レントゲン写真
[Wikipedia|▼Menu]

「レントゲン」はこの項目へ転送されています。その他の用法については「レントゲン (曖昧さ回避)」をご覧ください。
アルベルト・フォン・ケリカーの手のX線写真。この画像は透視によるものであるためフィルムに写した場合と白黒濃度は逆になっている。動きを見る透視画像を行うときは2008年現在もこのような白黒反転した画像を見ることはある。

X線撮影(エックスせんさつえい)は、エックス線を目的の物質に照射し、透過したエックス線を写真乾板写真フィルム・イメージングプレート・フラットパネルディテクターなどの検出器で可視化することで、内部の様子を知る画像検査法の一種である。

医療のほか、空港の手荷物検査などの非破壊検査に利用されている。X線の発見者であるヴィルヘルム・レントゲンに因み、レントゲン撮影または単にレントゲンとも呼ぶ。医療従事者は X‐ray Photograph を略して X-P ともいう。
目次

1 原理

2 X線撮影装置の開発

3 医療分野での利用

4 頭部所見

5 胸部X線写真

5.1 胸部単純X線写真の読影手順

5.2 重要な所見

5.2.1 心陰影

5.2.2 胸部所見



6 腹部X線写真

6.1 腹部単純X線写真の読影手順

6.2 重要な所見


7 脊椎のX線撮影

7.1 頚椎X線撮影

7.2 腰椎X線撮影

7.3 骨密度測定DXA(dual-energy X-ray absorptiometry、躯幹骨二重X線吸収法)


8 関節のX線写真

8.1 ASBCD

8.2 各論

8.2.1 関節リウマチ

8.2.2 変形性関節症

8.2.3 乾癬性関節炎

8.2.4 痛風

8.2.5 偽痛風



9 外傷のX線写真

10 胸部X線CT

10.1 肺のCT解剖学

10.2 肺のびまん性病変

10.3 肺の腫瘤性病変

10.4 縦隔CT

10.4.1 体腔の連続性

10.4.2 リンパ節の評価


10.5 血管のCT評価


11 腹部X線CT

11.1 肝臓のCT解剖学

11.2 腹部血管のCT解剖学


12 X線撮影による医原病

13 医療分野以外での利用

14 出典

15 参考文献

16 関連項目

17 外部リンク

原理

最も一般的に知られているX線撮影では、X線照射装置とフィルムの間に体を置き、焼き付けて画像化する。X線は感光板を黒く変色させるため、体がX線を通過させた部分では黒く写り、体がX線を阻止した場合には、その部分が白く写る。通常の診療では、前者の黒く写った部分を「明るい」、後者の白い部分を「暗い」と表現するが、これはすなわち、肺炎や腫瘍などでは、X線透過度が低くなってフィルムに白い影を落とすところからきた表現である。X線の透過度が高い組織としては皮膚や空気()、筋肉軟骨などがある。逆にX線の透過度が低いものとしてはや、組織をより明瞭に描き出すために入れる造影剤がある。

感光剤を塗りつけたフィルムの代わりにIP(イメージングプレート)やFPD(フラットパネルディテクター)を使う、CR(コンピューテッドラジオグラフィー)が今は主流である[1]。またフィルムレスのX線写真も、大病院をはじめ普及しつつある。コンピュータX線撮影の項も参照。
X線撮影装置の開発

世界で最初のX線撮影装置はドイツのシーメンス社が開発に成功し1898年、日本に輸入されている。日本でも1909年に初の国産機を第三高等学校教授で理学博士の村岡範為馳(はんいち)が島津製作所の全面協力で開発に成功している。『ダイアナ』と『ニューオーロラ』の2機種は現在でも島津創業記念資料館に保存されており、実用的な安定性を誇っていた。
医療分野での利用

レントゲンがX線を発見して以来、医療分野では、主に骨や肺の病変を描き出す画像診断として積極的に利用されてきた。主な利用法として以下のようなものがある。
骨折・骨病変の診断
レントゲンは骨病変の診断に最も有効であり、現在でも骨折の診断には最も有用な検査方法の一つである。特に頭部・頚部や四肢の骨折で有用性が高い。また骨粗鬆症骨塩定量にも用いられる。
歯科的診断
も骨と同じく硬組織であり、歯科診療の領域では頻繁に利用される。
胸部X線
Chest X-ray(CXR)と呼ばれ、肺癌肺炎結核胸水気胸をはじめとし、非常に多くの肺病変の診断に利用されている。
腹部X線
Abdominal X-ray(AXR)(臥位では flat plate)は、腸閉塞腹水、腹腔内、胆石尿路結石の空気の様子を診断するのに利用される。
造影X線写真
X線を通さない造影剤(バリウムなど)を経口・経静脈的に投与したのちに撮影することで、普通は描出されない消化管や血管の様子をも描出できる。造影剤を使わないX線写真は、造影X線写真に対して単純X線写真と呼ぶ。「消化管造影検査」も参照
透視
X線を連続的に照射し、テレビモニタを通じて映像を観察する。被曝量は多くなるが、病変によっては診断や治療に必要となる。

X線撮影に比べMRICTのほうが画像の有用性が高い場合もあるが、X線撮影は簡便性や経済性に優れており、現在でも検診など大部分の診療施設で用いられている。救急では、CTは従来は撮影時間が長かったが、ヘリカルスキャン、MDCTの登場で撮影時間が減り、単純X線写真の割合は減ってきている。また、放射光X線を用いたCTでは非常に細かい部分まで分かるので顕微鏡的な画像が期待されている[1]。また、X線撮影装置は小型化する事も可能であり[2]、可搬型のX線撮影装置により患者をX線撮影室に連れて行かずに居室でX線撮影したり、また往診時に装置を携帯して在宅の患者をX線撮影する事も可能である。
頭部所見
塩胡椒
頭蓋骨に細かく粒径の不ぞろいな粒々が見えること。

病態 - 異所性石灰化による

鑑別 -
腎性骨異栄養症

打ち抜き像
多発性骨髄腫参照
胸部X線写真 成人男性の胸部X線写真(413kB)

胸部X線写真では、心臓肋骨縦隔気管気管支、等が見える。
胸部単純X線写真の読影手順
撮影条件の評価
まず撮影姿勢が立位、坐位、
仰臥位のいずれであるか、またポータブル撮影かどうかを把握しておく。撮影姿勢と背面から撮影、前面から撮影の相違により心陰影が過剰に評価されるおそれがあり、立位背面からの撮影以外での心胸郭比測定は参考値としておく。次に斜位撮影になっていないのかを調べる。これは左右の鎖骨胸骨端が椎体突起から等距離であれば斜位になっていないと判断することができる。斜位撮影のデメリットとしては、気管変位が読めない、右傍気管線が比較できない、心胸郭比が測定できない、肺野陰影の大きさが比較できないといったことが挙げられる。肋骨横隔膜角の評価が可能かを調べる。これは少量の胸水の把握ができるかどうかを調べるためのものである。熟練した医師ならば打診で胸水量の測定が可能であるといわれている。打診で胸水の変化をとらえそれが重要であると判断したら、胸部X線で証拠を残すべきである。放射線の線量が適切であるかを評価する。これは中央陰影すなわち心陰影を通じて椎間板が見える条件ならばよい。また椎間板の見え具合と肺野血管陰影の追跡しやすさはほぼ並行しているといわれている。正常ならば肺動脈陰影は胸壁から2cm以内には見えないといわれておりこれも一つの指標となる。深吸気時に撮影されているのかを評価する。これは指標がなく、経過から予測するしかない。呼気撮影では心臓の拡大、肺門部陰影の拡大、肺野の透過性の低下が問題となる。特に下肺野の透過性の低下は病的な状態と鑑別が困難である。
軟部組織の評価
軟部組織は肺野陰影に大きな影響を与える。特に乳房の陰影は分かりづらい。乳房切除などがされていると明らかな左右差があるように見えることもある。衣服、長い毛髪も判断を狂わせやすい。また軟部組織の異所性石灰化も注意が必要である。
骨の評価
骨と骨に重なる病変の違いを鑑別する。これは所見を知っていないとできない。骨折、石灰化、骨浸潤といったものが骨の所見である。また肋軟骨の石灰化など非特異的な所見も数多くある。また肺は膨張するのでその大きさの評価も骨を用いて行う。正常では右横隔膜の高さは後方第10肋間である。また毛髪線の位置は正常ならば前方第3肋間下縁である。
縦隔の評価
気管の変位はないのかを調べる。高齢者で動脈硬化があると下方気管がやや右に変位することは多いが、通常認めた場合は甲状腺腫大など縦隔疾患を疑う。右傍気管線が5mmを超えた場合は異常である。多くは傍気管リンパ節の腫大である。
心臓の評価
最も重要な所見は心胸郭比であり、これが心不全の指標となる。それ以外の所見をとる場合は心臓、大血管の走行も想定しないとなかなか読めない。心陰影の形は正常か、心臓の辺縁は追跡可能か、心陰影を通じて下行動脈が見えるのかを調べる。特に気を付けるのは中央陰影内に透亮像がないかである。肺野異常影の見落としのほとんどは心陰影に重なるものであるからである。
横隔膜の評価
正常者の横隔膜の位置は後方第10肋間である。肝臓があるため右側横隔膜は左側横隔膜よりも高く見える。左側横隔膜より右側横隔膜が高かったり、右側横隔膜が左側横隔膜より半椎体以上高かったりする場合は精査を必要とする。疑うのは肺疾患と横隔膜疾患である。横隔膜と胃泡の距離が1cm以上の場合も精査が必要となる。これはCTをすればスクリーニングできる。
肺門の評価
右肺門とは中心静脈と中幹肺動脈の中点であり、左肺門とは左肺動脈上縁と左主気管支の上縁の中点である。正常では左肺門部が右肺門部より高い位置にある。肺門部の異常は鑑別が難しいので疑ったらすぐにCTをするべきである。特に肺動脈の拡張と肺門リンパ節の腫脹はよく似ている。また肺門と重なる肺野の病変ということもある。
肺野の評価
無気肺、肺胞性陰影、間質性陰影のパターンを理解することが大切である。

肺胞性陰影間質性陰影
分布区域性、多発性びまん性、撒布性
既存構造との関係細葉、区域に一致気管支、血管、リンパ管、小葉間隔壁に一致
辺縁不明瞭明瞭
融合性ありなし
変化早い遅い

側面の評価
心臓の前面が右室であり後面が左室である。正常では心臓後縁、下大静脈の後縁を超えない。また側面像では弁の石灰化の評価も行いやすい。僧帽弁狭窄症では心臓のかなり後方に石灰化を認め、大動脈弁狭窄症ではより前方に石灰化が認められる。大動脈弁閉鎖不全症は先天的二尖弁やリウマチ熱などでも起こりえるが日本の場合はほとんど65歳?75歳頃に生じる加齢性の石灰化によるものである。僧帽弁狭窄症も加齢性石灰化または僧帽弁閉鎖不全症の末に起こることが知られている。僧帽弁閉鎖不全症は左室拡張による弁輪の拡大や虚血による乳頭筋の障害や肥大型心筋症の過収縮、僧帽弁逸脱症候群によって起こることが知られている。
重要な所見
心陰影

心陰影(しんいんえい)は、心臓のX線写真像の事である。通常はPA像(後前像)で評価する。経過を見るだけならば、臥床しかできない患者ではAP像(前後像)を用いる場合もある。 成人男性の胸部X線写真 上の画像に着色した例(111kB)。緑:気管支透亮像、赤:心陰影の輪郭(左第2弓と第3弓はこの例では不明瞭なため強調して描いてある)、青:肺野の血管(番号は肺区域)

心陰影の上側(頭側)は縦隔と連続していて、境界ははっきりしない。下側(尾側)は横隔膜と連続していてはっきりしない。右側は2つの膨らみからなり、上から順に右第1弓(みぎだいいっきゅう)、右第2弓(みぎだいにきゅう)という。左側は4つの膨らみからなり、上から順に左第1弓(ひだりだいいっきゅう)、左第2弓(ひだりだいにきゅう)、左第3弓(ひだりだいさんきゅう)、左第4弓(ひだりだいよんきゅう)という。
右第1弓
正常では上大静脈が写っている影である。すぐ内側を上行大動脈が走行しており、動脈硬化や高血圧の患者では右方の
右第2弓
正常では右心房が写っている影である。右心不全など右房が拡大する疾患では突出が認められる。右室拡大でも右房を右方に偏位させるため突出する。左房拡大が著明な僧帽弁疾患では右房の内側に左房辺縁が観察されることがある。これをdouble shadowという。
左第1弓
正常では大動脈弓が写っている影である。高齢者、動脈硬化、高血圧で拡大する。大動脈の石灰化と第1弓がずれていた場合は大動脈解離の可能性がある。大動脈の石灰化は内膜に生じるため、外壁に石灰化があるほうが真腔である。また大動脈狭窄症の場合は狭窄後拡張によって左第1弓の拡大が見られる場合もある。
左第2弓
正常では肺動脈本幹、および左肺動脈による影である。肺動脈が拡張する疾患では拡大する。具体的には左→右シャントのある心房中隔欠損症心室中隔欠損症、肺動脈狭窄症、肺高血圧が存在すると拡大する。逆に肺血流が低下する疾患、例えば完全大血管転位症(V型)やファロー四徴症では左第2弓の消失、平坦化が認められる。
左第3弓
正常では左心耳による影である。左房の拡大で膨隆する。正常ではほとんど弓として認められない。心房細動などの基礎疾患がある場合は確認できることがある。
左第4弓
正常では左室による影である。左室拡大が存在する病態では突出が認められる。左室拡大では左下方に垂れ下がるように拡大する。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:96 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef