ラミニン(英: laminin)は、細胞外マトリックスの基底膜を構成する巨大なタンパク質である。多細胞体制・組織構築とその維持、細胞接着、細胞移動、細胞増殖を促進し、がん細胞と関係が深い。胚発生の初期(2細胞期)に発現する[1]。図1. ラミニンのドメイン構造。ローマ数字はドメイン番号 基底膜の構成分子は、今では、IV型コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニンが3大構成分子であることがわかっているが、歴史的にみると、なかなかわからなかった。というのは、形態学的な手法(光学顕微鏡と電子顕微鏡)で、基底膜の存在は確認されていたが、組織中の含有量が少なく、酵素活性の指標もなく、薄膜のため形状を指標に精製することが難しかったのである。そのため、生化学的に分析できるほどの量を単離精製することができなかった。 1977年、米国・NIHの国立歯科・頭蓋顔面研究所のジョージ・マーチン(G. R. Martin)らが端緒をつかんだ。マウス皮下に移植可能なEHS肉腫(イーエイチエスと読む。Engelbreth-Holm-Swarm sarcoma)が、大量に基底膜成分を合成する珍しい肉腫であることを見つけたのだ[2]。マウス1匹あたり、湿重量で5?15gのEHS肉腫が得られる。後でわかることだが、ラミニン精製のためなら、凍結保存もできた。 1979年、ドイツのマックス・プランク生化学研究所のルパート・ティンプル(Rupert Timpl [3])は、マーチンと共同で、このEHS肉腫から新しいタンパク質を精製し、基底膜の1つの層・ベーサルラミナ (basal lamina、基底板) の「lamina」にちなみ、ラミニン(laminin)と命名した[4]。 なお、基底膜(basement membrane
発見
ベーサル・ラミナ(基底板)は、さらに、電子顕微鏡で観察される透明板(lamina lucida、ラミナ・ルシダ)と、緻密板(lamina densa、ラミナ・デンサ)の2層からできていて、ラミニンは透明板の領域に存在すると推定される。なお、IV型コラーゲンとプロテオグリカンは緻密板の領域に存在すると推定される。 図1に示すように、ラミニンはα鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造をとる。ラミニン‐111(マウスEHS肉腫由来のラミニン)は、分子量440kDaのα1鎖、220kDaのβ1鎖、205kDaのγ1鎖の3つのポリペプチド鎖がS-S結合(ジスルフィド結合)で1:1:1に会合した巨大な糖タンパク質である。約15%の糖、約30%のαヘリックス、約15%のβシートを含む。 1981年、スイスのユーゲン・エンゲル(Jurgen Engel 1987年、米国・NIHの国立歯科・頭蓋顔面研究所の山田吉彦(ヨシ・ヤマダ)らが組換えDNA技術をもちいてラミニンβ鎖とγ鎖のcDNA塩基配列を解明し、タンパク質の一次構造を決定した[6][7]。翌1988年にα鎖のcDNA塩基配列も解明し、現在のラミニン-111の全一次構造を決定した[8]。 1980年、フィブロネクチンで研究されたのと全く同じ手法で、マーチンはラミニンに細胞接着活性を見出した[9]。興味深いことに、フィブロネクチンが線維芽細胞を接着するのと対照的に、ラミニンは上皮細胞と神経細胞を接着した。これは後に、細胞側のレセプターが解析されるにつれ、どの細胞がどのレセプターを発現しているかの問題になり、上記の例外もたくさん見つかり、「フィブロネクチンが線維芽細胞で、ラミニンは上皮細胞と神経細胞」という類型化は意味をなさなくなった。 しかし、ラミニンは、フィブロネクチンに次ぐ2番目の細胞接着分子として意識され、フィブロネクチンの研究に有効だった考え方と実験手法が多用された。タンパク質分解酵素によるラミニン断片の細胞接着活性の検討、cDNA塩基配列決定と細胞接着モチーフ分析、有機合成ペプチドによる活性検定などである。お蔭で、ラミニンの細胞接着活性部位は急速に解明されていった。 驚いたことに、ラミニンには細胞接着部位が数カ所あった。以下、いくつかの細胞接着配列をアミノ酸1文字表記で示す。なお、これらの合成ペプチドは、細胞接着活性が弱いという難点がある。
構造
ヘテロ三量体構造
十字形モデル
cDNA塩基配列
細胞接着活性
YIGSR:最も有名になった配列で、β鎖のドメインIIIにある。アミノ酸番号929?933に当たるYIGSR(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg、チロシン‐イソロイシン‐グリシン‐セリン‐アルギニン)である。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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