ラドン=ニコディムの定理
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数学におけるラドン=ニコディムの定理(ラドン=ニコディムのていり、: Radon?Nikodym theorem)は、測度論の分野における一結果で、ある可測空間 (X, Σ) が与えられたとき、(X, Σ) 上のある σ-有限測度(英語版) ν が別の (X, Σ) 上の σ-有限測度 μ に関して絶対連続であるなら、任意の可測部分集合 A ⊂ X に対して次を満たす可測函数  f  : X → [0, ∞) が存在することを述べた定理である: ν ( A ) = ∫ A f d μ {\displaystyle \nu (A)=\int _{A}f\,d\mu }

この函数  f  はラドン=ニコディム微分と呼ばれ、.mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}dν/dμ と表記される。

この定理の名は、1913年に空間 RN での特別な場合について証明を与えたヨハン・ラドンと、1930年に一般の場合の証明を与えたオットー・ニコディム(英語版)に由来する[1]。1936年にハンス・フロイデンタールは、この定理を特別な場合として含む、リース空間での一結果であるフロイデンタールのスペクトル定理を証明することによって、その結果の更なる一般化に成功した[2]

Y がバナッハ空間であり、ラドン=ニコディムの定理が Y に値を取る函数に対して同様に成り立つなら、Y はラドン=ニコディム性を備えると言われる。全てのヒルベルト空間はラドン=ニコディム性を備えている。
ラドン=ニコディム微分

上述の等式を満たす函数  f  は、 μ-零集合違いを除いて一意である。すなわち、同じ性質を満たす別の函数 g が存在するなら、μ に関してほとんど至るところで  f  = g が成り立つ。 f  は通常 dν/dμ と表記され、ラドン=ニコディム微分と呼ばれる。この表記と呼称は、この函数がある測度の別の測度に関する密度の変化率を表しているという意味で微分積分学における微分の類似物となっていることに由来する。同様の定理は、符号付複素測度に対しても証明することができる。すなわち、μ が非負の σ-有限測度で、ν が有限値の符号付あるいは複素測度で |ν。≪ μ を満たす(ν が μ に関して絶対連続である)なら、X 上の μ-可積分な実あるいは複素数値函数 g が存在して、すべての可測集合 A に対して次を満たす。 ν ( A ) = ∫ A g d μ . {\displaystyle \nu (A)=\int _{A}g\,d\mu .}
応用

この定理は確率論におけるアイデアを、実数上で定義される確率質量および確率密度から、任意の集合上で定義される確率測度へと拡張する上で非常に重要となる。このことは、ある確率測度を別のものへ変化させることが可能か、また可能であればどのようにできるか、という事実を示唆している。特に、ある確率変数確率密度関数は、ある基底測度(通常は連続型確率変数に対するルベーグ測度)に関する誘導測度 (induced measure) のラドン=ニコディム微分となる。それは例えば、確率測度の条件付期待値の存在を示す際に利用することができるが、これ自体が確率論における重要概念であり、条件付き確率はその特殊例に過ぎない。

その他の分野では、数理ファイナンスにおいてこの定理は広く用いられている。確率測度の変化はデリバティブの合理価格設定 (rational pricing) を行う上での基本であり、実際の確率をリスク中立確率に転換する上で用いられる。
性質

ν, μ および λ を同一の測度空間上の σ-有限測度とする。ν ≪ λ および μ ≪ λ(ν と μ は λ に関して
絶対連続)であるなら、次が成り立つ。
d ( ν + μ ) d λ = d ν d λ + d μ d λ λ -almost everywhere . {\displaystyle {\frac {d(\nu +\mu )}{d\lambda }}={\frac {d\nu }{d\lambda }}+{\frac {d\mu }{d\lambda }}\quad \lambda {\text{-almost everywhere}}.}

ν ≪ μ ≪ λ であるなら、次が成り立つ。
d ν d λ = d ν d μ d μ d λ λ -almost everywhere . {\displaystyle {\frac {d\nu }{d\lambda }}={\frac {d\nu }{d\mu }}{\frac {d\mu }{d\lambda }}\quad \lambda {\text{-almost everywhere}}.}

特に、μ ≪ ν かつ ν ≪ μ であるなら、次が成り立つ。
d μ d ν = ( d ν d μ ) − 1 ν -almost everywhere . {\displaystyle {\frac {d\mu }{d\nu }}=\left({\frac {d\nu }{d\mu }}\right)^{-1}\quad \nu {\text{-almost everywhere}}.}

μ ≪ λ であり、g が μ-可積分函数であるなら、次が成り立つ。
∫ X g d μ = ∫ X g d μ d λ d λ . {\displaystyle \int _{X}g\,d\mu =\int _{X}g{\frac {d\mu }{d\lambda }}\,d\lambda .}

ν が有限の符号付測度あるいは複素測度であるなら、次が成り立つ。
d 。 ν 。 d μ = 。 d ν d μ 。 . {\displaystyle {d|\nu 。\over d\mu }=\left|{d\nu \over d\mu }\right|.}
さらなる応用
情報ダイバージェンス

μ および ν は X 上の測度で、μ ≪ ν が成り立つものとする。

μ から ν への
カルバック・ライブラー情報量は、次で定義される。
D K L ( μ ‖ ν ) = ∫ X log ⁡ ( d μ d ν ) d μ . {\displaystyle D_{\mathrm {KL} }(\mu \|\nu )=\int _{X}\log \left({\frac {d\mu }{d\nu }}\right)\;d\mu .}

α > 0, α ≠ 1 に対し、μ から ν への位数 α のレニーダイバージェンス(英語版)は、次で定義される。
D α ( μ ‖ ν ) = 1 α − 1 log ⁡ ( ∫ X ( d μ d ν ) α − 1 d μ ) . {\displaystyle D_{\alpha }(\mu \|\nu )={\frac {1}{\alpha -1}}\log \left(\int _{X}\left({\frac {d\mu }{d\nu }}\right)^{\alpha -1}\;d\mu \right).}
σ-有限性の仮定

ラドン=ニコディムの定理では、ν の変化の割合を計算するための測度 μ は σ-有限であると仮定されていた。ここでは、その μ が σ-有限でないときにはラドン=ニコディムの定理が成立しないことを示す。

実数直線上のボレル完全加法族を考える。あるボレル集合 A の数え上げ測度 μ を、A が有限である場合はその元の数、そうでない場合は ∞ で定義する。実際に μ が測度であることは確かめることが出来る。しかし、すべてのボレル集合が有限集合の可算個の合併であるとは限らないので、それは σ-有限ではない。ν をこのボレル加法族上の通常のルベーグ測度とする。このとき、ν は μ に関して絶対連続である。なぜなら、ある集合 A に対して μ(A) = 0 となるのは A が空集合であるときのみであり、そのときは ν(A) もゼロとなるからである。

ラドン=ニコディムの定理が成立するものと仮定する。すなわち、ある可測函数  f  に対して ν ( A ) = ∫ A f d μ {\displaystyle \nu (A)=\int _{A}f\,d\mu }


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