リプレイ_(TRPG)
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リプレイは、主にテーブルトークRPG (TRPG) などのゲームを実際に遊び、その経緯をなんらかの媒体に記録したものである。

ボードゲームコンピューターゲームなどのプレイ記録も「リプレイ」と呼ばれるが(リプレイ (ゲーム) を参照)、この項目では主にテーブルトークRPGのリプレイについて解説する。

テーブルトークRPGのリプレイ作品は後述するような「戯曲形式で書かれた文章作品」が最もポピュラーであるものの、表現の仕方に定まった形体はない。ゲームで語られた物語を小説やコミックで表現したものや、実際のプレイの様子を録音し記録したCD、プレイ風景を再現した創作動画なども「リプレイ」と呼ばれる作品として存在している。
概要

テーブルトークRPGの直接的な先祖でもあるウォー・シミュレーションゲームでは、プレイの様子を文章化した記事がゲーム雑誌などに掲載されており、ゲームを遊ぶだけでなく「読んで楽しむ」という需要は古来から洋の東西を問わず存在していた。欧米諸国においては、テーブルトークRPGのプレイ結果を物語として小説に書き下ろす方が一般的である(ドラゴンランス戦記など)。

転じて日本国内においては『ロードス島戦記』に代表されるような、プレイ内容を実況形式で追記したものがよりポピュラーであり、こうしたリプレイの出版物がテーブルトークRPGを牽引する一要素となっている。本来リプレイの目的は実際のプレイ風景を実況・解説することにあるが、一方では純粋なる読み物としても受容されており、必ずしも一言一句、プレイ風景を忠実に書き起こしたものではない。商品として出版する際には、冗長な部分を削り、描写や演出を修正・加筆し、読ませる物語にするための工夫が欠かせない。出演するキャラクターやそのプレイヤーが人気を博すこともあり、遊ばれているゲームそのものを知らないファンがつき、ライトノベルの変種として消費される傾向もある。

個人レベルにおいても、リプレイは楽しかったゲームセッションを記録し追想する、また他者とその楽しさを共有する手段として執筆されている。こうした効用を積極的に認めて推奨し、リプレイを執筆した参加者には追加の経験点が与えられるといった特典を定めているゲームシステムも存在する[注 1]

商業ベースのリプレイが発行される媒体は文庫本が主流である。文庫本で発行されているリプレイは、テーブルトークRPG専門の文庫レーベルから発行されるものと、ライトノベルのレーベルで発行されているものに二分される。また、テーブルトークRPGの専門雑誌でもリプレイが掲載されることが多い。パソコンゲーム雑誌やライトノベル雑誌などでもリプレイが掲載されることがある。数は少ないが新書単行本、B5判やA4判と言った大判の書籍で発行されるリプレイもある。インターネットが普及した近年ではテーブルトークRPGの出版社やメーカーが提供するウェブページ上でリプレイが掲載される例も増えている。
リプレイの例

以下に、戯曲形式で描かれたリプレイの一例を示す。GM : さて、君たちは過酷な冒険の果てに、ようやく鬼岩城の最深部、大魔術師ザラックがいる儀式の間にまでたどりついた。トーマス : ようやくここまで来たか。しかし、さっきの戦闘で俺もうボロボロだよ。ゴードン : それはみんな同じですよ。でも、ここまで来たらGMに負けてはいられないからね。必ずザラックとの戦いには勝たないといけません。ザラックに言い放ちます。「ザラック、おまえの悪行もそこまでだ! 年貢の納め時だぞ!」


彼ら冒険者たちはここにたどり着くまでの四天王との戦いですでにかなりのダメージを負っていた。これはGMにとっても予想外のことだったが、ここで手加減するようでは逆にプレイヤーたちに失礼だ。GMは心を鬼にしてプレイヤーたちを挑発する。


GM : たいした自信だなゴードン。じゃあザラックは君たちを見て不敵に笑うことにしよう。「フン、ようやく余のもとまでたどり着けたか小童どもめ。だがそのような満身創痍の状態で余に勝てると思っているのか」 そういいながらザラックは火球の魔法を放つ! 対象は隊列上で一番前にいるエミリーだ。魔法の命中判定は24です。エミリー : ええっ!? なんだよそれは! 仕方ない。魔法の回避判定を行います。・・・25! 危なかったがギリギリ避けられた。よし、それでは俺は精一杯に虚勢を張りながらもザラックに言い放つぞ。「自慢の大魔術の力というのもその程度なの? 私みたいな小娘1人を倒せないようなら、あなたの恐怖神話もあながち信用できないわね」トーマス : エミリー、さすがにそれは調子にのりすぎじゃないか?(笑)GM : 挑発には乗ってあげようか。ザラックは怒りに顔を真っ赤にして叫ぶ。「よかろう! ならば、チリ一つ残さないまま消滅させてくれるわ、冒険者ども!」 さぁ、ここからが本番だぞ!

上記において、トーマス、ゴードン、エミリーはプレイヤーキャラクター名となる。名前に続く文章がそのプレイヤーキャラクターを演じているプレイヤーの発言である。なお、「GM」はゲームマスターの略称である。また、上記の例では女性キャラクターであるエミリーを動かしているプレイヤーは男性であると仮定している。

実際のテーブルトークRPGのプレイの場では、キャラクターとしての口調までも「演技」されないことも多い。役者のように演技をしなくても、そのキャラクターらしい行動宣言をするだけで架空のキャラクターのロールプレイが他者に伝えられることが多々あるからである。特に、性別や年齢がプレイヤーと異なるキャラクターを演ずる場合は口調の演技を求めることは困難な場合もある。しかし、文章だけで構成されるリプレイでは表現力が制限され、たとえば、プレイヤーがキャラクターらしい行動宣言をしている場面を文章化しただけでは架空のキャラクターの存在感を強めることはできない。そのため、リプレイでは読み物的な観点から、ゲーム中のプレイヤーの発言のうち、キャラクターの発言だと捉えられる部分を「そのキャラクターらしい口調」へと改める場合もある。上記の例だと、エミリーは実際のリプレイでは女言葉での演技などは全く行っておらず、それをリプレイ執筆時に「キャラクター発言に類する場所は女性らしい口調に変える」という編集が行われた可能性も考えられる。このような編集の是非については後述する。

また、上記のリプレイでは、プレイヤーの発言のうち「キャラクターの台詞」として喋ったものにはカギカッコがつけられて、“キャラクターとしての台詞”と“プレイヤーとしての素の発言”が明確に区別されている。しかし、リプレイの中にはあえてここを曖昧にして、あたかも架空のキャラクターが自分自身の冒険を語っているかのような文体で描くものも数多く存在している。このような文体の具体例として、上記リプレイのエミリーの発言部分を以下のように変更する。エミリー : ええーっ!? なによそれ! 仕方ないわね。魔法の回避判定を行うわね。・・・25! はぁ、危なかったけどギリギリ避けれたわ。でも、自慢の大魔術の力というのもその程度なのかしら? 私みたいな小娘1人を倒せないようなら、あなたの恐怖神話もあながち信用できないわね!

プレイヤーとキャラクターの発言の境界を曖昧にしたために、エミリーの“プレイヤーとしての発言”がキャラクターの口調である女性的なものになっているが、これは実際にエミリーのプレイヤーが常に女言葉でゲームをするということではなく、リプレイを執筆する段階で口調を編集するのが一般的である。
歴史
黎明期

テーブルトークRPGにおけるリプレイのもっとも原始的な形態は、ゲームを購入したユーザーに対してルールをわかりやすく解説するために、ルールブック上に書かれたものである。これはボードゲームウォー・シミュレーションゲームマニュアルに書かれている「プレイの例」に端を発するものである。ルールブック上で掲載されるリプレイには、ルーンクエストのルールブックにコラムの形式で随所に挿入されている「コルマックサーガ」に代表されるように、戯曲形式ではなくプレイレポートのような形式で書かれるものも多い。ルールブックのチュートリアルとしてのリプレイに戯曲形式の記述をはじめに取り入れた作品が何だったのかについては定かではない。なお、ルール解説用に書かれるリプレイのほとんどはプレイの様子のごく一部を切り取ったものである(例えば、戦闘に関するルールの解説ならば、戦闘シーンのみをリプレイとして記述する)[注 2]。さらに、これらルール解説としてのリプレイは実際にプレイされた記録ではなく、架空のプレイ風景を書き下ろしていることもある。これらのことから見ても、ルールブック上でルール解説用に書かれるリプレイは、同じ戯曲形式であっても娯楽用に単行本として発売されるリプレイとは書き方が全く異なっていると言える。

日本語の商業メディア上に書かれた戯曲形式のリプレイで最初に確認できるものは、1982年5月に発行されたタクテクス誌第3号の「冒険のシミュレーション・シミュレーションの冒険」という記事だとされる[1]。これは当時はまだ日本ではマイナーであったテーブルトークRPGをウォー・シミュレーションゲーマーに紹介することを目的とした記事であり、ここに「放浪の騎士エルツリグナーの冒険」というタイトルでごく短いものではあったが戯曲形式のリプレイが掲載された[2]。著者は高梨俊一である。ただしこれはあくまでテーブルトークRPGのプレイの雰囲気を紹介するために書かれたもので、ゲームのプレイ風景のごく一部を切り取ったもの過ぎず、娯楽的な要素も全く持っていないものであった。使われているゲームシステムが何かも書かれていない。

1984年11月に発行された『タクテクス』誌18号では、『トラベラー』の日本語版が発売されたことに合わせて大きな特集が組まれた。このとき、巻頭で29ページにわたって「小宮山康宏」の名義による『トラベラー』のリプレイ「トラベラーをアドベンチャーする」が掲載された。日本においてテーブルトークRPGの1回のゲームプレイの様子をセッションの最初から最後まで詳細に表記したリプレイは、商業ベースで発表された中ではこれが元祖となる。当時、TRPGの遊び方や面白さを伝える方法について悩んでいた安田均は、とあるセッションの参加者の女性がプレイの様子を録音し、持ち帰って書き起こすと語るのを聞いて、戯曲形式の読み物に仕立てることを閃いたという[3]。リプレイの主執筆者はレフリーを務めた佐脇洋平で、プレイヤーとして参加した安田が修正を行っている。読者からの反響は非常に大きかったが、結局『タクテクス』でそれ以上のリプレイ展開が行われることはなかった[3]

「娯楽性のある読み物」であることを意識したリプレイの元祖は、1985年6月に発行された『シミュレイター』誌新1号の「ローズ・トゥ・ロードリプレイ『七つの祭壇』」である[1]。著者は藤浪智之である。1回のゲームプレイを最初から最後まで収録しており、ルールの解説のためでなく一つの物語を読者に楽しませるために書かれた当作は、豊富なイラストやプレイヤーキャラクターたちの個性を生かしたテキストも相まって、当時の読者たちに大きな印象を与えた。後にリプレイ作家となる菊池たけしはこのリプレイに衝撃を受けて、テーブルトークRPGをプレイするようになり、さらにはリプレイ作家を志すようになったと語っている[4]


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