ラム酒
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ラム酒が陳列された棚(一部異なった酒類がある)

ラム酒(ラムしゅ)またはラム(英語: rum、フランス語: rhum、スペイン語: ron)とは、サトウキビ廃糖蜜または絞り汁を原料として作られる蒸留酒である[1]。サトウキビに含まれるショ糖酵母アルコール発酵させてエタノールに変えた後、蒸留、熟成することで作られる。西インド諸島が原産地と考えられている。

英語では単にラム rumというが、日本語ではrとlの区別がなく、仔羊の肉を意味する「ラム」: lamb)などとカタカナ表記が同一になってしまい紛らわしいので、混同を招かないよう「ラム酒」という言い方も一般的である(当記事名も同様の理由で、また項目名の衝突を避けるためにも「ラム酒」となった)。なお、1928年の文献では「糖酒[2]」という表記も見られる。以下、本文中では短く「ラム」と表記する。
概要

一般的なラム(インダストリアル・ラム)は砂糖を製造する際の副産物である廃糖蜜(モラセス)のみをアルコール発酵原料として使用する。蒸留酒の熟成に関しては、オークの木樽に入れて樽香を付けながら熟成されることが多いが、焼酎ではステンレスのタンク熟成であり、伝統的なものでは熟成なども一般的で、必ずしも木樽を使うわけではない。また、ガラス瓶に詰めた後でも熟成は進む。

ラムはアルコール飲料としてそのまま飲まれたり、カクテルのベース酒として用いられる以外にも、ケーキタルトなど焼き菓子の風味づけにも多用され、レーズンをラムに漬け込んだ「ラムレーズン」の形で用いられることも多い。ブランデー同様に、香り付けとして紅茶に少量加えることもある。また、アンゴスチュラ・ビターズのように、ラムに他の成分を浸出させたリキュールの製造原料としても用いられる。
「ラム」という名の由来

「ラム」という名前の由来についてはいくつかの説があり、そのいずれであるかは定かではない。

蒸留酒を呑んだバルバドス島原住民が酔って騒いでいる様子を見たイギリス人が rumbullion (デボンシャー方言で「興奮」の意)と表現し、その語頭を取ったという説。由来として有力だとされる。rumbullionはバルバドス島のクレオール方言のピジン言語であり、その語源はラテン語セビーリャ方言の「茎」(rheu)と英語の(bullion)もしくはフランス語の「煮るもの」(bouillon)の合成語という説もある[3]

一説にはラテン語(※)で糖類を意味する「saccharum サカラム」の最後のrumからきているともいわれる[4]
(※ 正確に言うとラテン語の中でもNew Latin(近代ラテン語。ルネサンス期以降のラテン語)のほうである)。
歴史

ラムの発祥には以下のような説があり、定かとはなっていないがカリブ海のどこかの島が原産ではあるようだ(カリブ海の海賊たちの物語の中に登場する酒と言えばラムである)。いずれにせよ、遅くとも17世紀にはラムが存在していたものと考えられている。

バルバドス島説 - 17世紀にバルバドス島に移住してきたイギリス人がサトウキビに目を付け製造した。

プエルトリコ島説 - 16世紀初頭、プエルトリコに渡ったスペインの探検家フアン・ポンセ・デ・レオンの一隊の中に蒸留技術を持った隊員がいて、ラムを生み出した。

ラムの原材料はサトウキビであるが、ラム発祥の地とされるカリブ海の島々にはサトウキビは自生していない。1492年クリストファー・コロンブスによるヨーロッパ人のアメリカ海域への到着以降にヨーロッパ人がこの海域に南アジア原産のサトウキビを持ち込んだところ、気候が合ったため、カリブ海の島々はサトウキビの一大生産地となった。ラムが組み込まれた三角貿易の図

その後、ジャマイカを中心に砂糖プランテーションが拡大するとともに、砂糖精製の副産物であるモラセス(廃糖蜜)から作られるラムの蒸留業も盛んになっていった。これには砂糖・銃・奴隷の三角貿易も強い影響を与えている。即ち、西インド諸島でモラセスを船に積み込みアメリカに運ぶ。アメリカでラムを製造し船でアフリカへ運ぶ。アフリカではラムが黒人の購入代金となり、黒人は奴隷として西インド諸島へ運ばれサトウキビ栽培の労働力となる。この循環は奴隷貿易が廃止される1808年まで続いた。

海賊船においては、船長は長い航海への不安や戦闘や捕虜になる恐れなどから乗組員のストレスを和らげ、いざというときに部下を鼓舞するための強壮剤としてラム酒の予備を取っておいた[5]。海賊は酒を好む者が多く、陸にいる時は酒浸りという者も少なくはなかった[6]。ある大酒飲みの海賊は、ワインの大樽を道において通行人に飲むことを強要し、断ればピストルで脅した[6]

1740年、イギリス海軍は士気を鼓舞したり、娯楽のために水兵にラムを支給した。一部には「当時の軍艦の動力である蒸気機関のボイラー室のような火を扱う場所で働く者が、高い室温に負けないようにするためにラムを飲ませていた」などと書かれている本もある[7](ただし、イギリス海軍が本格的に蒸気機関を採用したのは帆走戦列艦をスクリュー汽走戦列艦に改装したエイジャックス号で、100年以上あとの1846年のことである)。この水兵へのラムの支給は1970年まで続いた。このことから、いくつかのエピソードや伝説(後述)も産まれ、ラムは航海や海の男のイメージを強くしていった。@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .mod-gallery{width:100%!important}}.mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:.3em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left;margin-right:1em}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .gallery{line-height:1.35em}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div *,.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div *{overflow:visible}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox img{background:none!important}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images .thumb img{outline:solid #eaecf0 1px;border:none}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg .thumb{background:#fff!important}

イギリス海軍でのラムの支給。(1914年第一次世界大戦時)

支給するためのラムの備蓄

イギリス海軍でのラムの支給(1940年第二次世界大戦時、キングジョージ5世号

イギリス軍でのラム酒の支給(1940年)

20世紀第二次世界大戦までのアメリカではジンが人気であったが、大戦によってイギリスからジンを輸入することが困難になったことで、ラムの人気が高まった。第二次世界大戦後もラムの需要は減ることがなく、カクテルのベース(基酒)としての役割が高まっていき、アメリカから世界へとラムの人気は広がっていった。1970年代にはウォッカと共に国際的な酒としての地位を固めていった。

イギリスの『サンデー・ミラー(英語版)』紙によると、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの大ブームのおかげで、イギリスではラムが飛ぶように売れ、バーでもモヒートピニャ・コラーダマイタイキューバ・リブレといったラムベースのカクテルが好んで飲まれ、3作目となる『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』が公開された2007年のダーク・ラム消費量は前年比31%増という数字を叩き出し、イギリスのテスコではゴールデンラムの売上が前年比65%増になったという[8]
種類、分類

ラムには色による分類と、香りの強さによる分類と、原料別製法による分類が有る。
色による分類
いずれも
カクテルのベースにも用いられるが、カクテルによってはいずれかの種類のラムを指定されることもある。例えばブルー・ハワイは青い色合いが重要なのでホワイト・ラムが指定され、ゴールド・ラムやダーク・ラムを用いることは少ない。


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