ランチェスターの法則
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ランチェスターの法則(ランチェスターのほうそく、:Lanchester's laws)は戦争における戦闘員の減少度合いを数理モデルにもとづいて記述した法則。一次法則と二次法則があり、前者は剣や弓矢で戦う古典的な戦闘に関する法則、後者は小銃マシンガンといった兵器を利用した近代戦を記述する法則である佐藤84(p72-74)。

これらの法則は1914年にフレデリック・ランチェスターが自身の著作L1916で発表したもので、原著ではこれらの法則を元に近代戦における空軍力の重要性を説いている。この論文は今日でいうオペレーションズ・リサーチの嚆矢となった佐藤84(p72-74)。

ランチェスターの法則は実際の戦争においても確認されており、例えばJ.H.エンゲルE1954は二次法則に従って硫黄島の戦いを解析することにより、わずかな誤差でこの法則が成り立つことを確認している佐藤84(p184-185)。

古典的な戦闘と近代的な戦闘で従う法則に違いが生じるのは、剣や弓矢による古典的な戦闘では個々の味方が個々の敵を相手とする一騎討ちを基本とした局地戦になるのに対し、小銃やマシンガンを利用した近代的な戦闘では集団的な行動をとる味方が、乱射により不特定の敵を確率的に殺していくものだからである佐藤84(p72-74)。

古典的な戦闘の場合には、個々人による一騎討ちの寄せ集めであるので、戦争による戦闘員の消耗は単純に味方の人数と敵の人数の一次式になる(一次法則)。それに対し近代的な戦闘の場合、戦闘員の消耗は味方の人数と敵の人数の2次式(双曲線)になることが示せる(二次法則)。よって古典的な戦闘とは消耗する人数が大きく異なり、近代的な戦闘では古典的な戦闘と比べ、人数が多い方の軍隊が大幅に有利になる(後述)。

なお、戦後になってからランチェスターの法則を導出した数理モデルは経営学にも一部応用されており、フォルクスワーゲンのセールス戦略をこれにより説明するなどがされている(後述)佐藤84(p188-200)。経営コンサルタントの田岡信夫は自身の研究を踏まえてこれを易しく解説した本を書いており佐藤84(p200)、日本では「ランチェスター経営戦略」と呼ばれている。
概要
法則の記述
一次法則

時刻tにおける自軍、敵軍の人数をそれぞれxt、ytとすると、一次法則は x t α − y t β {\displaystyle {x_{t} \over \alpha }-{y_{t} \over \beta }}

が、戦闘がはじまってからの経過時間tによらず一定であるという法則である佐藤84(p77)。ここでα、βはそれぞれ敵軍、自軍における兵器や戦闘員の能力を表す定数である佐藤84(p75)。(なお自軍、敵軍とも戦闘の途中で戦闘員を追加することはないものとする)。
二次法則

それに対し二次法則は x t 2 α − y t 2 β {\displaystyle {x_{t}{}^{2} \over \alpha }-{y_{t}{}^{2} \over \beta }}

が、tによらず一定であるという法則である佐藤84(p81)。ここで記号の意味は一次法則の場合と同様である。
戦闘終了時における生存人数

自軍が勝つとした場合、戦闘終了時刻t1には敵の生存人数 y t 1 {\displaystyle y_{t_{1}}} が y t 1 = 0 {\displaystyle y_{t_{1}}=0} であることを用いると、t1における自軍の生存人数 x t 1 {\displaystyle x_{t_{1}}} をランチェスターの法則から計算することができる佐藤84(p77, 83): x t 1 = x 0 − E y 0 {\displaystyle x_{t_{1}}=x_{0}-Ey_{0}} (一次法則の場合) x t 1 = x 0 2 − E y 0 2 {\displaystyle x_{t_{1}}={\sqrt {x_{0}{}^{2}-Ey_{0}{}^{2}}}}   (二次法則の場合)

ここで x 0 {\displaystyle x_{0}} 、 y 0 {\displaystyle y_{0}} は戦闘開始時刻t=0における自軍の人数と敵軍の人数であり、 E := α β {\displaystyle E:={\alpha \over \beta }}

である。Eを自軍に対する敵軍の交換比という佐藤84(p76, 83)。

E=1である場合、一次法則における戦闘終了時における生存人数は戦闘開始時の両軍の人数の差により決まるのに対し、二次法則の場合の生存人数は戦闘開始時の両軍の人数の自乗の差によって決まることになる。二次法則では戦闘開始時の人数が自乗で効いてくるため、一次法則に比べ、人数の多いほうが大幅に有利になる。
具体例

例えば x 0 = 1000 {\displaystyle x_{0}=1000} 、 y 0 = 600 {\displaystyle y_{0}=600} であれば、(E=1とすると)一次法則の場合、 1000 − 600 = 400 {\displaystyle 1000-600=400} (人)

しか生き残らないのに対し、二次法則であれば、 1000 2 − 600 2 = 800 {\displaystyle {\sqrt {1000^{2}-600^{2}}}=800} (人)

と二倍の人数が生き残ることになり、二次法則では一次法則に比べ、人数の多い軍が大幅に有利になることが確かめられる。
法則の導出
仮定

一次法則、二次法則を導出するに際し、話を単純化するため、以下を仮定する:

同じ軍に属する戦闘員の各人の資質・戦闘力はすべて等しい
佐藤84(p74,79)

戦闘には軍の全員が関わる佐藤84(p74,79)

戦闘は時間的に一様である。すなわち戦闘の激しさは戦闘終了までのどの時刻でも一定である佐藤84(p74,79)

両軍の人数は非常に大きく、両軍の人数は時間微分できると近似しても問題ない佐藤84(p75)

一次法則の導出

剣などの武器で戦う古典的な戦闘では、味方の一人が敵の一人を狙い撃つスタイルなので、 Δ t {\displaystyle \Delta t} の時間内の自軍、敵軍の兵の減少数 Δ x {\displaystyle \Delta x} 、 Δ y {\displaystyle \Delta y} は、それぞれ敵の兵士の持つ武器の性能に比例するとしてよいであろう佐藤84(p74)。すなわち Δ x = − α Δ t {\displaystyle \Delta x=-\alpha \Delta t} Δ y = − β Δ t {\displaystyle \Delta y=-\beta \Delta t}

である。ここでβ、αはそれぞれ自軍、敵軍の武器の性能を表す定数である佐藤84(p74)。

よって両軍の人数は近似的に微分方程式 d x d t = − α {\displaystyle {\mathrm {d} x \over \mathrm {d} t}=-\alpha } d y d t = − β {\displaystyle {\mathrm {d} y \over \mathrm {d} t}=-\beta }

によって記述できる佐藤84(p74)。この微分方程式を解くことで一次法則を導くことができる。
二次法則の導出

近代戦では両軍とも戦場の一点に兵力を集中し佐藤84(p79)、戦闘は集団的に行われるので佐藤84(p79)、一次法則と違い、 Δ x {\displaystyle \Delta x} 、 Δ y {\displaystyle \Delta y} は、武器の性能β、αだけではなく、敵軍の人数にも比例するであろう佐藤84(p79)。すなわち Δ x = − α y Δ t {\displaystyle \Delta x=-\alpha y\Delta t} Δ y = − β x Δ t {\displaystyle \Delta y=-\beta x\Delta t}


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