ランドナー
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ランドナー(フランス語: Randonneur、Randonneuse[1]、ランドヌーズ)は、フランス発祥の自転車旅行用自転車。フランス語の「ランドネ」(小旅行)に由来する[2]
欧米におけるランドナー

フランスではランドナーはランドヌーズという[3]。650Bなど特有の太いホイールサイズが採用されている[3]。このような太いホイールサイズが採用された理由はフランスにはパーヴェと呼ばれる石畳の道路が多く溝にはまってしまうことを防ぐ必要があったためである[4]

もともとランドナーは、ブルベという超長距離サイクリング・イベントに使われる自転車であった。これはスポルティーフに近い車種であり、当時のフランスの道路事情に合わせて、限られた時間内に規定のコースを走り切るという用途で作られていた。

フランスでは洒脱なデザインのランドナーが多く制作された[3]。タイヤのほかハンドルバー、ブレーキシステム、ダイナモなどの備品に至るまで特徴的なデザインのものが多い[4]
日本におけるランドナー
日本への紹介

日本への紹介は、第二次世界大戦後に、鳥山新一が持ち込んだルネ・エルス: Rene Herse)の自転車が起源とされる。これを手本に研究が進められ、丸都自転車(現・東叡社)などのハンドメイド工房で作られ始めたのが日本版ランドナーの始まりである[要出典]。当初、ランドナーはスポルティーフとともにフランス系のツーリング車として認知され、これが日本の制作者達の職人気質を刺激して、日本独自のランドナーの形へと発展していった。
ランドナーの普及

日本では、当初イギリス式のクラブモデルがツーリングの用途に用いられていた。これは平地での高速移動を念頭に置いた設計であり、日本のような険しい山岳地帯が多い環境には不向きであった。また、当時は道路の舗装率も低かったなどの事情から、ギア比がワイドレシオ化され、かつ、太いタイヤを装着したランドナーがツーリング用に好まれるようになった。

日本では、1970年代から1980年代前半のいわゆる「サイクリングブーム」が後押しとなって、ランドナーが急速に普及し、かつては大手自転車メーカーからも各種のランドナーが販売され、現在より多く雑誌の広告を占めていた。ブリヂストンサイクル「ダイヤモンド(アトランティス)」・「ユーラシア」「トラベゾーン」、ミヤタ自転車「エディ・メルクス」「ジュネス」「ル・マン」、日米富士自転車の富士オリンピック「ニューエスト」・「ファイネスト」、パナソニック「ラ・スコルサ」、片倉自転車「シルク」、丸石自転車「エンペラー」、山口自転車(当時「丸紅山口」)「ベニックス」といった車種が有名であった。また、この時期には多くのサイクル・ショップ(プロ・ショップ)といわれる自転車店でも、ランドナーのオーダーやセミオーダーを受注するようになり、メーカー車に飽き足らない多くのユーザーが、こうした独自のランドナーを入手するようになった。

ランドナーの多くは、フロントバッグおよびサドルバッグ程度の荷物を積載することのできる「小旅行車」であったが、例えば大学サイクリング部の合宿や、いわゆる日本一周などの長距離サイクリングの際には、パニアバッグや前後のサイドバッグ、加えてキャリア上にもテント等を積載するなどの方法で重装備に対応した。ランドナーを改造する例が多かったが、キャンピング車として、重装備・長距離走行を前提にした専用の車種もオーダーされたほか、一時は大手自転車メーカーの製品も市場に出回っていた(ブリヂストンサイクル「ダイヤモンド・キャンピング」など)

さらに1970年代後半頃から、一般的な峠越えや林道だけでなく、自動車の走行困難な山道などを走行したり、さらには自転車を担いだりもする山岳サイクリングが盛んになると、ランドナーを改造したパスハンターも登場した。代表的なものは、ランドナーのドロップハンドルをオールラウンダー・バーなどフラットハンドルに付け替え、キャリアやマッドガード、トウクリップを外すなど、山岳の走破に対応していた(この場合、荷物はザックで背負い、足下はトレッキングシューズなどで固めることになる)[注 1]。パスハンターは、MTBが一般化するまでの間、山岳志向のサイクリストの間でランドナーの改造やオーダーなどによって愛用されたほか、神田にあった自転車店「スポーツサイクル・アルプス」(現在廃業)からは「クライマー」として販売もされていた。
ランドナーの衰退

日本のランドナーは、おおよそ1980年代後半まで隆盛を極めたが、それ以降は、悪路や山道走行に特化したMTBと、一般道路の整備に伴い普及したロードバイクに両極化し、ランドナーは急激に衰退した。日本の自転車ツーリングのあり方が変化したこと(荷物を積載して悪路や林道などを含む長距離を走行するツーリングから、自家用車や公共交通機関に自転車を積載する[注 2]などしてスポット的に楽しむ方向)や、いわゆる「サイクリングブーム」の終焉などもあり、主要メーカーが市販していたランドナーはそのほとんどが姿を消した。

その後、近年[いつ?]になって、かつて学生時代にランドナーでサイクリングした40歳代後半から50歳代を中心に、再度ランドナーを入手する例も増え、メディアで取り上げられる機会もこともある[注 3]。しかし、ツーリング用自転車をランドナーとして完成車の形で販売しているメーカーは、丸石自転車(エンペラーの名称で販売を継続)や、アラヤなど数社のみとなったため、ランドナーの入手はハンドメイド工房などにオーダーされることが多い。

ただし、自転車をオーダーメイドとして依頼することは専門知識が必要であると思われることもあり、ツーリングの目的では、ランドナーの代わりに、近代的なクロスバイクシクロクロスが使われるようにもなっている。また、サスペンションを装備するマウンテンバイクをツーリングに用いることも多い。ロードバイクなどを主に販売をしているメーカーからは、FUJIルイガノなどが、「ツーリング」の名称でランドナーに相当する車種を販売している。
構成
タイヤ

ホイールには、650A(26in×1 3/8)または 650B の規格を用いることが多い。ランドナーは旅行用途であることから荷物積載量が比較的多いことや、日本では、舗装道路が少ない時代に発展したという時代背景から、やや径が小さく太目の車輪が採用され、初期には650×42Bが好まれた。タイヤ幅は32 - 44mm程であり、空気圧は300 - 600kPa程度とされる。舗装路、砂利などの未舗装路や山道など、オールラウンドな走行が可能なうえ、緊急時には軽快車のタイヤも使える[注 4]。そのため、入手が容易であることが最大のメリットである。タイヤが太くなると重量が増える傾向にあるが、比較的軽量なオープンサイドのWO(ワイヤードオン)タイアもあり、また650AタイヤにはMTBのようなブロックパターンのパスハンティング用も存在する。

現行製品では、リジダ(650B リム)、ユッチンソン(650B タイヤ&チューブ)、ミシュラン(650B タイヤ&チューブ)、日本国内ではアラヤ(650A リム)、パナレーサー(650A・650B タイヤ&チューブ)などが有名である。

最近[いつ?]になって、実用的なランドナーとして、26インチHE(フックドエッジ)規格のホイールを使う例も現れた。マウンテンバイクが世界中に普及したことにより、世界一周用のキャンピング車には現在では26インチHE規格のホイールを使うことが標準となっている。一方で、現在 650Bのタイヤは、相当大きな自転車店でも在庫していることが少なく、旅先では非常に入手困難であることから、メーカーが新規にツーリング用自転車を企画製作する場合は、26インチHEやロードバイク用の700Cなどの規格を採用することが多くなった。
泥除け

主に、軽量なアルミ合金製の泥除けが装備される。メーカー車では、保守上の理由から表面にアルマイト加工したものが主であるが、一部のマニアは未加工のものを布バフで磨き上げた「ミガキもの」(バフ仕上げ)を好んで使用することもある。後輪の泥除けは、輪行を考慮して、分割式[注 5]になっていることも多い。デザインは一般的な半丸型、亀甲型、パオン型などが存在する。
キャリア

ランドナーやスポルティーフといったフランス系ツーリング車の特徴として、フロントキャリアおよび一部リアキャリアの装備があげられる。これはフロントバッグやサドルバッグなどを装備するためのものである。またフロントキャリアに電装品を装備する場合もある。フレームへの取り付けの多くはエンドに設けられたダボにネジ止めされるが、カンチブレーキの台座に固定するタイプもある。

サイドキャリアまで補えば、4つのサイドにバッグを装備することが可能となる。サイドキャリアは、前輪または後輪の両脇にサイドバッグを固定するためのキャリアであり、方形の金属枠がその特徴となる。日本では、現在、日東ハンドル製作所のキャンピーや、VIVAの製品などが有名である。
電装品

長距離の旅行に使われるため、夜間走行を考慮して、ヘッドランプテールランプリフレクターダイナモ発電機)を装備する。これと併用してバッテリーランプや近年ではLED式のランプを利用することが多い。

外装のダイナモを用いる場合はシートステーに装備されることが多く、ヘッドランプへの電線をフレームやキャリアのチューブの内側に通したり、前フォークが回転するヘッド小物に電気ブラシを内蔵させて電線を隠蔽する意匠を電線内装という。構造の都合から自転車を分解して輪行する用途には向かないと言われていたが、電気ブラシ(カーボン・ブラシと呼称)の改良により、フォーク部分の引き抜きや再装着に障害が起きないものが開発されて輪行に対応している。


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