるものであるが、数学的扱いを簡便にするために、個体数は連続な値(実数)をとるものとする(1.5体といったような値も含める)ことがしばしば行われる[18]。実際の生物でいえば、個体数が多かったり各個体の世代が重なったりしていれば、このような近似も妥当性を帯びてくる[19][20]。個体数を連続な値とすれば、個体数の増加率は N の時間微分 dN/dt で表すことができる[21]

さらに話を単純化するために、個体は環境を出入りしないという状況を想定する[22]。この場合、個体の出生と死亡という2つの要因のみによって個体数は増減する[22]。個体群の出生率死亡率を上回っていれば、個体数は増え続けるということになる[10]。さらに簡略化するために出生率と死亡率を常に一定であるとする[10]。個体数当たりの出生率を b、個体数当たりの死亡率を d とすれば、個体数の増加率は差し引きした b − d に個体数 N を掛け合わせた値となる[23]。よって個体数増加率 dN/dt は d N d t   = m N {\displaystyle {\frac {dN}{dt}}\ =mN}

という微分方程式で表される[24]。ここで m は比例定数であり、m = b − d である[20]

このような式で表される個体数増加は t の指数関数となり、人間でいえば、あっという間に人口爆発を引き起こすことになる[25]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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