この項目では、ギリシア神話に登場するリビュアの女怪について説明しています。その他の用法については「ラミアー (曖昧さ回避)」、「ラミア」をご覧ください。
ハーバート・ジェームズ・ドレイパーの1909年の絵画『ラミアー』。
ラミアーまたはラミア(古希: Λαμ?α, Lami?)は、ギリシア神話に登場する古代リビュアの女性で、ゼウスと通じたためにヘーラーによって子供を失い、その苦悩のあまり他人の子を殺す女怪と化した。眼球を取り出すことができるが、これはヘーラーに眠りを奪われた彼女にゼウスが与えた能力ともいわれる。「ラミア」は古くから子供が恐怖する名として、しつけの場で用いられた。
後の時代には、青年を誘惑して性の虜にしたあとこれを喰らう悪霊エンプーサの代名詞のひとつに使われた。誘惑のラミアーは、若者を喰らうのでヴァンパイアと比喩される。
他にもリビュア神話の人食いの女蛇の一族がラミアー類とされ、アポローンが都市アルゴスに差し向けた子供を喰らう怪物も、ラミアーの別称で呼ばれたり、体の一部が蛇だと記述される。 名前は「貪欲」を意味するラミュロス(古希: λαμυρ??)からきていると言う説がある。似た説としてはアリストパネースの傍注者の説で、「喉」や「食道」(古希: λαιμ??)が巨大であるゆえにそう付けられたという説明がある[2]。 ラミアーは、元々は古代リビュア(現今のリビアより広大である)の女性(あるいは女王[3])であったが、その美貌でゼウスに見初められた。結果、ゼウスの妻ヘーラーの怒りを買い、ゼウスとの間に産まれた子供を全て失い(あるいはみずから殺すように仕向けられ[6])、その悲痛から容姿は獣のように変りはて、他人の子を捕らえて殺すようになった[6][3]。 ヘーラーの報復はそれにとどまらず、ラミアーから眠りさえも奪い、子供を失った悲しみから常に逃れられないようにした。そこでゼウスは彼女が休めるよう、目を取り外せるようにしたと、古註では説明される[8]。ラミアーが目玉を取りだしたり容器に保管した等の記述は(経緯まで詳しくはないが)他所にも見られる[3][9]。 古註によれば、ベーロスと(その母)リビュエーとの間の娘とされる[8]。また、ポセイドーンの娘でシビュレーの母であるラミアー
語源
神話
詳細
ラミアーは、ゼウスによってマグナ・グラエキア(現今のイタリア)に連れていかれたという伝承があり、人食い巨人ライストリューゴーン族の都市ラモスの地名になったとも[8]、一族の女王に君臨したともされる[13]。
アリストパネース(前385年頃没)は、2作の喜劇の中で、この世で悪臭をはなつ三大のもののひとつとして「ラミアーの睾丸」を数えており、ゆえにラミアーは性別不詳などとも意見される[15]。ちなみにこのことは、17世紀のトップセル
(英語版)の動物誌のラミアーについての記述や挿絵にも踏襲される[16][18]。ギリシア人の生活の慣習として、母親たちは「ラミアー」の名を子供をたしなめるための脅し文句に使うこともあった。このことは紀元前1世紀頃にもすでに記されている[19]。子供が悪いことをすると「○○をするとラミアーが来るよ」と言う風に使われた。
この「悪い子の鬼」的な意味で同義語とされる悪霊の類には、モルモー、モルモリュケー、ゲロー
(英語版)等がある[20]。『スーダ辞典』の「モルモー(Μορμ?)」の項を引くと、モルモリュケーと同一とし、ラミアーとも呼ばれる恐ろしいと存在と定義している[21]。また古註には、ラミアーの単なる別名が「ゲロー」であると記される[13]。ラミアーの他にも、ゴルゴー、エピアルテース、モルモリュケーが怖がらせる存在であると、ストラボーン『地理誌』にも記される[22]。 紀元1世紀頃を境に[23]、ラミアーは子供を殺す一人の女怪ではなく、青年を誘惑して最後には喰らう悪霊たちの総称として描かれるようになった[23][24]。 代表例はピロストラトス著『テュアナのアポローニオス伝』(第4巻第25章)の挿話である。 女性になりすました一体のラミアー(俗称)に門弟[注 3]をたぶらかされた哲人アポローニオスは、その正体を暴露し、門弟を救った[26]。 この怪異の名称だが、まず悪霊(パスマ)の一種とされており[注 4]、哲人が門弟にいわく「そいつはエンプーサだ、周りではラミアーやらモルモリュケーやらと呼んでいる奴だ」とあるように、正しい呼称がエンプーサ、俗称がラミアー等とされる[28][29]。ラミアーは本来このような意味では用いられないとの指摘もある[30]。また、最後には彼女自身も自分がエンプーサという種類の悪霊であると認めている。挿話は、これが世間にいうアポローニオスによる「コリントスのラミアー」を退治したという風聞の全貌である、と締めくくられる[26]。 このラミアーは変身能力だけでなく、住まいまでも豪邸に見せかける幻影術を所持していたが[注 5]、二人の婚礼の席でアポローニオスが彼女の正体を宣言すると、豪奢な杯などが幻と消え、嘘が発覚した[26][31]。 また、哲人が書生に対して諭した台詞「おまえというやつは、蛇[注 6]なんぞに恋焦がれているのだ」は[32][26]、現代の読者からすれば比喩と捉えがちであるが、これは彼女が実際に蛇体であることの言及だと主張する研究書がある[33]。 英国ロマンス派の詩人キーツの『レイミア』はアポローニオス伝の話の再話であるが、キーツのレイミアははっきりと蛇体である[34][注 7]。 このラミアーは、その肉体を喰らうために青年を太らせていたのであり、「その血が新鮮で純粋」な美青年を狙って常習的に喰らっていた、と白状した[26]。これを現代風に言えば血を吸うヴァンパイアだと解釈する近代の参考書もある[36]。
淫乱な悪霊
アポローニオスのラミアー退治
蛇体
『鬼女のキス』(イソベル・リリアン・グローグ、1890年頃)ジョン・キーツの『レイミア』に影響を受け、ラミアーを半蛇身の女性として描写している。
血を好む