ラストベルト
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ラストベルトの一帯

ラストベルト(英語: Rust Belt、銹錆地帯)とは、アメリカ合衆国中西部地域と大西洋岸中部地域の一部に渡る、脱工業化が進んでいる地帯を表現する呼称である。

「rust」は「」(さび)という意味で、使われなくなった工場機械を表現している。この地帯はボスウォッシュ回廊(ボストンとワシントンを結ぶ一帯)の西に始まり、そこから西方にウィスコンシン州東部までと定義できる。この領域の南はアパラチア山脈炭田地帯であり、北は五大湖で、カナダオンタリオ州の工業地帯を含んでいる。

ラストベルトは、アメリカ経済の重工業製造業の重要な部分を形成している。しかし、この地域の多くの都市で製造職の外部委託化が進み、酷い不景気に落ちて地域ごと多角化を強いる事になった。中でも自動車産業の回復が急務となっている。

この地域で頭角を現している技術としては、液体水素燃料電池の開発、ナノテクノロジーバイオテクノロジー情報技術および認識技術がある。この地域は技術職の重要な供給源である。
地理的な定義

製造業は国中に存在してはいるが、この領域には大まかに以下のように定義されている。インディアナ州オハイオ州の北部、ミシガン州ロウアー半島南部、ウィスコンシン州ミシガン湖岸特にミルウォーキー周辺、シカゴイリノイ州北東部、ニューヨーク州北部特にバッファロー周辺、ニューヨーク市とニュージャージー州北部、ペンシルベニア州の大半、ウエストバージニア州の北部特に北部ペンハンドルと呼ばれる地域が入っている。重要な経済特性を分かち持つメリーランド州ボルティモアデラウェア州ウィルミントンなど他の都市を含めることもある。セントルイスは製造業の中心と考えられるが、周りのミズーリ州やイリノイ州は領域には入らない[1]

隣接するカナダのオンタリオ州で特に南部と南西部を含めることがあり、国際的次元の考え方をなしている。この地域にはハミルトンセントキャサリンズおよびウインザーのような工業化の進んだ都市がある。
歴史

この地域は、その場所故に製造業と重工業の中心となってきた。資源である石炭はウエストバージニア州南部、テネシー州およびケンタッキー州やペンシルベニア州西部と北東部で産出された。19世紀には国外からの移民によって人口の爆発的な増加をみた。また五大湖の水運も使いやすく、初期にはエリー運河、後には鉄道東海岸と繋がっていた。この領域は合衆国でも最初に鉄道が敷設された地域の一つであり、ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道・アレゲニー陸路鉄道(英語版)は最も初期のものである。石炭、鉄鉱石などの原材料は周りの地域から船に積まれて鉄鋼業の中心となったピッツバーグなどの都市に送られた。シンシナティは石炭産業の中心地として栄えた。シカゴ、クリーブランド、バッファロー、デトロイトおよびトレドは五大湖の主要港として栄え、鉄道で輸送可能な地域への中継点となった。

1960年代以降、グローバリゼーションと世界的自由貿易合意の拡大は、アメリカ合衆国の労働者には悪条件であった。低賃金で生産できる国との厳しい競争で開発途上国との貿易が拡大した。1970年から1971年の不況に始まって、生産が国外に移転され合衆国内の製造職の数が減り始めた。国内の仕事はサービス産業に傾くようになり、また新しい種類の製造職が頭角を現してきた。

アメリカの製造業の雇用数減退は北西部や中西部での工場の廃棄につながり、これを強調する「ラストベルト」(銹錆地帯)という別名が付いた。製造業の雇用は減少したが、アメリカの生産量は確実に増加している。2000年以降は貿易用品の生産量は減少しているためにある意味で貿易問題とはなっているものの、アメリカは世界でも優れた生産地域の地位は確保している。アメリカの製造業は労働集約型の生産工程では低賃金の国に負けるのでこの領域から離れ、高付加価値製品の生産と先進的無人化生産方式に移行している。その困難さにもかかわらずラストベルトの領域はアメリカでも輸出量で一番の地域である。

経済の仕組みの変遷は、1985年に始まった対中国貿易赤字を始め、日本台湾および大韓民国のようなアジア諸国に対しても赤字額が増えている。このような合衆国内での展開に対して反グローバリゼーション抗議を含め、国内の政治的反論がある。自由貿易の反対論者は、外国の労働者に利益をもたらす一方で、アメリカの労働者に押し付けられた困難な経済状態を非難している。自由貿易の支持者は低賃金の開発途上国に労働基準や環境基準が無いことが、不公平競争であり外国の労働者や住民にとって有害であると批判している。


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