ル・シッド(フランス語: Le Cid)は、ジュール・マスネの作曲したオペラ。「シッド」とも表記される。ピエール・コルネイユの同名の戯曲を原作とし、脚本はルイ・ガレ(英語版)、エドゥアール・ブロー(Edouard Blau)、アドルフ・デヌリ(Adolphe d'Ennery)による。 1877年初演の「ラオールの王」(Le Roi de Lahore
作品
この作品のもととなったロドリーゴ・ディアス・デ・ビバール(「エル・シッド」El Cid)の物語はオペラの題材として高い人気があり、ジェイムズ・ハーディング(英語版)によれば、マスネはこの題材を扱った史上27人目の作曲家だった[2]。ガレとブローは1873年前後にも同じ題材に基づく「ドン・ロドリーグ Don Rodrigue」と題した脚本をジョルジュ・ビゼーのために提供していたが、この作品は未完に終わり、彼らはその一部をマスネのための脚本に転用している[3]。
1885年11月30日にオペラ座で初演された作品は成功を収め、1919年にはオペラ座での150回目の公演を迎えたが、その後、主に配役の難しさによって取り上げられる機会は減っている[1]。ロドリーグ役の経験があるプラシド・ドミンゴは、「正しく演じられれば非常に大きな劇的可能性を持つ」としながらも、「上演には対価が大きく、また非常に難しい作品」という[4]。
初演を評したヴィクトル・ヴィルデル(Victor Wilder)はグランド・オペラ特有の効果や鋭い対比を操るマスネの技量を評価している[5]が、グランド・オペラの様式に則ったマスネの作品はこれが最後となった。これについて新グローヴオペラ事典は「この台本のスケールをとらえるのに十分な才能が」マスネにあったとし、作品の優れた部分を挙げつつも、英雄的な声の歌手やグランド・オペラ的な大仕掛けよりも「もっと身近な題材を扱うほうが、明らかに彼の性に合っていた」と述べる[1]。 『新グローヴオペラ事典』[1]と1885年刊のヴォーカルスコア[6]を参照した。 人物名原名声域説明
配役
ロドリーグ(ル・シッド)Rodrigue (Le Cid)"Premier Tenor"
シメーヌChimeneソプラノ・ドラマティコ
王女L'infanteソプラノ
ドン・ディエーグDon Diegue"Premiere Basse"ロドリーグの父
王Le Roi"Premier Baryton"
ゴルマ伯爵Le Conte de Gormans"Premiere Basse chantante"シメーヌの父
聖ジャック(聖ヤコブ)St. Jacquesバリトン
ムーア人の使者L'envoye Maure"Basse chantante"もしくはバリトン
ドン・アリアスDon Ariasテノール
ドン・アロンゾDon Alonzoバス
合唱:紳士淑女たち、司教と神父・僧侶たち、兵士たち、民衆
バレエ団
物語初演時のロドリーグの衣装のスケッチ。Ludovic-Napoleon Lepic
『新グローヴオペラ事典』[1]と『オペラ名曲百科』[7]を参照した。
舞台は11世紀のスペイン。フランス・オペラには珍しい、型通りのソナタ形式による序曲がおかれている。 ゴルマ伯爵の館のサロン。ムーア人を退却させた英雄であるロドリーグが騎士の称号を与えられることに決まり、式典の準備が進んでいる。シメーヌが登場し、ロドリーグを愛していることを父親のゴルマ伯爵に伝えて祝福される。王女が現れ、彼女もロドリーグを愛しているが身分違いのために身を引き、シメーヌを祝福する(「疑いをわたしの心のなかにとどめておいてください」Mets la main sur mon coeur)。 王宮へ通じる回廊と大聖堂の入口。王はロドリーグを騎士に任じることを民衆の前で宣言し、ロドリーグは授かった剣を手に喜びを歌う(「高貴なる輝く剣よ」O noble lame etincelante)。続けて王は、ドン・ディエーグを皇太子の近衛隊長に任じることを発表する。自分が選ばれるものだと考えていたゴルマ伯爵は憤慨し、ドン・ディエーグを侮辱する。ドン・ディエーグは復讐を誓い、ロドリーグにゴルマ伯爵への報復を託す。恋人の父親と戦わなければならないことにロドリーグは苦しむ。 夜。伯爵の家の近く、ブルゴスの路上。思い悩みながらも伯爵家を訪ねたロドリーグは伯爵と決闘し、相手を殺す。ドン・ディエーグは復讐が果たされたことを喜ぶが、ロドリーグは後悔している。駆けつけてきたシメーヌは、ロドリーグの様子から彼が父を殺したことを察する。 ブルゴスの王宮の前の広場。民衆は踊りながら春の訪れを喜び、王女を賛美する。シメーヌが駆け込んできて、父を殺したロドリーグへの裁きを王へ乞う。ドン・ディエーグは自分が身代わりに罰せられようとし、場は混乱に陥るが、そこに伝令が現れ、ムーア人からの再びの宣戦布告を伝える。ロドリーグは、裁きは戦いの後にし、敵を倒すために出陣させてほしいと願い出る。 夜、シメーヌの部屋。悲運を嘆くシメーヌ(「わたしの目よ、涙を流しなさい」Pleurez, pleurez, mes yeux)。そこへ別れを告げにロドリーグが現れる。シメーヌは怒りで応えるが、変わらぬ愛を伝えるロドリーグに、彼女は恨みの気持ちと愛情の間で混乱していく。 ロドリーグの陣営。歌い騒ぐ兵士のもとにロドリーグが現れ、兵士たちの覚悟を改めて問う。 ロドリーグのテントの中。ロドリーグは勝利を祈る(「君主よ、神よ、父よ」O souverain, o juge, o pere)。そこへ光とともに聖ジャックの姿が現れ、願いが聞き届けられ、戦いは勝利に終わると啓示を下す。 再びロドリーグの陣営。朝、兵士たちは戦いに向けて奮い立っている。勝利を確信したロドリーグが出陣していく。 グラナダの王宮の広場。ロドリーグが戦死したとの報を聞き、ドン・ディエーグとシメーヌは嘆き悲しむ(「息子は死んでしまった」Ainsi, mon fils est mort!)。しかし、ロドリーグが生還したと王が告げ、二人は喜ぶ。 グラナダの王宮の中庭。勝利を収めたロドリーグは歓呼の声に迎えられる。改めて裁きを乞うロドリーグに、王はシメーヌ自らが裁くことを命じる。ためらうシメーヌを見てロドリーグは自裁しようとするが、シメーヌはロドリーグを許し、彼を愛していることを告白する。結ばれた二人は一同に祝福される。 第2幕第2場冒頭のバレエ音楽は、単独の管弦楽曲としてよく取り上げられる。ロシタ・マウリ
第1幕
第1場
第2場
第2幕
第1場
第2場
第3幕
第1場第3幕第1場、シメーヌとロドリーグの対話。イリュストラシオン紙に掲載された初演の記録
第2場
第3場
第4場
第4幕
第1場
第2場
バレエ音楽
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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