ランベルトのW関数
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W(x) のグラフの W > −4 および x < 6 の部分。W ≥ ?1 なる上の枝を主枝 W0 と言い、W ≤ ?1 なる下側の分枝を W−1 という。

ランベルトのW函数(ランベルトのWかんすう、: Lambert W function)あるいはオメガ函数 (ω function)、対数積(product logarithm; 乗積対数)は、函数 f(z) = zez の逆関係分枝として得られる函数 W の総称である。ここで、ez は指数函数、z は任意の複素数とする。すなわち、W は z = f−1(zez) = W(zez) を満たす。

上記の方程式で、z' = zez と置きかえれば、任意の複素数 z' に対する W 函数(一般には W 関係)の定義方程式 z ′ = W ( z ′ ) e W ( z ′ ) {\displaystyle z'=W(z')e^{W(z')}}

を得る。

函数 ? は単射ではないから、関係 W は(0 を除いて)多価である。仮に実数値の W に注意を制限するとすれば、複素変数 z は実変数 x に取り換えられ、関係の定義域は区間 x ? −1/e に限られ、また開区間 (−1/e, 0) 上で二価の函数になる。さらに制約条件として W ? −1 を追加すれば一価函数 W0(x) が定義されて、W0(0) = 0 および W0(−1/e) = −1 を得る。それと同時に、下側の枝は W ? −1 であって、W−1(x) と書かれる。これは W−1(−1/e) = −1 から W−1(−0) = −∞ まで単調減少する。

ランベルト W 関係は初等函数では表すことができない[1]。ランベルト W は組合せ論において有用で、例えばの数え上げに用いられる。指数函数を含む様々な方程式(例えばプランク分布ボーズ–アインシュタイン分布フェルミ–ディラック分布などの最大値)を解くのに用いられ、またy'(t) = ay(t − 1) のような遅延微分方程式(英語版) の解としても生じる。生化学において、また特に酵素動力学において、ミカエリス–メンテン動力学の経時動力学解析に対する閉じた形の解はランベルト W 函数によって記述される。複素数平面におけるランベルト W 函数の主枝。負の実軸に沿った分岐切断は −1/e を端点に持つ。この図では、点 z における色相を W の偏角で、輝度を W の絶対値で決定している。
用語について二つの主枝 W0, W−1

ランベルト W-函数はヨハン・ハインリヒ・ランベルトに因んで名づけられた。Digital Library of Mathematical Functions では主枝 W0 を Wp, 分枝 W−1 は Wm と書いている。ここでの表記の規約(つまり W0, W−1)はランベルト W に関する標準的な参考文献Corless et al. (1996)[2]に従った。
歴史

ランベルトは初め「ランベルトの超越方程式」に関連して1758年に考察した[3]。これはレオンハルト・オイラーの1783年の wew の特別な場合を論じた論文[4]に繋がる。

ランベルト W-函数は、特殊化された応用において、十年程度毎に「再発見」されてきた[要出典]。1993年には、等電荷に対する量子力学的二重井戸型ディラックデルタ函数モデル(英語版)(物理学における基本問題)の厳密解をランベルト W-函数が与えることが報告されたとき、コーレスら計算機代数システムMapleの開発者たちはライブラリを精査して、この函数が自然界に遍く存在することを発見した[2][5]
微分積分学
導函数

陰函数微分法により、W の任意の枝が常微分方程式 z ( 1 + W ) d W d z = W ( z ≠ − 1 / e ) {\displaystyle z(1+W){\frac {dW}{dz}}=W\quad (z\neq -1/e)}

を満たすことが示せる(z = −1/e では W は微分できない)。従って、W の導函数は d W d z = W ( z ) z ( 1 + W ( z ) ) ( z ∉ { 0 , − 1 / e } ) {\displaystyle {\frac {dW}{dz}}={\frac {W(z)}{z(1+W(z))}}\quad (z\notin \{0,-1/e\})}

を満たす。ここで恒等式 eW(z) = z/W(z) を用いるならば、 d W d z = 1 z + e W ( z ) ( z ≠ − 1 / e ) {\displaystyle {\frac {dW}{dz}}={\frac {1}{z+e^{W(z)}}}\quad (z\neq -1/e)}

と書きなおすこともできる。
原始函数

函数 W(x)(およびそれを含む多くの式)は、w = W(x), (x = wew) と置いた置換積分によって ∫ W ( x ) d x = x W ( x ) − x + e W ( x ) + C = x ( W ( x ) − 1 + 1 W ( x ) ) + C . {\displaystyle {\begin{aligned}\int W(x){\mathit {dx}}&=xW(x)-x+e^{W(x)}+C\\&=x\left(W(x)-1+{\frac {1}{W(x)}}\right)+C.\\\end{aligned}}}

と積分できる。

したがって、(W(e) = 1 であることも考慮して)等式 ∫ 0 e W ( x ) d x = e − 1 {\displaystyle \int _{0}^{e}W(x)\,{\mathit {dx}}=e-1}

が得られる。
漸近展開

W0 の 0 を中心とするテイラー級数は、逆に解いて(英語版) W 0 ( x ) = ∑ n = 1 ∞ ( − n ) n − 1 n !   x n = x − x 2 + 3 2 x 3 − 8 3 x 4 + 125 24 x 5 − ⋯ {\displaystyle W_{0}(x)=\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {(-n)^{n-1}}{n!}}\ x^{n}=x-x^{2}+{\frac {3}{2}}x^{3}-{\frac {8}{3}}x^{4}+{\frac {125}{24}}x^{5}-\cdots }

ダランベールの収束判定法によると、収束半径は .mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄e である。この級数の定める函数は、区間 (−∞, −1/e]に沿って分岐切断(英語版)を入れれば、ガウス平面の全域で定義される正則函数に延長することができる。この正則函数をランベルト W 函数の主値と定める。

x が十分大きければ、W0 は漸近的に W 0 ( x ) = L 1 − L 2 + L 2 L 1 + L 2 ( − 2 + L 2 ) 2 L 1 2 + L 2 ( 6 − 9 L 2 + 2 L 2 2 ) 6 L 1 3 + L 2 ( − 12 + 36 L 2 − 22 L 2 2 + 3 L 2 3 ) 12 L 1 4 + ⋯ = L 1 − L 2 + ∑ ℓ = 0 ∞ ∑ m = 1 ∞ ( − 1 ) ℓ [ ℓ + m ℓ + 1 ] m ! L 1 − ℓ − m L 2 m = ln ⁡ ( x ) − ln ⁡ ( ln ⁡ ( x ) ) + o ( 1 ) {\displaystyle {\begin{aligned}W_{0}(x)&=L_{1}-L_{2}+{\frac {L_{2}}{L_{1}}}+{\frac {L_{2}(-2+L_{2})}{2L_{1}^{2}}}\\&\qquad \qquad +{\frac {L_{2}(6-9L_{2}+2L_{2}^{2})}{6L_{1}^{3}}}+{\frac {L_{2}(-12+36L_{2}-22L_{2}^{2}+3L_{2}^{3})}{12L_{1}^{4}}}+\cdots \\[8pt]&=L_{1}-L_{2}+\sum _{\ell =0}^{\infty }\sum _{m=1}^{\infty }{\frac {(-1)^{\ell }\left[{\ell +m \atop \ell +1}\right]}{m!}}L_{1}^{-\ell -m}L_{2}^{m}\\&=\ln(x)-\ln(\ln(x))+o(1)\end{aligned}}}


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