ロケットエンジンの推進剤(ロケットエンジンのすいしんざい)の記事では、ロケットエンジンないしロケットによる打上げのシステムにおける推進剤(プロペラント)に関する事項について述べる。 化学ロケットの場合は、燃料を燃焼させてエネルギーを得た後の排ガスを推進剤とするのが最も一般的であるため、多くの場合は単に燃料を推進剤と同一視する。燃料を、酸化剤と「酸化される」燃料とに分ける場合には、推進剤という語をその総称という意味で使うこともある。可能な性能や開発組織の技術力、安全性、コストなど、用途と目的によって燃料と酸化剤の組み合わせを変更する(変更できるエンジンもあるが、普通のエンジンでは変更できない。エンジンの設計を始める計画段階で通常は計算によって選択するものである)。燃料と酸化剤が両方とも液体のロケットは液体(燃料)ロケット、両方とも固体のロケットは固体(燃料)ロケットと呼ばれる。その他の、異なった相の物質の組合せで燃料とするエンジンはハイブリッドロケットと呼ばれる。 液体酸素と液体水素による液体燃料ロケットは、日本のH-IIロケット、欧州のアリアン5やアメリカのスペースシャトルのメインエンジン等で使用されている[1]。固体燃料はM-Vロケット、ペガサスロケットなどのロケットやブースター (ロケット)、RATO、ICBM、ミサイル、RPG等に使われる[2]。 固体燃料ロケット(固体ロケット)は、固体の燃料と酸化剤を混錬してロケット本体に充填した固体燃料を使用するロケットである。単純な固体燃料ロケットは主にケース、ノズル、推進剤、点火器で構成される[3]。液体燃料ロケットとは異なり使用時にはポンプなどの機械部品で燃料を燃焼室に移送することなくロケット内部の燃料へそのまま点火する[4]。 初期の固体ロケットモーターには黒色火薬が用いられた。その後、ニトロセルロースとニトログリセリンを主体とした、黒色火薬より性能のいいダブルベース火薬が登場し、日本軍のロケット兵器ではこれが用いられていた。 第二次世界大戦の後には、コンポジット推進剤と呼ばれる固体燃料が開発された。これはブチルゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン等の合成ゴム系の材料をアルミニウム (Al) などの金属粉、及び酸化剤と混錬したもので、酸化剤としては過マンガン酸カリウムや過塩素酸アンモニウム (ammonium perchlorate, AP) 等が用いられる。ゴムの基剤はそれ自体が燃料となるほか、酸化剤や金属粉の結合剤、および燃料の機械的性質を決定する[5]。過塩素酸アンモニウム等の塩素化合物を酸化剤として使用する場合、燃焼生成物には有毒で発癌性がありオゾン層を破壊し、酸性雨や地球温暖化の原因になる塩素化合物が含まれる。そのため、塩素等のハロゲンを含まない酸化剤の開発も進められている。 液体燃料ロケット(液体ロケット)は、液体の燃料と酸化剤をタンクに貯蔵し、それをエンジンの燃焼室で適切な比率で混合して燃焼することで推力を発生させるロケットである。推進剤は燃焼器内に超臨界状態で噴射される[6]。 固体燃料ロケットより複雑で信頼性に欠けるが、混合させるだけで自己着火するハイパーゴリック推進剤を使ったロケットは比較的単純である。さらに、人工衛星の姿勢制御エンジンなど一部には過酸化水素やヒドラジンのように触媒で分解する推進剤を使用する単純な構造の一液式のものもある。 第二次世界大戦で使用されたV2ロケットは酸化剤として液体酸素 (LOX)、燃料としてエタノール75%と水25%の混合物を使用していた。戦後のミサイルでは、燃料はケロシンやヒドラジン系に置き換わり、酸化剤は液体酸素、四酸化二窒素、硝酸等に置き換わっている。
化学ロケットの推進剤
固体燃料ロケット固体燃料ロケットの模式図詳細は「固体燃料ロケット」を参照
液体燃料ロケット液体燃料ロケット(二液式)の模式図詳細は「液体燃料ロケット」を参照