レーダー
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この項目では、装置のレーダーについて説明しています。その他の用法については「レーダー (曖昧さ回避)」をご覧ください。
船舶用のレーダーのアンテナ

レーダー(英語: radar)とは、電波を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向を測る装置である[1][2]

現在の日本語では通常「レーダー」とカタカナで表記する[3][4][5]。(旧・日本軍では漢字表記を用いていた(#漢字訳参照))
概要レーダーの基本原理。

Radarという単語は定着したアクロニムであり、英語のradio detecting and ranging(電波探知測距) からきている。これはアメリカ人による命名であり、当初イギリスではradio locator(電波標定機)と呼んでいた[6]。その名の通り、電波を発射して遠方にある物体を探知、そこまでの距離と方位を測る装置である。人間の目がみている可視光線よりもはるかに波長が長い電波を使用することから、雲や霧を通して、はるかに遠くの目標を探知することができる[1]

レーダーは様々に分類され、製品タイプによる分類としては パルスレーダー / 連続波レーダー /その他、またプラットフォームによる分類としては 船舶 / 航空 / 地上 / 宇宙と分けられる[7]。アプリケーション(用途)による分類では航空管制 / リモートセンシング / 地上交通管制 / 宇宙での航行・制御、またエンドユーザーによる分類では 自動車 / 航空 / 産業 / 気象観測 / 防衛(つまり軍隊)/ その他 と分けられる[7]

レーダーは送信機アンテナ受信機など、様々なコンポーネントによって構成される[8]。原理的に最も基本的なレーダーはパルスレーダーで、これは原理的には送・受の各アンテナ送信機受信機および指示器から構成されるが、実用機では右図のように送・受アンテナは共用されるのが一般的である[9]。それに対してバイスタティック・レーダーのように、送信機・受信機を大きく離隔して設置するシステムもある。一方、2019年時点で、レーダー業界の最大の収益を占めたのは連続波レーダーであった[7][注 1]

レーダーを保護する外装をレドームと呼ぶ。
構成
送信機

送信機の性能は、送信周波数、送信出力、送信パルス幅、パルス繰返し周波数などの諸元によって決定される[10]

従来のパルスレーダーの場合、送信周波数が低いほうが大気伝搬損失が少なく、大電力化が容易で、良好な受信系雑音指数を得やすいことから最大探知距離を延伸するには有利である。一方、周波数が高いほうが分解能の面では有利である。すなわち、探知距離の延伸と分解能の向上は原則的にはトレードオフの関係にある。ただし、例えばパルス圧縮レーダーでは、探知距離は尖頭出力ではなく平均出力によって、また距離分解能は送信パルス幅ではなく周波数帯域幅によって決定されるほか、角度分解能についても、アンテナや信号処理方式によって克服できるなど、周波数による制約は絶対的なものではなくなりつつある[10]

送信機は、自励発振形と増幅形に分類できる。増幅形は、まず安定した信号を低電力で形成したのち、必要とするだけの大電力まで増幅するものであり、信号処理の柔軟性などに優れている[10]

自励発振管

マグネトロン

多間隔クライストロン(EIO)


増幅管

クライストロン

進行波管(TWT)

交差電力増幅管(CFA)

高電子移動度トランジスタ


アンテナ
リフレクタアンテナ空港監視レーダーのリフレクタアンテナ。二次監視レーダー(上)と一次監視レーダー(下)。

その名の通り、1次放射器(primary feed)から放射された電波を反射鏡(リフレクタ)に当ててビームを成形するものである。マイクロ波の領域で高い利得および狭いビーム幅を得ることができ、しかも、アレイアンテナと比して安価である[11]

アンテナパターンとしてはペンシルビームが多く用いられるが、リフレクタの形状を適切に設定することで、ファンビームやコセカント二乗ビームなどを形成することもできる(成形ビームアンテナ)[11]

パラボラアンテナ

カセグレンアンテナ

成形ビームアンテナ

また1次放射器としては、ホーンアンテナが最も多く用いられるが、Sバンド以下のように低い周波数領域では、反射板付きダイポールアンテナが用いられることも多い[11]
アレイアンテナ詳細は「アレイアンテナ」を参照

複数のアンテナ素子(放射素子)を規則的に配列し、一定の励振条件で給電するアンテナのこと。放射素子の振幅・位相を電気的に制御できることから、アンテナ指向性の制御を容易に行えるという特徴がある。

リニアアレイ(linear array) - 直線状

プレーナアレイ(planer array) - 平面状

サーキュラーアレイ(circular array) - 円形状

コンフォーマルアレイ(conformal array) - 任意形状

様々なアンテナ形式

ボーイング737の気象レーダーのプレーナアレイ・アンテナ。

小型船舶用レーダーのレドーム漁船などにも搭載されている。

フランクフルト空港のレーダーのリニアアレイアンテナ。

イスラエル軍対空捜索レーダーのリフレクタアンテナ。

早期警戒管制機(AWACS)。機体の上部に回転式のレドームを背負っている。

気象レーダーのレドーム(石垣島

レドームの内部(石垣島)

受信機

レーダー装置においては、受信機の性能は基本的に雑音によって決定され、SN比の向上が目標となる[12]

方式としては、スーパーヘテロダイン方式、超再生方式(super regenerative)、直接検波方式(crystal video)があるが、スーパーヘテロダイン方式が大部分を占める[12]

なお受信機・指示器では、下記のクラッターなどの影響を抑えるために下記のような機能をもつ回路を組み込むことがある。
海面反射抑制 (Sensitivity time control, STC) 
近距離からの強い反射波に対して感度を下げ、遠距離になるにつれ感度を上げ、近距離にある物標を探知しやすくする。近距離からの強い反射波がありPPI表示の表示部の中心付近が明るくなりすぎるときに用いる。
雨雪反射抑制 (Fast time control, FTC)
検波後の出力を微分して物標を際立たせる。雨や雪などの反射波によって物標の識別が困難なときに用いる[13]
表示装置詳細は「レーダー・ディスプレイ(英語版)」を参照

レーダーの指示方式は、アナログ信号処理方式、デジタル信号処理表示方式、両者の合成表示方式の3つに大別される[14]ディスプレイは「指示器」や「表示部」とも称され、アナログ表示の時代には、PPIスコープ方式のブラウン管(CRT)が主流であった[15][16]。現代は多くでデジタル方式で、液晶ディスプレイ(LCD)が用いられ[17]、その画面サイズなどの呼び方(「○○インチ」等)も他の機器と変わらない[17]
アナログ表示

アナログビデオの表示は、その画面表示の更新がアンテナの動きおよび電波の発射と同期して行われるため、画像繰り返し速度(リフレッシュレート)が低くなり、CRTの残光性への依存が大きく、明るい場所で画像を見ることが困難になるという問題があった[14]
PPIスコープ
PPIスコープ(Plan Position Indicator scope、Pスコープとも)は、レーダーの位置を基点として、アンテナビームの回転に同期させて放射状に掃引を行なって、受信した信号を表示するものである
[14]。すなわち、レーダーの位置を中心として、レーダーで捉えられた目標が鳥瞰的に表示されることから、(下で説明するAスコープ、Bスコープ、Eスコープなどと比べて)直感的に理解しやすいという大きなメリットがあった[14]。PRIスコープでは、レーダー波の波長が長いと近接した複数の対象物が同一の光点として表示されてしまうため、多数の目標を捕捉する際の分解能を高めるためには、レーダー波長の短波化が必須。[注 2]
Aスコープ
縦軸に受信信号強度、横軸に距離を取って波形を表示するものである(
心電図のようなイメージ)。開発初期から用いられてきたが、現在でも受信信号強度の測定や信号の弁別のためのオシロスコープ表示として用いられている[14]。ある一定距離の目標物にアンテナを向ける場合、アンテナの角度が目標物に近づくにつれ、波形の山が大きくなっていき、方向が完全に一致すると波形が極大値(ピーク)を表示する。Aスコープでは、レーダー送信機のアンテナの方向は別に表示されるため、他方向に多数の対象物が存在する場合、測定結果を一覧できない。[注 3]
Bスコープ
横軸に方位、縦軸に距離を示す方式
[14]。この方式はAスコープでは比較的読み取りが明瞭な波形の強度(ピーク)情報が、PPIスコープに類似した光点の強弱のみで表されるので、正確な読み取りにはやや経験を要する。[注 4]
Eスコープ
PPIスコープやBスコープが水平面の情報を表示するのに対して、垂直面の表示として用いられるのがEスコープである。横軸に距離、縦軸に仰角を表示するものと高さを表示するものがあり、後者はRHI(Range Height Indicator)と称される
[14]

Aスコープの一例。40マイル以内に複数の目標が存在する波形であるが、アンテナを動かし、その角度情報を元に推測をしなければ正確な方角と、二次元的な情報が得られない。

Bスコープの一例

A、B、Eスコープの一例。

PPIスコープ(1980年)

PPIスコープの動作イメージ(イラスト動画)

デジタル表示

レーダービデオをデジタル処理し、更にコンピュータで相関処理、識別処理などを行った結果から、目標のシンボル表示、高さおよび速度の数字表示などを高いリフレッシュレートで表示する方法である[14]。スキャナー(送信アンテナ)が1回転するたびに得られる情報は機器内の記憶装置に貯えられ、1画面ごとに書き換えられる方式を採用しており、それにより様々な機能を表示できる[17]。現代のレーダーの表示画面は、ほとんどがデイライト・タイプ(: daylight type)と呼ばれるものであり、通常の昼間光のもとでも見られるようになっている[17]

トルコの船舶 Tamer Kiranのレーダー画面(2007年)。日本無線製。

ワシントン大学の調査船の操舵室のレーダーモニター(2008年)。古野電気製。

現代の船舶で一般的なナビゲーションシステムのレーダー表示(2006年)

強襲揚陸艦タラワ」の航空管制用レーダーの画面(2007年)

1990年代の、空港の航空交通管制レーダーの画面

航空交通管制レーダーモニター(2013年ワシントン・ダレス国際空港


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