『リボー・デコニュ(Libeaus Desconus)』[2][注 1]は、14世紀に成立した中英語の詩文体によるガングラン(『名無しの美丈夫』)伝説で、アーサー王伝説に属類する。トマス・チェスター(英語版)(『ローンファル卿』他)の作によるものと同定されている[3][4]。おおよそ2,200 行(稿本に拠る[5][6])[4]。
おおよそ同じの粗筋をたどる類話にルノー・ド・ボージュー作の古フランス語詩『名無しの美丈夫またはガングラン』(古フランス語: Li biaus descouneus、フランス語: Le Bel Inconnu、12世紀末?13世紀初、6,266 行)があり、その別バージョン[4]あるいは翻案とされるが[7]、同作と比較してより短い。
いずれの作品にも、自らの素性も名も知らぬ青年がアーサー王の宮廷にあらわれ、その騎士に加わろうと願い出て「名無しの美丈夫」(現代フランス語: Le Bel Inconnu; 現代英語: Fair Unknown)という綽名を得るが、そのじつガウェイン卿と妖精のあいだに生まれた息子で、ガングランという名であった。宮廷では「スノードンの婦人/女王」[注 2]の救出依頼を引き受けて出立するが、旅路では他の冒険にかかわり黄金島ではまたは「アモール婦人」を援ける[注 3][注 4]。ついには王都スノードンに向かい、その君主である淑女を囚えているマボン兄弟ら黒魔術師を倒し、竜蛇の姿に変えられた彼女の接吻を受けて人間の女性の姿に戻す。そしてリボー・デコニュはその女王と結婚する。
中世文学における他言語の類話にはヴィルント・フォン・グラフェンベルク(英語版)作の『ヴィーガーロイス』(1204?1209年頃)や、イタリア語の叙事詩『カルドゥイノ』がある。
クレティアン・ド・トロワ作『ペルスヴァル』を手本に書き換えた作品をもとに英語化されたものではないか、という説がある[8]。このペルスヴァル以外にも、マロリー版『アーサー王の死』に収録される「ボーマン(美しい手)」こと「ガレス卿の物語」や「ラ・コー ト・マル・タイユの物語」(『散文トリスタン』より取材)[注 5]などが、似たようなモチーフ展開の対比文学として挙げられている[9]。 『リボー・デコニュ (Libeaus Desconus)』の稿本は以下の写本にみつかる:[6][10]
写本
C 本 大英図書館蔵 Cotton Caligula A. ii 写本、15世紀中葉
L 本 ランベス宮殿 Lambeth Palace 蔵 第306 写本、15世紀中葉
I 本 Lincoln's Inn 図書館蔵 Hale 150写本、14世紀末/15世紀初頭
A 本 ボドリアン図書館蔵 Ashmole 61写本、15世紀末
N 本 ナポリ国立図書館
P 本 大英図書館蔵 Additional 27879写本、いわゆる Percy Folio(パーシー二つ折り本)、繊維紙、17世紀
その残存する稿本の数からして、『リボー・デコニュ』は、中英語で書かれたアーサー王伝説ロマンスのなかでももっとも人気を博したものと思われる[11]。 以下、人物の統一表記をおおまかに試みる[注 6]。
主要人物
「リボー・デコニュ(中英語: Libeaus desconus)」 - 主人公。母親から「美しき息子」という意味の「ボーフィス」(Beaufiz/Bewfi?;Beaufis)と呼ばれていた[12]。
アーサー王から「リボー・デコニュ」の綽名(フランス語)を賜るが、「名無しの美[童]」("te faire unknowe" C, v. 83; 現代英語:The Fair Unknown)の意味であると作中でも説明される[15][注 7]。