ラテン語学校
[Wikipedia|▼Menu]

ラテン語学校(ラテンごがっこう、英語: Latin school)は、14世紀から16世紀にかけてのヨーロッパ(特にカトリック圏)における中等教育のための学校で、イングランドにおけるグラマースクールに相当する。入学が許されていたのは男子のみで、女子はアカデミックな教育は必要ないとされていたためだった。教育の重点が置かれたのは、その名の通りラテン語の修得であった。ラテン語学校における教育においては、複雑なラテン語文法の学習が重視され、特に初期においては中世ラテン語がその対象となっていた。文法学は、トリウィウム(三学)の中でもリベラル・アーツ(自由七科)の中でも最も基礎的な学科であり、文法学を象徴する図像は、教師生徒の懲罰に用いるカンバ枝むちであった。ラテン語学校は、生徒に大学への準備をさせるところであり、中流階級の生徒たちには社会的上昇を可能にする途でもあった。このため、平民の子弟がラテン語学校に学ぶことも珍しくなく、その多くは聖職を目指す者であった[1]。14世紀にはヨーロッパの各地にラテン語学校が存在し、また、平信徒の子弟にも門戸が開かれていたが、後に教会は、いずれ聖職者となる者だけを教育する目的でラテン語学校を運営するようになった[2]1450年ころになると、ラテン語学校はルネサンス人文主義の影響を受けるようになる。イングランドではそのようにはなかったが、一部の国々では、大学や一部のカトリック教会がラテン語よりも各国語を重視するようになるにつれて、ラテン語学校は人気を失っていった[3]
歴史
中世における背景

ヨーロッパ中世世界においては、文法はあらゆる学問が依って立つ基礎であると考えられていた[4]グラマースクール(文法学校)やラテン・スクール(ラテン語学校)では、ラテン語を使ってラテン語を教えていた[3]。ほとんどすべての学問、大部分の法曹や行政関係の業務で、ラテン語が使用されており、もちろん教会の典礼もラテン語で行なわれていた。平信徒の中にも、正式に教えられたことがなくても、ラテン語を少々話したり、書いたりする者がいた[3]。裁判においても、ラテン語を解さない当事者にとって不公正であったにもかかわらず、訴訟手続きには全てラテン語が用いられ、とりわけ教会裁判ではそれが著しかった[3]

ラテン語学校の生徒は、多くの場合、5年ほど在学することになったが、3年生ともなるとラテン語の文法を「十分に理解した」とされて、下級生や劣等生の指導にあたる教師の補助を務めることがよくあった[5]。7歳の少年であれば 、入学年齢に達していると見なされ、入学そのものが、幼い子ども(early childhood)から少年(boyhood)への成長と見なされた。しかし、より年長の男性でも、授業料を支払いさえすれば、入学して学ぶことができた[6]。生徒たちは、通常は十代後半には学修を終えたが、聖職に進むことを望む者は24歳になって叙任されるまで在学して待機しなければならなかった。在学年数には通常は一定の制限があったが、例えば、その学校の創設者の親族である場合などに延長が認められることもあった[7]

ラテン語学校の運営は、委員会に委ねられており、委員会は教師を雇って賃金を支払った。この種の学校に対する町の行政当局の監督権限は、通常はごく限られたものであった。どこに所属しているわけでもないフリーランスのラテン語教師が、自ら学校を開き、授業料を支払う者なら誰にでもラテン語を教えることもよくあった。こうしたフリーランスの教師による学校は、教師の自宅で教えているのが通常であった。このほか、家庭教師として生徒の家に住み込んだり、毎日通って教える者もいた[8]。こうして学ぶ生徒は、小作農の子弟からエリートまで幅広い階層にわたっていた。もし、農奴の子が学校へ行きたいと望むようなことがあれば、その子の労働価値に見合うだけの補償金が主人に支払われることになっており、主人の承認がなければ学校には行けなかった[9]
ルネサンスから近世における受容

ルネサンスによって、知的、政治的、経済的、社会的な諸々の革新がヨーロッパで起こると、中世以来のラテン語学校に対する人々の態度にも変化が生じた。ルネサンス期の人文主義者たちは、中世ラテン語を「野蛮な隠語」だとして批判した[10]オランダの人文主義者デシデリウス・エラスムス1467年 - 1563年)は、ラテン語の教え方が悪いとして教会を非難した。エラスムスはローマ・カトリック教会内部における改革のためには、古典の学修がなされなければならないと主張した[11]。人文主義者たちの影響力は大きく、イタリア各地の領邦国家の住民たちは、新たな形態のラテン語教育を求めて声を上げ始めた [12]。こうして、ラテン語古典文学歴史修辞弁証法自然哲学算数に、少々の中世ラテン語古典ギリシア語、近代諸語などを教える様々な形態の学校が、登場するようになった。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:47 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef