リンガラ語
Lingala
話される国コンゴ民主共和国、コンゴ共和国
地域アフリカ中部
話者数母語話者200万人 第二言語話者1000万人
言語系統ニジェール・コンゴ語族
大西洋・コンゴ諸語
ボルタ・コンゴ諸語
リンガラ語(リンガラご、Lingala)は、コンゴで用いられるバントゥー語族の言語である。コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、アンゴラ、中央アフリカ共和国に分布し、話者の人口は1000万強である。コンゴ川中流域において広く話され、コンゴ民主共和国の首都キンシャサの共通語もリンガラ語である[1]。19世紀後半にヨーロッパ列強がこの地方に進出し、交易が盛んになるとともにリングワ・フランカとして誕生し、ベルギー領コンゴ時代に布教や交易、軍隊用語として定着した。クレオール言語であり、ヨーロッパ諸語からの借用語も多い。特に両コンゴにおいて、共通語として広く使われ、リンガラ語によるテレビやラジオ、新聞が多く発行されている。またスークース(リンガラ音楽)と呼ばれるリンガラ語によるポップミュージックがキンシャサを中心に1970年代以降さかんになり、コンゴのみならずアフリカ各国に影響を与えた[2]。別名にバンガラ(語)(Bangala, bangala)があるが、これは特定の地域で話されている方言の一種を指したり(参照: #方言)、リンガラ語の話者を指したりする場合がある[3]。しかし、バンガラという名称は特定の民族集団を指すわけではない[3]。
歴史コンゴ民主共和国の河川および都市の図
リンガラ語の形成過程について明確に説明した記録は残されていない[4]。コンゴ川流域では様々なバントゥー語[注 1]が話されており、それらが今日のリンガラ語のもとになったと見られているが、その中でも特にボバンギ語(Bobangi)がリンガラ語と文法がほぼ同じで、リンガラ語にある語彙の半数が見られるなど、リンガラ語形成に及ぼした影響が強いと見られている[5]。リンガラ語とボバンギ語の関係について論じた文献はいくつか見られるが、Bokamba (2009) によると、まず Whitehead (1899) はボバンギ語とリンガラ語との間に多数の同系語が認められる点を根拠に、ボバンギ語からリンガラ語が生じてウバンギ川(Ubangi)沿岸部のコンゴの交易人たちの間の通商語となり、やがてコンゴ川伝いにコンゴ民主共和国北東部のキサンガニ(Kisangani)まで爆発的に広まった、とする見方に立っている。Bokamba はホワイトヘッドと同様の見方は Guthrie (1935)、Bwantsa-Kafungu (1970, 1972)、Bokula (1983) など、他の数々の研究者たちもとってきたものであるとしている。Mumbanza (1973) はこれとは裏腹にリンガラ語の母体となった河岸部の言語はいくつも存在し[注 2]、ボバンギ語はその一つであったに過ぎないと主張している[4]。Samarin (1982; 1985; 1990/1991) はリンガラ語はボバンギ語からのピジンの形で19世紀後期の中央アフリカ植民地化の時期にリングワ・フランカとして発達し、またボバンギ語自体も植民地化よりも前の時点においてはカサイ川(Kasai)とコンゴ川の合流点を起点として通商語として用いられていたと主張している[4]。
その後、リンガラ語は布教活動を展開しようとしたキリスト教の宣教師たち、特にマンカンザを拠点としたスヘウト派(仏: scheutistes)のデ・ブーク(De Boeck)の手により、周辺で話されていた言語の構造を参考とした文法や語彙の整備が行われた[6]。このような経緯により成立したリンガラ語は学校リンガラ語(仏: lingala scolaire)、文語リンガラ語(仏: lingala litteraire)もしくは古典リンガラ語(仏: lingala classique)と呼ばれている[6]。 カトリック教会が布教のために用いた文語が標準語となっている。また両コンゴの首都では他のバントゥー語に大きく影響されたキンシャサ方言、ブラザヴィル方言が存在する。また、コンゴ民主共和国北東部のウエレ川 コンゴ民主共和国においては1991年時点(当時はザイール)で一説によれば250もの様々な部族語が話されていたこともあり[7]、部族間での意思疎通を行うためには共通語が必要となる事情がある。中南部ではルバ語(Luba)、東部ではスワヒリ語、西部ではコンゴ語(Kongo)、そして北西部ではリンガラ語が地域共通語として互いに拮抗し、国を四分する構図となってきた[7]。このような事情もあり、コンゴ民主共和国の「国語」(仏: langues nationales; 英: national languages)は4言語それぞれの使用を推し進めようとする人々の努力にもかかわらず、政治的な問題や部族主義的な利害関係の問題もあり、統一はされてこなかった[7]。ただ1991年以前の段階において、由来が特定の部族に限定されるものではないリンガラ語やスワヒリ語が、他の2言語よりも優勢となる傾向が見られた[7]。 リンガラ語は政府関係書類、教育文書、法廷記録でも使用されており、地域の住民にとっては日常生活を送る上で決して無視することができない存在である[8]。またコンゴ民主共和国においては軍隊用語として使用される時期が長く続いた[2]。 1976年に Societe Zairoise des Linguistes が制定した正書法では広いエ,オを表すのにIPAにある ? と ? の字を用いるとされるが、印刷やキーボードの都合で ?、? も狭いエ、オと同じく e、o と書くのが主流になっている。 前後 上表のような7母音の体系をなす。これはバントゥー祖語以来受け継がれてきた特徴であるが、コンゴ地域には他にも5母音体系のコンゴ語やルバ語話者がおり、彼らの言語の影響によりリンガラ語の7母音体系は揺らいできている[6]。キンシャサ方言では ?、? が e、o と区別されない傾向がある。文法書の一つである Meeuwis (1998) も先述の7つの母音があるとしながらも、表記の上では基本的に ?、? と e、o を区別していない。
方言
共通語として
文字と発音
子音
b [b]
c またはsh [?]
d [d]
f [f]
g [g]
h [h]
k [k]
l [l]
m [m]
n [n]
ny [?]
p [p]
r [r]
s [s]
t [t]
v [v]
w [w]
y [j]
z [z][注 3]
母音
狭[i][u]
半狭[e][o]
半広[?][?]
広[a]
?、? と e、o は同じ単語に並存しない
a、e、i、o、u のように '?' のついている字は高く発音する
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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